強者達と見知らぬ罪状 13

監獄都市ボルガノフから西に300キロある丘陵地、そこではボルガノフ地下500メートルの場所にある凶悪クリミナル度数5000以上の獄卒達が暮らす場所、通称『フロア3』の囚人達が特別刑務作業を行なっていた。


「おい、どうしたんだよ急に監獄の方なんか見てボーっとしやがって。

久しぶりの外で頭おかしくなったのか?それとも誰か殺したいやつでもいたか?」


パスタと呼ばれたその男は壁のような傾斜の岩山のてっぺんに座りボルガノフがある東側を見ていた。


「いや、ボルガノフの手前だ。今とんでもない魔力の奔流を感じたんだ。確かあそこらへんは今フロア5の囚人が特別刑務作業をしている筈なんだけど…」


「じゃあなんだ?フロア5に腕輪をつけながらこの距離で探知できるほどの魔法を使える奴がいるって事か?バカバカしい。刑務官の誰かが囚人を痛ぶる為に魔法を使ったんだろ」


岩山を登り終わりパスタの隣に立ったその男はショウジ達が戦ったスパイクハウンドに匹敵するほどの大きさの大男だった。


「それこそ無いよギガンテス。フロア5担当の刑務官は基本実力も無いくせに弱った囚人を虐めるカスばかりだ。そんな奴らの中にここまでの魔力を持った奴がいるとは考えにくい。

まだフロア5に監獄側も気づいていないような大物がいる可能性がある。是非とも欲しいね」


そう言ってパスタは立つと軽快なステップで下が見えぬ程の高さの崖をひょひょいと駆け降りる。

それと共にギガンテスと呼ばれた巨人族の男も勢いをつけてジャンプすると重力に身を任せ崖を一直線に落下した。

二人の移動速度はほぼ同等であった。


「じゃ、泣く子も囚人も黙るあのさんがフロア5に降臨するってことか?」


「ハハっ可能性としてはあるねー」


パスタ・マシーン


その名前を裏社会で知らぬ者はほとんどいない。

痩せ細った身体は一見頼りなく、鋼のような筋肉や巨躯を誇る典型的な「強者」の姿とはほど遠い。

しかし、彼の前ではどんな猛者も無意識に背筋を正し、言葉を選ぶ。

身長は高くも低くもない。男性のようにも女性のようにも見える、不思議な空気を纏っている。

年季の入った木材のような赤褐色の髪。

淡く光を吸い込むような灰色の瞳。


笑えば、少年のように無邪気で親しみやすく感じる。

黙っていれば、背筋が凍るほどの威圧感を放つ。

彼の声は人を脳髄を直接震わされるような感覚に陥らせ、話しかけられると心の奥底に隠していた秘密や恐怖を自分から語ってしまう。


かつて300人以上の殺し屋を率いて裏社会を席巻し、世界全体の暗殺の95%のシェアを誇った男。

それが彼だった。


「よっ、と」


パスタが弾力のある柔らかな大地に着地すると同時に、少し離れた場所でギガンテスが岩の地面にクレーターを形成すると共に着地した。


「危ねえ危ねえ、もう少しで仲間と苦労して狩ったせっかくの獲物を爆散させちまうところだったぜ」


「ハハハ、ホント勘弁してよ。『ギガンテスの管理不足だ』って皆んなから怒られるのは僕なんだから。

さて、解体しよう。刑務官達に土産を持っていかなくちゃね」


そう言って懐からナイフを取り出したパスタの足元には、魔物最強種の一つであるレッドドラゴンの死体が転がっていた。


◆◆◆


「おい、聞いているのかミレミア!」


「は、はい!」


同時刻、ボルガノフの中央に位置する監獄のどの建物より高く、監獄の最深淵まで続く512階建ての刑務官在所兼、監視塔。

凶悪クリミナル度数が一定基準に達した囚人を他の階へと運ぶ通路でもあるこの塔のの一個上で、副監獄長を筆頭とした上級刑務官達の定例会議が行われていた。


「俺の報告をアホ面でフル無視した挙句、明後日の方向を見るとは…そんなに俺の話はつまらないか!」


眉間に皺を寄せ青筋を立てた中年男の刑務官が、上の空で自身の話を聞いていた見た目が18、9歳程のハーフエルフの女の刑務官に怒鳴りつけた。

地上にいる刑務官とは違い全員白色の詰襟を着用し、左腕に金が細部まであしらわれた紺色の模様つき腕章を着け、式典で使われるようなステッキを持っている。


「い、いえ!そんなことありません!

確かに副監獄長の話はいつものように今回はそれでボーっとしてた訳じゃありません!上の方がなんか…」


と、はっきり言っているではないか!ミレミア、貴様立場が上の私にその態度はなんだぁ!」


「ひいぃぃい!ごめんなさーーい!!」


定例会議恒例の追いかけっこが始まる。

皆気にすらしておらず、会議室を走り回る二人を無視しながら会議を進めていった。


「はあ、まったくこの二人は…。

しかし珍しいね、いつも会議という会議を爆睡してるミレミアが起きてるなんて…まあ上の空だったらどっちにしろ一緒か」


同僚の独り言は会議室の喧騒にもみ消された。


◆◆◆


「はあはあ…なんとか帰って来れた…」


時刻は20:30。

ショウジは自分の監房があるフロア5の門を潜り抜けた。


ショウジが意識を失った後、ヴィクトルが自身で仕留めたスパイクハウンドから討伐の証である棘を二本採取しそれによってショウジとヴィクトルの二人とも特別刑務作業をパスしていた。(ショウジの倒したスパイクハウンドは皆消し炭になっていた為採取ができなかった)


途中意識不明のショウジを背負ったヴィクトルが3時間森で迷子になる、

ショウジの凶悪クリミナル度数が異常に上がっていることが刑務官にバレかけるなどのハプニングはあったものの、特になんのお咎めも無く刑務作業は終了した。

監房に戻って来れた囚人は当初の半分以下であった。


「さて、どうしようか」


ショウジは残り30分程の自由時間を房の外で過ごすことにした。

ヴィクトルが乱れた魔力回路を修復したいからという理由で房で一人にさせて欲しいとショウジに頼んできたのだ。

何故か頬の端が赤くなっていたことに疑問に感じたショウジだったが、疲れたからだろうと自分の中で早々に結論をつけ、房を去った。


「そういえば俺まだ自分の罪状知らないじゃん」


そのことを思い出したショウジはボルガノフの囚人達の罪状と懲役年数が貼られた掲示板へと向かった。


「ええと…」


この世界の言語は文字の形に関して言えばショウジの知り得ぬものであったが、文法と発音と文字の種類が日本語と一緒であった。そして数字に関しては日本で一般的に使用されるアラビア数字がそのまま使われていた。

つまりひらがなに対応する文字さえ覚えてしまえば後はあとはめて読むだけである。

ショウジは現在「か」と「た」と「り」と「し」と「う」に対応する文字は知っている為それで『カタギリショウジ』の文字列を指で探す。


「あった…多分これだ。そして文字数的にこれが懲役と罪状か……うーん分からん。

普通に異世界人に翻訳してもらおう」


ショウジは近くにいた花壇に水をやっている老齢の囚人に自分の罪状を読んでもらうことにした。

ちなみにこの老人、囚人番号8860000084は六十年前に王国の首都のど真ん中で王の凱旋中に裸踊りをした罪で捕まった囚人である。

もちろんそんなことは来て2日目のショウジは知らない。


「ええよええよ…えっとこれを読めばいいんかの?」


老人は腰を曲げながらショウジが指差す場所の文字を口に出した。


「えーショウジカタギリ…変な名前じゃのう。

罪状『カトリーナ王国国家転覆罪』、

懲役102550、と書いてあるぞい」


「………………………………………………は?」


(国家、え?国家転覆、え?カトリーナ…どこ?というか、え?じゅうまんにせんごひゃくごじゅうねん?え?10ま、え?え?え?え?)


「余程こやつ悪いことをしたんじゃのう…そんなことよりお主、中々にいい身体をしとるぞ。

特別にわしの究極の裸踊りの極意を……」


老人の話はショウジの耳には入ってこない。

消灯時間となり刑務官に殴られるまで、ショウジはただ茫然とそこに立ち尽くしていた。

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