はじめてのまものたいじ 10
森の中はショウジのいた元の世界の熱帯雨林のような植生をしていた。
木が屋根のように生い茂っている為気温はそれほど高くなく、ショウジ達も初めは順調にスパイクハウンドが出没するエリアへと足を進めていた。
しかし、時間が過ぎ太陽が上に登ってくると気温はみるみる上昇していき、高い湿度との相乗効果で森の中は次第にサウナ状態と化していた。
「ハァ…ハァ…」
ショウジは朝昼兼用で配られた一枚の干し肉を噛みながら、監獄から支給された粗末な剣を杖のように使い必死に周りの囚人についていく。
異世界人は元から身体のつくりが違うのか疲れている様子はない。
ショウジはふとヴィクトルのことを思い出す。
最初の広場でヴィクトルはショウジ達が出発する前に別方向へと歩き出していた。
この刑務作業に参加している囚人の中で唯一の知り合いだった為心細い。
仲がいいかと言われれば話は別だが。
ぬかるんだ地面といつ魔物が襲って来るのか分からない恐怖が、順調にショウジの体力と精神力を削っていた。
◆◆◆
「着いた、ここだぜ……」
先頭を歩いていた屈強な男が歩みを止め、そう言った。根拠は目の前に広がっていた。
「ウッ……」
死屍累々とした霧のかかる骨の大地がショウジの目の前に広がっていた。普通の動物、人間、そして魔物まで、無惨に食い散らかされ、放置されている。
人骨の一部にはショウジ達が着ている囚人服と同じ色の布切れがついていた。
それが彼らの運命の暗示かのように。
「よしお前らよく聞け、俺は元冒険者だ。スパイクハウンドとも戦ったこともある。俺の作戦通りに動けば安全に狩れるから俺の言うことを聞くんだ。いいな?
この食い散らかった骨の残骸はスパイクハウンドの縄張りの印だ、今は居ねえがじきにここにやって来る。
この縄張りの大きさ的に一匹分だがスパイクハウンドの首の棘は一体でも10個以上はある、狩れば後は俺達で山分けしてもお釣りがくるぜ。
だからまずこの骨の山に俺が隠れて不意打ちを仕掛ける。俺が初撃を叩き込んだら木の影に隠れていたお前らが一斉にトドメを刺すんだ。
俺が今から人の臭いと気配を消す魔法をかけるから並んで全員後ろ向け」
先頭を歩いていた男の言葉に従うように、囚人達は一列に並び背中を向けた。
疲れていたショウジは特に何も考えもせず、遅れて列の右端へと並ぶ。
色々と考えるのは面倒くさいし辛いから。
「魔法がかかりにくいから魔力のガードを解けよ」
彼等は言葉通りに身体に纏っていた魔力のガードを解除した。
一方ショウジは魔力ガードなど初めからしていない為、一応それっぽい動きを真似てやり過ごす。
提案した本人が一番のリスクを負う作戦の為、ショウジを含め皆、男の言葉になんの疑問も持たなかった。
が、ここはボルガノフである。
ザシュ——
薄暗い森に鈍い音が響いた。
「え?」
突如として力を失った足にショウジは訳も分からず前に突っ伏した。
直後ショウジを襲ったのは今まで感じたことの無いレベルの鋭い痛みであった。
「ア゛アッ…!」
「ブッ…プハハハ!!まさかここまで馬鹿だとは思わなかったぜ!なんの疑いもなく素直にガードを解くとはなぁ!」
あまりの痛さにショウジはまともに声も出せず、涙を浮かべ、歯を食いしばりながら痛みを逃そうと地面をもがき引っ掻く。
血に塗れた剣を持ち高らかに笑う男を除いた他の囚人全員が脚の腱を彼に切られ、その場に血をドクドクと流しながら倒れていた。
「スパイクハウンドが何に一番惹かれるか知ってるか?人の生き血だよ。お前らはまんまとエサになってくれたって訳だ。
おおっと、
そもそもボルガノフにいる時点でただの冒険者な訳ねえだろ。
俺はシャバにいた頃、初心者の冒険者パーティに教える名目で入ってはダンジョンの罠にわざと引っ掛けてソイツらが泣き叫びながら死ぬのを見るのが趣味だったんだ。
収監された時は絶望したが、まさかボルガノフにこんなイベントがあると知った時は驚きだったぜ!
冥土の土産に教えてやる。ボルガノフの囚人に求められるのは純粋な強さと狡猾さ。
お前らはその両方を満たしてねえ、シューマイのグリンピース以下の無駄な存在なんだよ。
さて、俺はこのまま木に登ってお前らが叫びながら喰われていく様を上からご鑑賞といこうか!」
男はそう言い残すと近くにあった高さ10メートル程の太い大樹に手慣れた手つきで登っていった。
するとそれとほぼ同時に木陰と霧の闇の中からオオカミ型の魔物がゆっくりと現れた。
悪夢が始まった。
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