転移後即懲役10万年、長所は魔力が無限なことです。
水車小屋
獄中ライフのはじまり編
平和な日々の終わり、波乱の日々の始まり
「学校に行け」
父親の声が部屋のドア越しに響く。
「将来どうするつもりなの?
周りの子はもうすぐ受験なのよ?
就職するならするなりに…」
母親の黄色い声が耳に刺さる。
答えはいつも同じだ。
「……うるさい」
ベッドに座りながら少年――片桐 ショウジは、暗く閉ざされた自室で深いため息をついた。高校二年生。けれど、学校には一年以上行っていない。きっかけは些細なことだった。クラスメイトに笑われた。友人が去っていった。先生が見て見ぬふりをした。
YAH○○知恵袋に書けば『とっと学校行け』と一蹴されるような要因。
されど彼の足がこの一年学校に向かうことはなかった。
「俺なんて、いなくなればいいんだ」
数百回目、されど何も生み出さない自己嫌悪を穴の空いた壁に向かって呟く。返ってくる言葉はない。
いくら自室で時が止まった気になっていても、現実は非情に流れていく。
姉は先月結婚し、弟は県内で一、二を争う進学校に合格したというのをショウジは階下から聞こえる祝いの声と自身を憂う言葉と共に耳にしていた。
「あーあ終わらねえかなこの世界」
そう吐き捨てながらショウジは寝転んだ。
酷い眠気に襲われたのだ。
(起きたばっかだってのに…体調悪いのか?)
そのまま急速に彼は意識を失った。
◆◆◆
目を覚ますと、ショウジは見知らぬ場所にいた。
「……え?」
地面は石畳、空はどんよりと曇っている。周囲には見たこともない異形の建物が立ち並んでいた。まるでファンタジーの世界のような光景。しかし、ショウジはすぐに違和感に気付く。
「……手、縛られてる?」
部屋着のまま両手は粗末な縄で縛られ、足元には鎖。
ショウジにマゾの性質があれば喜んだだろうが、残念ながら彼にその趣味はない。
後ろを振り向けば、同じように縛られた人々が列をなしている。目つきの悪い兵士のような者たちが、無言で彼らを監視している。
「おい、歩け」
ドスの効いた声が背後から飛ぶ。ショウジは棒のようなもので突かれ、鎖で足を自由に動かせず顔面から地面に倒れ込んだ。
「痛ッ……!?」
「さっさと立て。監獄送りのクズ共が」
監獄――?
ショウジは混乱していた。学校にも行かず、引きこもっていたはずの自分が、なぜか異世界の監獄送りにされている。まるで小説や漫画のような展開だが、痛みだけはリアルだった。
「俺、何か悪いこと……」
「喋るな。罪人風情が」
言葉を遮られ、ショウジは再び突き飛ばされた。そのまま彼は、異世界の大監獄へと足を踏み入れることとなる。彼の奇妙な人生の始まりだった。
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