ミラステ!〜Vtuberスター発掘オーディションGirl's Edition vol.1〜

刻露清秀

半数が脱落⁈ 公開動画審査を突破せよ!

 配信画面には、次々と切り替わる候補者たちの自己紹介が映っていた。番号順に進むオーディションは、すでに三十人目を超えている。どの動画もおよそ一分程度で区切られ、次々と切り替わっていく様子は、流れ作業そのもの。最初は盛り上がっていたコメント欄も、参加者が増えるにつれ、反応が薄くなり、流れる文字数も減ってきている。


 瀬戸せと愛津まなつ、Vtuber名・藍瀬あいせアイラは、時計を気にしながら配信を見ていた。自分の番まで、あと十分ほどだ。


「異世界からやってきた白猫メイド。夏木ここにゃだにゃん!」


 アニメから飛び出してきたような声は、これだけの人数の中でも印象に残る可愛らしさだった。審査員との短いやり取りも、堂々としている。


 愛津は息を飲んだ。自分が準備した自己紹介動画が急に色褪せて見える。


 ――落ち着いて。私は私らしくやるしかないんだから。


 このオーディションでは、ゲームのキャラクリエイトのように、自分でアバターを作成する。彼女のアバターは派手さとは無縁だった。濃い青の髪をシンプルにおさげに結い、赤いアンダーリムのメガネをかけたデザイン。奇抜な設定はないけれど、それでも一つひとつ、好きなものを詰め込んだ、『自分らしい』と思える姿。


「四十三番、準備をお願いします」


 スタッフから声がかかると、愛津の心臓が跳ねた。深呼吸を一つして、顔を上げる。


「自己紹介動画が流れ終わったら、審査員の方からお話があります。マイクテストを済ませておいてください」


 愛津は小さくうなずいた。緊張が募る。


「三、二、一」


 スタッフの合図で、用意した動画が流れる。


「皆さん、初めまして。藍瀬アイラです!」


 モニターから流れる声は、際立って可愛いわけではなかったけれど、何度も撮り直した甲斐あって、滑舌も良く堂々と話しているように聞こえる。


「今日は、私の得意な歌を少しだけ披露させていただきます」


 彼女が選んだのは、かつて憧れたVtuberが歌っていたバラードの一節。メロディが進むごとに、次第に心が軽くなる気がした。


 カメラの向こうに誰がいるのかなんてわからない。けれど、この声が誰かの耳に届いて、少しでも心に残ってくれれば――。


「藍瀬さんはなぜこのオーディションに応募したんですか?」

「あ、憧れのVtuberさんがいて、その人みたいになりたくて! あ、それで」

「なるほどね、ありがとうございました」


 審査員からの反応は、良いとはいえないものだったが、藍瀬アイラの出番は、大きな失敗なく、終了した。


※※※


 ミラステ!〜Vtuberスター発掘オーディションGirl's Edition vol.1〜は、その名前の通り、女性Vtuberとして活躍するスターの原石を見つけるためのオーディション番組である。オーディションを勝ち抜いた五人は、株式会社hook-up所属のVtuberグループとしてデビューが決まっている。


 株式会社hook-upは設立経緯が複雑であり、アンチが多い企業であるが、レッドオーシャンと言われて久しい企業Vtuber業界において一定の知名度を誇る。ミラステも応募総数が三千人を超えている。


 その三千人の中から、動画・書類審査と、三回の面接を突破した百人が『候補者』だ。初回は公式チャンネルで、事前に用意した一分間の自己アピール動画と、審査員とのやり取りが生配信される。視聴者は特設サイトで、自分が好きだと思った五名に投票し、次回の出演者が決まる。初回はもっとも多くの候補者が脱落する。次に進むには、上位五十位までに残る必要があるからだ。


 つまり、半数の参加者は、この公開動画審査で脱落する。


 愛津はモニターの前でため息を吐いた。先ほどの審査は、正直なところ手応えがなかった。動画はそこそこクオリティの高いものを作れた自信があるが、質問への返答は、凡庸なうえにしどろもどろになってしまった。


「なぜ企業Vtuberになろうと思ったんですか?」

「憧れのVtuberがいるからです」


 今活躍しているほとんどのVtuberがそうだろう。愛津は机に飾っているアクリルスタンドを眺めた。憧れの彼女はもう、業界を去ってしまった。それでも、憧れを捨てたくなかった。


 二十七歳の愛津は、RealTubeでのチャンネル登録者にあたるサポーター数一千人、平均同時接続数(同接)は一人から二人の配信者である。歌配信がメインだが、雑談やゲーム配信も行っている。収益では生活ができないため、近所の本屋でアルバイトをしている。


 一度は就職し、配信は趣味程度にする予定だったが、職場に馴染めず退職してしまい、非正規雇用で職を転々とするうち、自分には配信業が向いていると思った。だが現実は厳しく、数字はなかなか伸びない。


 投票サイトは怖くて見ることができず、公式から与えられたアカウントで番組を見てくれた視聴者に感謝だけ投稿すると、愛津は眠りについた。


 結果発表の日。愛津は、公式サイトの結果発表ページを何度も開こうとしては閉じ、を繰り返していた。アルバイトの休憩時間なので、あまり時間はない。スマートフォンの画面が汗ばんだ指で曇る。


「見るだけ、見るだけだから。」


 小さく呟いて意を決し、画面を開いた。目に飛び込んできたのは、投票順位一覧のページだ。


 緊張でスクロールする指が震える。名前が、ない。下に進むほど焦りは募り、心臓が痛いほど速くなる。


「あった……!」


 目の端に『藍瀬アイラ』という名前が映ったのは、三十八番目のところだった。ファイナリストは十人。まだ道のりは遠い。


 ――でも残った。私、まだ続けられるんだ……!


 夢中で画面を見つめるうちに、頬を伝う涙に気づく。慌てて拭いながら、心の中で、憧れの彼女に語りかける。


「見ててね。ここから、もっと上に行くから。必ず、デビューするから」

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