遠慮の必要がない関係

遠慮がなくなった2人

「あ、真夜君!」

「あぁ、おはよう、ミミ」

「うん! おはようだよ!!」


 月は変わり、2月になった。新年を迎えたと言うのに、もう1ヶ月経ったんだなと、おっさんの様な思考をする。まぁ1月は色々あったし、そんなもんかなと思う。


 それにしても今日のミミは偉く元気だな。何かいい事でもあったのだろうか。


「何だか、今日は偉く上機嫌だな」

「そうかなぁ。でもそれは、きっと真夜君に会えたからだね!!」

「お、おう……」

「何々? もしかして、照れてる?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「そこは照れる所だよぉ!」

「…………」



 なんだろう。よく分からんが、ミミがグイグイ来る。もしや、俺と真昼の間に何かあったと感じたか?



「なぁ、ミミ」

「なぁにぃ?」

「真昼から、のか?」


 そう問うと、ミミの視線はスゥーと俺から外れるので、真昼に連絡して金曜日の件を聞いた、もしくは真昼から話したのだろうと想像が付いた。


「真昼と何の話をしたんだ?」

「それは真夜君だとしても言えないよ! 女の子だけの秘密!」

「秘密と来たか」


 それはそれで気になるが、まぁ無理に聞くのも悪いなと思い、ミミとそのまま日課の会話に勤しむ事にした。


「そういえば、まひる遅いねー」

「……そう、だな」

「あれあれぇ? 真夜君、どうしたの?」


 あのデートの1件で変に真昼を意識してしまっている。まともに真昼の顔が見られるか、不安だ。


 ミミは、そんな俺を見てニヤニヤしている。もしかしなくても、真昼から……。


「別に、なんでもない」

「あははは! 真夜君が照れてるぅ」

「煩い」

「ねぇねぇ、真夜君!」

「ん?」

!」

「!?」



 ミミが突然そんな事を言い出した。いきなり大好きなんて言うから、心臓に悪い。



「……いきなりどうした」

「自分の気持ちをもっとはっきり伝えようって決めたの! だからね、真夜君。好き好き、大好き!」



──ズキン



 満面の笑みで俺にそう伝えるミミは、一層輝いて見える。まさに恋する女の子だ。


 だけど俺は──。



 目を閉じ、考える。


 真昼はまだ来ていない。

 だとすれば、今が絶好のチャンス。

 伝えるなら、放課後。

 胸は苦しいが、それでも言わなければならない。



 そうして、ゆっくり開けミミを見つめる。そこできちんと伝えるべき言葉を言う為に。



「……なぁミミ、今日の──「ダメだよ真夜君」」


 優しい笑みと共に、ミミは俺の言葉を遮る。



からの受け売りなんだけどね、確かに今はそうかもしれない。でも今じゃなくて、明日は? 明後日は? そんなの誰も知らないんだよ」


「それは、…………辛くなるだけだぞ」


「真夜君が私に惚れればいいだけだから、大丈夫! だからね、私はよ!」


 笑顔で俺にそう宣言する姿を見て、なと思った。今のミミは本当に強い。



「……分かった。さっき言いかけた事は忘れてくれ。だがな、ぞ」

「うん、分かってるよ。ふふっ、覚悟してよね!」

「あぁ」



 ズキンと胸の奥が痛い。分かっている。先延ばしにすればするだけ、ミミが辛くなるだけだ。


 だけど今こうして、全力で俺の心を変えようと、ひたむきに走り続けるミミの気持ちを尊重したいと思ってしまった。



(どうするのが、1番の最良なんだろうな……)


 改めて、それを考える必要があると思った。



***



 その後は、どうするのが最良なのかと考えつつ、ミミと普段と変わらない日常を過ごしているが、本当に今日は来るのが遅いなと思った。



「おはよう!」



 そう思ってた矢先、ガラガラと教室のドアが開く音と共に、元気な挨拶をしながら真昼が教室に入ってきた。


 その声に思わずビクンと反応した。


「あ、おはよう、まひる! 遅かったねー」

「おはよう、みーちゃん! ……それにシンヤも、おはよう!!」

「あ、あぁ。おはよう、真昼」


 やべぇ、めっちゃ可愛い。今までも可愛かったけど、今はもっと可愛く見える。


「ねぇねぇ、シンヤ」

「ん? どうした?」

「ふふっ、なんでもないわ」

「いや、なんなんだよ、ほんと……」

「あははは。まひるが何だか前よりも元気だねぇ」

「そうよ。もうとは違うわ。それに、さっき学校に来る前に、健斗ともしてきたしね」

「へぇ〜」


 それは驚いた。高橋から謝るのは知ってたけど、朝からやるとはな。あいつも少しは成長したって事か。



(にしては、あいつが来ていないようだが……)



「おー、ついに仲直りしたんだね! 高橋君が謝ったの?」

「そうよ。最初は誰の入れ知恵かと思ったわ。……ねぇ、シンヤ?」

「何の事だ?」

「ふふっ、誤魔化してもダメよ。相談に乗ってあげたんでしょ?」

「さて、何の事かな……」


 どうやら高橋の奴、口を滑らしたようだな。


「それにしては高橋がいないようだが?」

「健斗ったら、謝る事ばっかり考えてたらしくって、私服のままだったのよ」

「あははは。高橋君らしいね!」

「何をやっているんだか……」


 うん。普通に喋れてるな。ならいい。普段の俺のまま今は過ごしていこう。そう心に決めたのだが、そんな決意はものの見事に打ち砕かれた。


「それでね、シンヤ」

「ん?」

が欲しいわ」

「…………はい?」

「だから、ご褒美よ! 健斗と仲直りした」

「何故、俺に?」

「シンヤから欲しい以外にないわよ。それとも、ダメなの?」


 ダメではない。むしろ欲しいと言うならそれに応えようとは思うが、まさか朝からこんな大胆に来るとは思いもしなかった。


「いや、そういう、訳では……」

「じゃあ、問題ないわね! ご褒美は放課後デートね。また一緒に何処かに行きたいわ」

「まひるだけズルい! 私も行く!!」

「ふふふ、もちろんよ、みーちゃん」

「いや、待て。俺はまだ何も……」

「「ダメ?」」


 ぐっ、そんな上目遣いをされると嫌と言える訳がない。いや、そもそも真昼の件で嫌なんてありえない。それでも、こうも積極的に来ると俺の理性が困る。


「ダメじゃ、ない」

「やったわ!」

「じゃあ、まひる。後で何処に行くか決めないとだね!」

「そうね、みーちゃん!」

「もう、好きにしてくれ……」


 この日、俺は始めて2人に負かされた気がする。そして、気がつけば既に雄太が来ていたようで──。



「ついに、こうなったんだね。真夜」

「うぉ!? 来てたなら言えよ、雄太」

「すまない。3人がとても楽しそうだったからね」

「「柊君、おはよー」」

「あぁ、2人共おはよう。…………藤原さん、かい?」



 最後、雄太は真昼にだけ聞こえるよう耳元で何かを尋ねたようで、真昼の顔は次第に赤くなっていき、嬉しそうにコクリと頷いた。



「雄太、何を言ったんだ?」

「真夜が知る必要はないさ。と言うか、だろ」

「なるほど」


 それだけで理解した。真昼が俺に対して恋を自覚してくれたという事実に、気付いたようだ。


 ……惚れたよな?


 そんなこんなで、改めて雄太も含めて話していると、最後に高橋が登校して来た。



「おはよー」

「「おはよ、高橋」」

「高橋君、おはよー」

「おはよう、健斗。ちゃんと制服に着替えたようね」

「着替えるに決まってるだろ!」


 そうか、2人が仲直りしたんだから、ようやく普段通りの日常に戻るのかと思った。



(いや、違うか)



 普段と変わらない日常。でも、普段とは違うものも確かに存在する。


「真夜」

「なんだ? 高橋」

「この間は相談に乗ってくれてサンキュー。お陰で仲直り出来たわ」

「そうか」

「ねぇ、シンヤ。さっきははぐらかしたようだけど、手は貸さないと言う話だったわよね?」

「手は貸してない。相談されたから乗っただけだ」

「むぅぅ。絶対に嘘だわ。なんだかんだ言って、シンヤが健斗のダメな所とか、どうしてこうなったかの根本を言った筈よ!」



 くっ、既に俺の思考が詠まれている。


 だが、ここでボロを出す訳には──。



「なぁ、なんで真昼は、真夜の考えが分かるんだ?」

「ほら、やっぱりそうじゃない! …………嘘つき。嘘付いたシンヤには後で罰が必要ね!! ふふふ、楽しみだわ」


「はぁ……。高橋、何故お前は肝心な所で、そう残念なんだ……」

「高橋、今のは知らない振りをする所だろ」

「なんでお前らはそうやって俺を責めるんだ!?」

「あはははは! やっぱりこのやり取りがないといつもの朝って感じがしないね、まひる」

「ふふっ、そうね、みーちゃん。ようやくいつもの日常だわ! でも、シンヤへの罰は決定事項よ」



 真昼の気持ちが真っ直ぐ俺に向いているのを感じる。それが何よりも嬉しく思う。


 それに、今月は2月。例のアレが既に目前に迫っている。少し嫌な思い出もあるが、それでも楽しみな事に変わりはない。


 そんな事を考えながらも、今日という日常を楽しみながら、真昼に伝える。


「お手柔らかにお願いするよ」

「却下ね!」


 どうやら、重い罰が課せられそうだ。

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