お見舞いと心配(真昼視点)

*** 真昼視点 ***


(寝顔、可愛いなぁ)


 私は現在、パパの迎えが来るまでの間、シンヤの部屋で就寝中のシンヤの寝顔を眺めている。その顔は穏やかで、とても可愛い。


 私が熱を出して寝ている時、シンヤはこんな想いで私を眺めていたのだろうか。


(シンヤ……)


 今日は自分勝手な行動をした事で、彼を怒らせてしまった。そんな自分が嫌になる。




── 前日の夜 ──


 シンヤが早退したその日の夜、みーちゃんから着信があったので、それに出ることにした。


『あ、もしもし、まひる。 今大丈夫だったりする?』

『どうしたの、みーちゃん?』

『うん、あのね。真夜君、今日は午後早退したじゃん?』

『そうね。熱が出たって言っていたわね』

『うん。だからね、明日お見舞いに行かないかなって』

『それは元々考えていたわよ。でもどうして今?』


 それを尋ねるとみーちゃんは『ふっふっふー』と何かを企んでいるような口調になった。


『お見舞いと言っても放課後じゃなくて、朝から行かない? ってこと』

『え、朝って!? が、学校はどうするのよ』

『そりゃあ、サボるでしょ!』


 さも当然のようにみーちゃんはそう言った。まるで以前、私の看病のために学校をサボったシンヤみたいだ。


『で、でも、迷惑じゃないかしら……』

『大丈夫だよ。真夜君のお母さん、優しそうだったし』


 以前、シンヤの実家に行った時に少しだけ話したことのある、未来さん。確かにとても優しそうな印象だった。けど、いきなり行っても大丈夫なのかな……。


『シンヤ、怒らないかしら』

『真夜君の事だから、何だかんだ言いつつも、許してくれるって』


 確かに、シンヤは私たちにいつも優しく接してくれている。それに、あの時のお礼がしたいとずっと思ってた。だとすれば、朝から看病しに行くのは、十分お礼になるかもしれない。


『分かったわ。私も行く』

『おー、やったね! それじゃ、明日の朝、公園で待ち合わせして行こっか』

『ええ、そうね』


 そうして、秘密の作戦会議を終えて、次の朝を迎えるのであった。



── 翌朝 ──


「あ、まひるぅ!」

「みーちゃん、おはよう」


 私たちは一応学校に行くことになっているので、今は制服姿だ。ママたちには悪いとは思っているけど、なんだかいけない事をしているみたいで、ちょっとだけ楽しい。


「それじゃあ、真夜君のお家にレッツゴーだね!」

「ふふふ、そうね。その前にゼリーとか買って行きましょうか」


 そして、シンヤの家に向かう途中のコンビニでゼリーなどを買い、シンヤが住んでいるマンションへと向かって行った。


「久々に来たけど、やっぱり大きいよねぇ」

「そうね。シンヤは現役のラノベ作家さんだからいい所にしたんでしょうね」


 よくよく思えば、オートロック付きのマンションに一人暮らしをしている。いくら裕福な家庭であっても、わざわざオートロック付きにするかと言われたら、怪しいと思う。その事実に気が付くべきだった。


「シンヤって形から入るタイプだと思うから、ここにも拘りがありそうよね」

「あははは。なんだか分かるかも! 自分の目と足で選んでそうだよね」


 そんな話をしつつ、私たちはシンヤの住んでいる部屋の番号を入力し、チャイムを鳴すと、『はーい』と女性の声が聞こえた。


「あ、は、初めまして。私、葉桜真夜はざくらしんや君のクラスメイトの藤原真昼ふじわらまひるって言います。今日は、その、お見舞いに来ました」

「同じく、山口美美子やまぐちみみこと言います。今日は真夜君のお見舞いに来たのですが……」


 そう自己紹介をしたのだが、返事が返って来ないので、不安に駆られた。だけど、少ししてから『とりあえず、中に入って頂戴』と返事が返ってきたので、ほっと一安心する。


 そしてシンヤのいる部屋の前まで行き、呼び鈴を鳴らすと、ガチャっとドアが開き、1人の女性が出迎えてくれた。


「いらっしゃい。真夜のお友達よね? ……確か、以前家に来ていたわね」

「あ、は、はい。そうです!」

「朝からごめんなさい。その、真夜君が心配で……」

「あらあら、こんな可愛い女の子が2人も心配してくれるだなんて、真夜も隅に置けないわね。入って頂戴」


 そう告げられ、『お邪魔します』と伝え、中に入る。そしてリビングへと案内された。


「さてと、それじゃまずは自己紹介からね。改めて真夜の母の葉桜未来はざくらみらいと言います。それで、どうしてこんな朝から? 今頃学校じゃないの?」

「え、えぇと、その……」

「私たち、その……」


 どうしよう。シンヤが心配で来たまでは良かったけど、それだけが独り歩きして、肝心のサボる理由をみーちゃんと相談していなかった。


 それを感じ取ったのか、未来さんは私たちの事情について当ててきた。


「もしかして、学校をサボって来たのかしら」

「「ゔ……」」

「親御さんたちには?」


 そう尋ねられてしまったので、私たちは首を横に振るしかなかった。


「あらあら、ずいぶんと大胆なのね。真夜は……、朝そんな事、一言も言ってなかったから、心配で内緒で来たって感じね」

「「は、はい……」」


 未来さんはシンヤとは違うけど、何処となくシンヤの面影を感じる。こう、私たちの気持ちを見透かしてるかのようだ。


「心配で来るのは良いけど、ちゃんと親御さんから許可を貰わないと大変よ。何かがあってからじゃ真夜だけじゃなくて、君たちの家族も心配するんだから」


 そして、未来さんは私たちに『一度ご家族に連絡しなさい』と諭すので、私から最初にママに連絡を入れることにした。


 考えなしに来るんじゃなく、始めっから相談しておけばよかったと後悔した。


『どうしたの、真昼? こんな時間に、……今は授業中じゃないの?』

『あ、あのね、ママ……。その、ちょっとだけ人に替わりたくって……』

『人? ……真昼、何かあったの!?』


 ママは心配する口調で聞いてくるので、一旦未来さんに電話を替わることにした。


『お電話を替わりました。私、葉桜真夜はざくらしんやの母の未来と申します。実は──』


 そして、未来さんとママの電話が一区切りしたのか、未来さんはスマホを私に返してくれたので、『もしもし』と話してみると──。



『バカ真昼!! 学校をサボって、人様のお家にお邪魔するとは何事なの!』

『ご、ごめんなさい……』

『何かあったらどうするの……。そうじゃなくても、いきなりこんな時間に電話が来るから本当に心配したのよ……』


 物凄くママに怒られてしまった。実際、それだけの事をしたんだから仕方ない。


『で、でも、私……』

『葉桜君の事が心配なのは分かるわ。この前、看病してくれたお礼がしたかったんでしょ? でもね、そう言うのは先ず、本人に許可を取らないと。それに私たちにもよ』

『でも、前は……』

『あの時は優花が必死に私たちを説得したのよ。お姉ちゃん1人だと辛いから、葉桜先輩なら絶対にお姉ちゃんの事、助けてくれるって。それに葉桜君は一人暮らしよ。そういう部分も含めて信頼されているの』


 知らなかった。優花がそんなことを……。




『…………はぁ、……後でパパを迎えに行かせるから、それまではちゃんと葉桜君の事、見てるのよ』

『え、じゃ、じゃあ』

『今日だけは許します。でも、次はないからね?』

『うん! あの、ごめんなさい……』

『次からはちゃんと相談しなさい。じゃないと、葉桜君との、認めないわよ』

『ちょっと、ママ!?』


 そう言って、ママは一方的に電話を切ってしまった。交際って、私はまだ……。


「許してもらえたかしら?」

「は、はい。でも、後でパパから怒られると思います……」

「ふふふ、それくらいは我慢しないとだね」


 その後、未来さんはみーちゃんの親御さんとも電話し、みーちゃんも私と同じく、こってりと怒られてしまった。


 そこからは一応許可も貰えたので、シンヤが起きるまでの間、未来さんにシンヤと出会った時の事からこれまでの事をみーちゃんと一緒に話していたんだけど、不意にシンヤが起きてきた時はびっくりした。


 だって、上半身裸のままでリビングに来るもんだから、思わず息を吞んでしまった。筋肉質とはいかなくとも、少し鍛えてると分かるような体つき。


 しかも、熱もあるからなのか、全体的に色っぽく見えてしまった。あれはダメよ、心臓に悪すぎる。


 そして、その後シンヤは顔を赤くしながらもシャワーを浴びて戻って来たのだけど、未来さん同様、どうしてここにいるのかを尋ねられてしまった。


 ひとまず、即席の嘘で臨時休校と言ってみたけど、無駄に終わってしまった。しかもシンヤはいつの間にかママと連絡先を交換していたらしく、私に脅しをかけてきたので、観念するしかなかった。




──全く。来てくれるのは嬉しいけど、俺は2人が俺の所為で何かに巻き込まれたり、病気になる方が嫌なんだよ……




 シンヤが怒っていたのは、何も言わずに来たことではなく、自分の所為で私たちに何かあったらと、ただただ私たちを心配して怒ってくれていた。それが嬉しくもあり、同時に申し訳ない気持ちになってしまった。


 だって、私たちの勝手な都合でシンヤや未来さん、ママたち皆を心配させちゃったから。だからもう二度と同じ事はしないと、この時に誓った。



── そして現在 ──


「ごめんね、シンヤ……」


 そっと、彼の顔を触りながら、1人謝る。多分シンヤの事だから、自分の所為でと、ママたちに謝ると思う。だからその時は私が止めるんだ。



 シンヤを巻き込んでしまった、私たちの責任なんだから。

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