宣戦布告(真昼視点)
*** 真昼視点 ***
皆で初詣を堪能し、シンヤを除いた私たちはレンタルしていた着物を返却しにレンタル屋さんへ赴き、そこで元の私服姿へと着替えなおした。
「ふぅ、やっぱり、私服って安心するわね」
「わかるわかる。着物って可愛いけど、思いのほか動き辛いんだよね」
「それがいいんじゃない!」
「私も私服の方が落ち着きます」
でもこの後にはまだ、シンヤが和服姿で待っていると思うと、ドキドキする。あそこまで似合う男の子もまた珍しいと思うわ。顔の傷も相まって、健斗の言う通り、そっちの人にも見えなくはないし、その、男らしさが何倍にも増してる気がする。
どうやらそれはみーちゃんも同じことを考えていたようで、外で待っているシンヤについて言及していた。
「もう! なんで真夜君はあんなにカッコいいんだろ! ドキドキするこっちの身にもなって欲しいんだけどぉ」
ほとんど八つ当たりだった。
「あははは。なんでも葉桜家の男子たちは大体あんな感じらしいよ?」
「先輩のご家族も、皆和服が似合うと言うことですか?」
「そうそう。お父さんは見たことないけど、真夜のおじいちゃんなんかは、そりゃもう凄かったよ。貫禄というのかな、存在感が半端ないよ。多分真夜はおじいちゃん似なんだろうね。…………まぁ真夜と違って、ある方面が酷いんだけどね」
(シンヤのおじいちゃん……、か)
彼からはおじいちゃんの話は聞いたことないけど、そんなに似合うと言うことは、あんまり歳を感じさせない見た目なのかなと思った。
(だとしたら、シンヤは歳を重ねても、そこまで老けないということになるのかしら)
そんな未来の真夜を頭の中で想像してみたのだけど、何というか悪くないと思ってしまった。
(うぅ、これじゃ、もうシンヤの事が好きみたいじゃない)
少し前までなら健斗とシンヤ、どっちに天秤が傾いているかと問われたら、恐らく、まだ健斗だと答えてた気がする。
だけど、シンヤへの想いを自覚して、ちゃんと向き合い初めているうちに、その想いも変わってきているけど、未だに自分の気持ちがよく分からない。
(みーちゃんが羨ましい……)
そんなことを考えていると、みーちゃんから呼ばれたので、『どうしたの?』と返事をした。
「今日さ、この後、2人で帰らない?」
「私とみーちゃんで?」
「うん。ダメかな?」
「優花はいいかしら?」
「大丈夫だよ! 私は先輩か、けんにいさんに送ってもらうから!」
「ありがとう、優花。それじゃ、私は大丈夫よ」
「じゃあそういうことで!」
みーちゃんが私と2人で帰りたいなんて、珍しいと思った。雫ちゃんはというと、ニヤニヤしながら私たちを見ているだけだった。
「いやぁ、青春ですなぁ」
なんだか、おじさん臭いセリフを吐いていたけど、何でみーちゃんと2人で帰るのが青春になるのかが分からなかった。その後は皆も着替え終わったので、外に出ると、シンヤが待っていた。
「お、戻って来たか。真昼もミミも、私服姿も似合ってるな」
「先輩! 私には?」
「もちろん、優花ちゃんも似合ってるぞ」
「えへへへ」
「お前、多方面にタラシを発揮するんだな」
「はっ! し、しまった。長年の癖が……。お、俺は今日、どれだけやらかしたんだ?」
なんだか、シンヤはタラシについて真剣に考えているようだった。雫ちゃんから教えてもらったんだけど、どうやら親から指摘されて気付いてしまったらしい。私の観点から見ても、多分無理だと思うのよね……。
(むしろ、私にだけ、向かないかしら……)
そんな感情が湧き上がってくるが、必死に振り払う。まだ何も答えが出ていない状況でそんなことを考えるのはダメだと思うから。
そして、私とみーちゃんはシンヤに2人で帰ることを伝えると、『なら、俺が優花ちゃんを送るか』と名乗り出てくれた。
「え、俺は?」
「高橋も一緒に帰るか? 別にいいよな。優花ちゃん」
「はい! 大丈夫ですよ」
「そ、そうか。んじゃ俺も同行するわ」
「じゃあ、私たちはここらで帰るね、真夜!」
「また今後、ゆっくり話そう」
そうして、皆とは駅で別れ、私とみーちゃんだけがこの場に残った。
「どうしたの、みーちゃん? 早く電車に乗りましょ」
「ちょっとだけ、寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」
そう言うので、私はひとまずコクリと頷くと、『ありがとね』とみーちゃんは呟き、スタスタ歩いて行くので、それについて行くことにした。
***
そうして着いたのは近くの公園で、そこのベンチに私たちは座っている。
(どうしたのかしら、みーちゃん)
私はみーちゃんが口を開くのを待っていると、少し経ってからみーちゃんはゆっくりと口を開いた。
「まひるはさ、さっきお参りした時、何をお願いしたの?」
「え? え、えぇと……。シンヤも言ってたけど、あまりそういうのは……」
そう伝えてみたのだけど、みーちゃんはそれでも口を言葉を止める気はないようで、あの時自分が願った事を話しだした。
「私はね、まひる。…………真夜君と結ばれますようにって、願ったんだ」
それを聞いて、頭が真っ白になった。前々からみーちゃんがシンヤに好意を抱いてるのは知ってた。けど、それをこうして誰かに話した事は一度もなかった。だからこそ、この場でみーちゃんが誰かに、それも私に言うだなんて思いもしなかった……。
「ど、どうして、今、私に……」
「私はね、真夜君の事が好き。大好き。彼に、どうしようもない程に恋をしたの」
"好き"、"恋"。その言葉は、今の私の胸に深く突き刺さる言葉だった。
なんで? どうして私に? そんな考えがぐるぐる巡るけど、1番大事な事を思い出した。
(……そうだった。みーちゃんはずっと前から、シンヤが誰の事が好きなのかを知ってたんだ……)
「恋を自覚したのはまひるが熱を出して、私がお見舞いに行ったあの日。あの時、寝てるまひるを見てる真夜君の顔がね、とっっても優しい表情だったの。……多分、あれはまひるにしか見せない顔」
私が寝ていた時にシンヤがそんな表情を? でも言われてみれば、シンヤが私に向けるあの優しい表情は他の人と違う気がする。
「それを見ちゃったらさ、もう、自分の気持ちに蓋をし続ける事なんて出来っこないよね。あの笑顔を私に向けさせたい。彼からの愛情の全部が欲しいって思った」
「……もう、認めるしかなかった。ううん、本当はずっと前から気付いてたくせに、都合の良い、言い訳をし続けてた。……認めるのが怖かったんだ」
「認めるのが、怖い?」
「もう、まひるは気付いてるんじゃないの? 真夜君の気持ち……」
「そ、それは……」
シンヤが誰の事が好きなのか。それを言ってるんだと思う。でも、それを口にしてしまったら、もう私は……。
俯いている顔を上げ、みーちゃんに視線を移すと、真剣な表情で、その瞳で私を見ている。そしたらもう応えるしかなかった。
だって、みーちゃんは私にとって一番の友達。親友と言ってもいい人だから。
「うん。シンヤは、私の事が、……好き」
「そしてまひるも、真夜君の想いに応えれるよう、自分を見つめ直してる」
そう告げられてしまっては、もう何も言い返せなかった。ただただ、コクリと頷くことしかできなかった。
「だから私にはあまり時間がないの。まひるが自覚して、両想いになったらもう私には何もできない。でも諦めたくない。諦めるなんて出来っこないよ!」
そして、みーちゃんは『だから!』と、力強く、私を見てある事を宣言した。
「これは私からまひるへの宣戦布告なの! まひるが真夜君に恋するまでに、絶対に真夜君の中に、私と言う存在を刻み付ける! だから勝負だよ、まひる!」
"勝負"と、みーちゃんははっきり私に宣言した。一方的な敵対心を向けられた事はあるけど、こんなにまっすぐ、恋の勝負を仕掛けられた事は、これまでなかった。
そんなみーちゃんがとても眩しくて、羨ましくって、私には勝てないと思わせるくらい、今のみーちゃんが輝いて見えた。
こんな、未だに自分の気持ちが定まらず、ふらふらしてる私なんかよりも、ずっとシンヤに相応しい。そう思えてしまう。
「ダメだよ、逃げちゃ。私が勝手に宣言してる事だけど、まひるは絶対にこの勝負に乗るって信じてる」
「みーちゃん……」
実は私も、そんなにもしもの話は好きじゃない。だけどふと、シンヤとみーちゃんが付き合ったもしもの未来を想像してしまった。
2人が仲良く手を繋ぎながら学校に登校し、2人だけの明るくも静かな時間がひたすらに流れていく。
お昼も何処か静かな場所で2人で食べ始める。
みーちゃんの事だから、頑張って手作り弁当を作って、あ~んをしてあげる筈だ。シンヤもそれを当たり前の様に受け入れいてて、お互いに幸せそうな笑みを浮かべる。
そうして放課後も2人で手を繋いで仲良く帰る。
でも、……そこには私がいない。ただ遠くから眺めてる。
そんなあり得そうな、もしもの未来を想像したら、ぎゅうと胸が締め付けられるように痛くなる。そんなのは嫌だと思った。
まだ好きと、はっきり自覚もできていなければ、未だにふらふらしている私だけど、それでも他の人にシンヤを……、ううん、みーちゃんにだって、彼の隣を独占させたくないと思った。
だから私は──。
「分かったわ、みーちゃん。その勝負受けるわ。……わ、私だって、自覚も出来ないまま終わるだなんて嫌だから!」
「あははは、そう来なくっちゃ! でも、まだ恋のライバルじゃないからね! それはまひるがちゃんと真夜君に恋をした時だから!」
「えぇ、分かったわ」
その日、私とみーちゃんは初めて真剣勝負をする事になった。それと同時に、神様に願った事は、私が思っていたよりも早く実現する。そんな予感がした。
私が願った願い。それは──。
──本当の恋を、私に教えてください。
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