好きだからこそ青年は選択する

 その日の夜、真昼からLIMEでメッセージが飛んできたので、内容を確認してみることにした。


:こんばんは あの、今いいかしら


「真昼? こんな時間にどうしたんだ?」


 今日の昼、真昼は手洗いに行くと言って、それなりに時間が経ってから戻ってきたんだが、それ以降真昼の様子は明らかにおかしかった。上の空と言うか、心ここにあらずといった様子で、俺たちが声をかけても反応すらなく、そのまま1人で帰って行く始末だった。


(高橋に問いただしても、知らないの1点張りだったしな……)


 あの様子からして嘘じゃなかったので、高橋が原因じゃないのは明らかだったが、一体、あの短い間に何があったんだ? とは言え、ここで考えても仕方ないと思い、真昼のメッセージに対して、返事を返すことにした。


 だけど、同時に何か言い表せない不安が込み上がってくる。直感的にこの後の真昼との会話に危機感を感じた。


:いいぞ どうしたんだ?

:その、電話がいいんだけど……

:丁度暇だから、大丈夫だ


 そう返信すると、真昼から直ぐに電話がかかってきたので、それに出る。


『あ、もしもし。こんばんわ、葉桜君』

『こんばんわ、真昼。どうしたんだ、急に』

『う、うん……。その、さっきまでみーちゃんに相談したくて話てたんだけど、葉桜君にも相談してみたらって話になってね……』

『ミミに相談?』


 分からない。分からないが、ここから先の話は聞くなと、警告しているかのように、さっきから頭の中で警報が鳴り響く。


『うん。その……ね。ほら、今日のお昼頃から私、少し様子が変だったでしょ?』

『自分でそれを言うのか……。でもまぁそうだな。確かに心ここにあらずみたいな感じだったよ』

『それでね、その時、健斗が部活の友達と話してる所に出くわして、盗み聞きしてたの』


 それを聞いて、やっぱり高橋の所為じゃないかと思った。


(あいつ、俺は知らん。みたいな事を言ってたくせに……)



 だがそんな考えなど、この後に続く真昼の言葉を聞いて、全てが吹っ飛ぶことになる。



『その、この間、葉桜君とまた何処か遊びに行こうって約束したと思うんだけど』

『したな』

『それに、健斗が嫉妬してたみたいで……』



 その言葉を聞いた瞬間、俺の中の警報が最大レベルにまで達し、背筋からは寒気と胸の奥からは緊張からくる嫌なドキドキ感が込み上がる。



『その後、なんでそんなに私に食い下がるのかって話になったの』

『……それで?』

『その時に、健斗がね、……わ、私の事を、す、……好きだって、その友達に言ったのを聞いちゃったの』




『────』




 俺は今、どんな表情をしている? 今、真昼はなんて言った? 誰が、誰を好きだと? いや、分かってる。高橋だ。高橋が真昼の事を好きだと公言したんだ。



(だが、あの高橋がそんな、真昼以外の奴に言うだと?)



 俺はそんなぐちゃぐちゃになっている思考の中、何とか情報をかき集め、整理していく。



(真昼がそれを聞いた。つまりは両想いであるという事を知ってしまった……)



 これが答えだ。俺が恐れていた。そして、いつか来ると分かっていた終着点。だからこそ、俺はその前に真昼の恋心を俺に向けるよう少しずつ、2人に悟られないよう動いていた。だけど……。


 いざ、その瞬間が来たと分かると、こんなにも胸が痛く、そして動悸が激しくなるとは思わなかった。雫の時でさえ、こんな事にはならなかったのに。


(いや、あいつらの場合とは違うか……)


 雫の時は裕也の事も親友として大好きだったからこそ、その恋を応援する事が出来た。でも、今回のは違う。本当にその人が欲しいと思えるくらいに、俺は彼女に惚れていた。


『葉桜君?』


 真昼が俺から返事が来ないことに不思議がって尋ねて来た。


『すまない、少し、その、驚いて……』

『みーちゃんも同じ事を言ってたわ』


 何とか平常心を装って返事をするが、冬だと言うのに、変な汗が止まらない。


(俺は今、普段通り話せてるのか?)


 今の自分の状態が分からない。だけど、聞かなくてはならない。真昼の為にも、そして、己が定めた誓いの為にも。


『それで、真昼はどうしたいんだ? 晴れて両想いだと分かった訳だけど……』

『うん。そのね、私としてはこっちからをしたいなって……』


 "告白"、その言葉を聞いて、更に精神がぐちゃぐちゃになるが、無理やり理性という鎖でぐちゃぐちゃな精神を縛り上げる。


『それは、何でだ?』

『健斗はきっと、告白するならクリスマスだって思うはずなの。だけど、私としては──』

『恋人として、過ごしたいんだな』

『うん』


 そうはっきりと真昼から告げられる。今直ぐにでも電話を切って叫びたい気分だ。だけど、そんな事は出来ない。真昼の想いを優先にすると決めている以上、それは自分の誓いに対して裏切る行為だ。


 そしてふと、文化祭での1件を思い出した。




──いいですか? 近いうちに選択する時が来ます。そして何を選ぶにしろ、彼女との関係は一気に変化します。なので、後悔しない選択をしてください




 もし、これがその選択だと言うなら、これほど酷い選択はないなと思う。だってそれは、俺が決めた俺だけの誓いを壊すか壊さないかという選択だ。


 壊す選択は当然、告白するなと真昼に伝え、俺も好きだと伝える事。多分それを伝えれば、今の真昼なら迷う。そして、結末は変わらないかもしれないが、それなりにしこりを残せるかもしれない。けど、その代償として真昼との関係は完全に終わるだろう。


 壊さない選択は、この告白を応援するという事。そして、彼女は何の憂いもなく高橋と恋人関係になるという事を指し、俺の恋はそこで終わる。傷つく対象が俺か真昼か、そう言う選択だ。


(どっちも地獄だな……)


 何を選ぼうとも、もう真昼とはこれまでのような少し特別な友達関係にもなれないだろう。それくらい恋人関係になるということはそれまでの関係性を変える。精々が学校の友人止まりになるだろうな。


 そして真昼はそんな俺の考えなんて他所に言葉を続ける。


『私ね、今、健斗に対する想いが溢れそうで、待つなんて出来ないじゃないかなって』


 もう答え出てるじゃん、と口に出してしまおうかと思ったが、そこはグッと堪えた。多分真昼は今、高橋の想いを知って、色々興奮している。だからこそ自分の気持ちを整理したくて、ミミや俺に電話をしてきたんだと思う。雫たちがそうだったようにな。


(どっちも地獄、そして1番辛い地獄は……)


 そんなのは分かりきっている。だからこそ、俺から真昼に贈る言葉は──。


『なら、もう答えは出てるな。真昼の想い、ちゃんと高橋にぶつけよう』

『葉桜君?』


 俺の真昼に対する想いは、焦りと嫉妬、独占欲から今、告白するなんて言う、醜い感情で穢す程度の想いじゃない。本気で好きだから。真昼が幸せになってくれるならそれで良いんだと、自分に言い聞かせて醜い感情を殺し切る。


 だってそれが、真昼の想いを優先にすると決めた俺のだから。


『ようやく、両想いだと実感したんだろ? 好きになるとさ、もう本人にはどうしようもないんだよ。昔の雫たちがそうだった』

『雫ちゃんたちが?』

『あぁ。だから、真昼はその選択に自信を持て。……百瀬の告白を聞いたんだろ?』


 そう言葉を区切ると、真昼は悩んでいるのか、返事が返って来なかった。俺は真昼からの返事を待つことにし、少ししてから返事が返ってきた。


『いいのかな、私の方から告白して』

『告白に、良いも悪いもないさ。それに、必ず男の方から告白しないといけない決まりなんてないしな』

『そっか。……そうだよね。うん、ありがとう葉桜君』

『決まったか?』

『うん。私、健斗に告白する』


 その決意の言葉を聞き、俺の心は死んでいく感覚に陥るが、必死に心に薪を焚べる。


『そうか。なら、俺はそれを応援しないとな』

『応援してくれるんだ』

『そりゃな。伊達にこの3ヶ月間、ずっと傍で見ていた訳じゃないからな』

『ありがとうね、葉桜君。……私、頑張るよ』

『あぁ』


 俺たちはそこで電話を切ることにした。そして──。




「っーーーー!」




 ベッドのマットに拳を振り下ろす。壁とかは色々問題が起きるからだ。


(分かっていたけど、やっぱり辛いものは辛いんだ!)


 雫の時以上に俺は今、失恋を味わっている。もう時期、この恋が終わるのだと、そう実感する。


(なんで、ミミは俺に相談するように言った?)


 ふと、そんな事が頭を過った。いや、その理由は分かる。きっと俺に心を整理させたくて、そう仕向けたんだろう。じゃないと、いざ学校でいきなりそんな場面に出くわしたら、今以上に荒れそうだ。


(だけど、もう選択した。もう逃げられない)


 ふと、ベッドのシーツが濡れている事に気が付いた。そして、気が付けば、涙が頬を濡らしていて、そしてどんどんと涙が溢れ出す。


「くそ、何で泣くかな……。むしろ喜べよ」


 ようやく彼女の想いが実るんだ。普通喜ぶべきだろと思いつつ、額に手を当てる。


 その晩、流れ落ちる涙が止まることはなかった。

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