紅葉デート

青年は少女の家へ行く

「えーと、住所によると、……ここか。でも、まさかこんな形で真昼の家に招待されるとは思わなかったな」


 親友らの文化祭に行ってから1週間後の土曜日、今日は藤原さんと高尾山で紅葉を見に行く約束をしている。なので、本来なら駅で待ち合わせする所なのだが、真昼から『ママがね、この前の文化祭で助けてくれたお礼も言いたいから、朝来てほしいって言ってるんだけど、ダメかな?』と聞かれ、俺は了承しているのだ。


(普通に考えると、母親からの感謝を言われる場面ではあるけど、今日は休日なんだよな……)


 これが平日であれば、学校帰りに行って、ありがとうございますの言葉を貰って終わりだとは思うけど、今日は土曜日の休日だ。つまり、真昼の父親が家にいる可能性が高いと言うことだ。よもやこんな形でご家族全員に挨拶ができるとは思いもしなかった。なので、内心めちゃくちゃ緊張している。


(菓子折りも持ってきた。身だしなみも今日は遊び(デート)に行く以上、問題なし。……うし!)


 気合を入れ直し、俺は藤原家のインターホンを鳴らす。そうすると、『はーい』と真昼の声がして、ドアが開いた。


「あ、は、葉桜君、おはよう! 今日もとってもカッコいいね!」

「おはよう、藤原さん。そうかな、そう言ってくれると嬉しいよ」

「ふふふ、秋っぽいコーデで本当に似合ってるわ」

「そういう藤原さんはまだ着替え終わってないようだな」


 パッと見た感じ、服選びに難航しているといった感じで上下の合わせがごちゃごちゃしている。そう指摘すると、『あまり、言わないで欲しいわ』と顔を赤くしながら言うので、めちゃくちゃドキドキした。百瀬の一件以降、どうも俺の中で一つの踏ん切りがついたのか、藤原さんへの恋愛感情がまた一段と強くなった気がする。


そして、藤原さんは俺が手に持っている袋に気が付き尋ねてくる。


「ねぇ葉桜君、それ何かしら?」

「これか? せっかく招待してくれたんだ。菓子折りを持ってきたんだよ」

「そこまでしてくれなくてよかったのに……」

「俺が嫌なんだよ」


 俺たちがいつまでも玄関先で話してる事に不満がったのか、奥から優花ちゃんの『お姉ちゃん、まだぁ?』という声が聞こえてきた。


「あ、ごめんなさい。こんな所で長話もダメね。はい、どうぞ、上がってください」

「そうだったな。では、お邪魔します」


 俺は藤原さんの家に入り、藤原さんからリビングへと案内され、中に入る。


「ママ、パパ、優花、葉桜君を連れてきたよ」

「お姉ちゃん、おそーい! いつまでも玄関の前で話さないでよぉ」

「あらあら、真昼ったら、そんなに葉桜君と話すのが楽しいのかしら。ねぇ、あなた」

「……」


(この人が、藤原さんの父親か……)


 パッと見は厳つい雰囲気を感じさせるが、ジッと俺を見つめている目付きはどことなく、藤原さんや優花ちゃんに似ている。母親似かなとは思ったけど、しっかりと父親の特徴も受け継いでるようだな。さて、俺もいつまでも話さないのはおかしいから、ちゃんと挨拶をしよう。


「初めまして、今日はお招きいただき、ありがとうございます。優花ちゃんや春香さんは既にご存じかと思いますが、改めて、葉桜真夜はざくらしんやと申します。藤原さんとは同じクラスメイトの友達としてよくしていただいております。どうぞ、お見知りおきを。……それと、こちらは皆様にと思い、フルーツゼリーになります。よろしければ、お召し上がりください」


 そう伝え、俺は藤原さんに菓子折りを手渡す。それを見た藤原さんの父親は目が点になっているようで、呆けている。


「ふふふ、ご丁寧な挨拶をありがとうね、葉桜君。ほらあなた、いつまでも無視するのは失礼じゃないの?」

「あぁ、いや、私は、……そうだな。ご丁寧な挨拶をありがとうございます。真昼と優花の父親の藤原哲也ふじわらてつやと言います。その、最初の方は申し訳なかった。真昼がまさか健斗君以外で男の子を連れてくるとは思いもしなくて……失礼ながら対応を見させてもらった」


 そう頭を下げられるので、『いえ、そう思うのは当り前の事ですから』と言う他なかった。この人、見た目は厳ついけど、中身は穏やかで話の節々から藤原さんらを大切にしていることが感じられる。いい父親なんだな。


「あらあら、なんだかお見合いしてるようだわねぇ」

「ママ!?」


 春香さんがそんな爆弾を投下するので、藤原さんは顔を赤くしながら狼狽え、『ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ! 葉桜君はただの友達よ?』と叫ぶので、精神的大ダメージを受けた。事実ではあるけど、そう否定されると、やっぱり辛い。


 そんなことを余所に、優花ちゃんは俺の前まで近づき、この前プレゼントしたペンギンのぬいぐるみについて感謝を伝えてきた。


「葉桜先輩、この前のお姉ちゃんと一緒のプレゼントありがとうございます! 本当に嬉しかったです!」

「あぁ、あれか。大事にしてるか?」

「勿論ですよ!」

「なら、良かった」

「ほらほら、いつまでも立ってないで、葉桜君、こっちの椅子に座ってね」

「ありがとうございます」


 春香さんからダイニングテーブルの方に座るよう案内されたので、俺は従い、座ることにした。



***



「改めて、葉桜君。娘を助けてくれてありがとう」


 皆でテーブルに座り、初めに哲也さんから感謝の言葉を投げられる。


「いえ、自分は最後の方でおいしい所を持って行っただけに過ぎないです。その言葉は高橋に言ってください」

「ふふふ、もう健斗君には伝えてるわ。足も怪我させちゃったしね」


 高橋はあの一件で足を捻挫した。今はもう回復しているけど、練習においても無茶はできないらしく、最近になってようやく前と同じ練習を行ってもいい許可が出たらしい。


「けんにいさん、珍しく照れてたよね」

「ふふふ、そうね。健斗ったらパパから感謝されることってほとんどなかったら、驚いていたわ」

「彼の父親とは昔からの仲だからな。どうしてもそういう目線で見てしまうだけだ」


 こう言うということは、彼も藤原さんが好きな人が高橋だと知っていると言うことか。まぁそれが普通か。


「まぁ高橋は少し軽い部分もありますから……」

「葉桜先輩、そんなに言葉選ばなくてもいいですよ。皆知ってるので」

「知ってても、それを口に出すか出さないかは別だ。優花ちゃんも気を付けた方がいいぞ」

「はーい」

「あらあら、優花も葉桜君には素直なのねぇ」

「君は……その、紳士なのだな。先ほどからも色々言葉を選んでるようだし、まだ高校1年生だろうに」

「父からの教育の賜物です。目上と話す際のやり取りは一通り叩き込まれましたから」


 13歳の時に俺が小説家としてデビューする際、親父から社会に出てから必要になるスキルを徹底的に叩き込まれたことがある。マジで泣きたくなった。


「ほう、その年で習うとは、何か特殊な仕事でも?」

「いえ、自分は将来小説家になるのが夢なので、今のうちに身に着けておけと」

「葉桜君の小説、とっても面白いんだよ。優花も読んでるしね」

「毎日楽しく読ませてもらってます!」


 優花ちゃんも読んでくれていたのか。ちょっとむず痒い。というより……


(なんだろう、さっき春香さんはお見合いねと茶化してたけど、マジでそんな雰囲気になってない?)


 チラッと、隣に座っている藤原さんに視線を向けると、なんだかそわそわしている。言葉では隠してるようだったけど、やっぱり今の状況には緊張してるようだった。なので……


「藤原さん、そろそろ準備した方がいいんじゃないか?」

「え? あ、もうこんな時間。そうだね、でも中々決まらなくて……」

「だったら葉桜先輩に選んでもらったら?」


 優花ちゃんが特大の爆弾を投下するので俺も思わずお茶を吹きそうになり、藤原さんは『な、何恥ずかしい事を言ってるのよ、バカ!』と顔を赤くしながら叫んだ。やっぱり優花ちゃんを敵に回したくないな。心臓に悪い。


(だが、藤原さんに合う服か……)


 せっかくなので、ちょっとだけアドバイスを送ることにした。


「今日は紅葉を見に登山だからな。服装は歩きやすいようボーイッシュな感じにするのが良いと思う。色合いは……藤原さんならブラウンやオレンジとか合いそうだな」


 そうアドバイスを送ると「ふぇ?」と間抜けな返事がやって来たので苦笑する。そして優花ちゃんはそれを聞いて、俺に尋ねてくる。


「それが先輩の好みなんですね!」

「好みと言うか、単に似合うかなと思った程度なんだが……」


 そう答えているのだが、優花ちゃんはニヤニヤが止まらない。そして藤原さんは『そ、そっか、オレンジとか、好きなんだ』とぶつぶつ言いながら2階に移動していった。


「何というか、君が普段、どう真昼と接しているかが良くわかるよ」

「あははは、恐縮です」


 そこからは藤原さんが戻ってくるまでの間、俺を含めた4人で談笑していた。

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