後夜祭で少女はお願いする(真昼視点)

「藤原さん! 遅れてすまない。大丈夫か?」

「葉桜君……」


(なんで? どうして、ここにいるの? だって今はみーちゃんと踊ってるんじゃないの?)


 私の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。助けて欲しいとは思ったけど、いるはずもない人が私の目の前にいる。


(まさか約束を反故にした? ううん、ありえない。あの葉桜君が誰かとの約束を破るなんて思えない)


 それに相手はみーちゃんだ。文化祭中幾度と交流していて、コスプレコンテストではお似合いコンビと周りからも言われていた。そんな彼がここにいるなんて、ありえない。


 でも事実、彼は私の目の前にいて、私の顔を見て安堵した表情を見せている。そして、彼は私の周りにいる男子生徒に尋ね始めた。


「……それで、この集まりはなんだ?」

「いや、お前がなんなんだよ」

「俺か? 藤原さんと踊る約束をしていてな。もう少し早く来るはずだったんだけど、所用があってな」

「つーことはあれか? さっき藤原さんが言ってた、他の奴と踊る約束もしていた二股野郎か」


 彼にそう言ったのはさっき、葉桜君の事を二股と言った男子生徒だった。けど、葉桜君はそのことについて気にも留めていないようで……


「二股? ……あぁ、お前は後夜祭のジンクスとやらを信じてるのか」

「そ、それがどうしたってんだよ」

「いや? ならこれも知ってるんじゃないのか? 元々藤原さんは幼馴染の高橋と予定だった。そして、その後に俺ともって。ならその理論で言うなら藤原さんも二股してるってことになるぞ」


 確かに私は彼らにそう言った。でも彼らはそのことについて気にも留めていなかったけど、いざ葉桜君からそう告げられて、狼狽え始めた。


「ま、何をどう信じるかは勝手だが、彼女の意思を無視し、自分らの都合だけを押し付けてるのはどうなんだ?」

「お、お前だって、俺らと同じだろ」

「俺は正式に彼女と踊る約束をしているからな。それに、お前らとは違って友達だし」


 この場において、もう誰も葉桜君に反論できる人はいないと思う。それくらい葉桜君は鮮やかにそれでいて、事実だけを突きつけてきた。そして、1人の男子生徒がとある事実に気が付いた。


「いや、ちょっと待て。お前、コンテストに出てた葉桜か?」

「え? だってこいつ眼帯……!? き、傷?」


 そこまで言って、私もようやく気が付いた。葉桜君が眼帯をしておらず、のまま、ここにいることに……。


「それがどうした? 何か問題が?」

「い、いや、何でもない!」

「「「し、失礼しましたーーー!」」」


 そう言って、彼らは一目散に逃げるように去っていた。


(本当に、助けてもらっちゃった……)


 さっきから何が何なのか理解が追い付かない。本来いない人がいるし、その人は眼帯もしていない。もしかして、これは夢なんじゃないかとさえ思えちゃう。でも、葉桜君の言葉が私に現実なんだと実感させる。


「大丈夫か? 本当にすまない。怖かっただろ……」

「そ、その、確かに怖かったけど、助けてくれたから……。で、でも何で? 葉桜君はみーちゃんと踊ってるはずじゃ……」

「それについては後で話す。また変な奴らに声かけられないよう、まずは踊りに行こう」


 そう葉桜君は言うと私の手を握り、優しく皆が踊ってるキャンプファイヤーの所に誘導してくれた。そして、私たちも皆と同じように踊り始めることにした。


「それで、さっきの話なんだが……」


 話しながらなので、今はゆったりと踊っている。


「ミミと踊る前に絡まれてる藤原さんを見かけてな。それで、まひるを助けてこいってミミから激をもらったんだ」


 ミミ? 一体誰の事かしら? いや、葉桜君が踊る相手はみーちゃんと私しかいないはず、なら……。


「ミミ? え、……もしかしてみーちゃん!?」

「正解」

「え、な、何で!? だって……」


 だって、さっきまでずっと山口呼びだったじゃない! それなのに一体何があって、名前呼び、それもミミと言う愛称で呼ぶだなんて……。も、もしかして!


 私はあまりの衝撃を受けて、思わずつまずきそうになったが、葉桜君が優しく支えてくれたので、転ぶことはなかった。


「は、葉桜君。もしかして、みーちゃんと付き合ったの?」

「いや、付き合ってないよ。友達から親友一歩手前にレベルアップしたみたいな?」

「一歩手前って……」


(それはそれで、衝撃的なんですけど!)


 さっきからもう状況が目まぐるしく変わり過ぎて、もう訳が分からない。でも、分かったのは、みーちゃんは葉桜君と踊らず、私を助けるためにフォローしてくれたこと。そして、多分その時に葉桜君がみーちゃんをミミと呼ぶことにしたと言うことだ。それと……。


「も、もしかして、みーちゃんにも見せたの?」

「ん? あぁ顔か。もちろん見せたよ。俺からの最大限の敬意としてな」


 葉桜君は当り前みたいに言うけど、私にとっては十分衝撃的だった。私には最初見せるときは渋っていたのに、なんでみーちゃんには自分から見せたんだろう。私はそれがなんだか許せなかった。


(私だけの秘密だったのに……)


 実際は雫ちゃんや月城君もいるけど、彼らは昔からの親友だからノーカンだ。だからちょっとした仕返しがしたくなったんだ。


「ふーん、そんなにみーちゃんと仲良くなってただなんて、知らなかったわ」

「いや、単に成り行きと言うか……。藤原さんの件が無かったらこうはならなかったと言うか……」

「だって、まだ私には呼んでくれたことないじゃない」

「呼ぶ?」

「……って呼んだことないでしょ?」


 私がそう呟くと、葉桜君が珍しく、つまずきかけたが、直ぐに体制を立て直した。ふふふ、ちょっとは仕返しになったかな。


「い、いきなりどうした!?」

「別にぃ……。みーちゃんみたく、私にも呼んで欲しいなって思っただけよ」

「いや、だから……」

「ダメ?」


 ふふふ、私だけ除け者にした罰よ。ちゃんと反省して欲しい所だわ。葉桜君が珍しく動揺する姿などが見れて、満足したのか私は徐々に冷静になっていくのを感じていた。そして、自分が何を口にしたのかも徐々に理解してきた。


(あ、あれ? もしかして、私今、物凄く恥ずかしいことを口にしなかった!?)


 真昼と呼んで欲しいだなんて、そんなの普通好きな人にしか言わない筈よ!? それなのに私は何で、葉桜君にあんなことを口にしてしまったのかしら。ダメだ、きっと文化祭という特殊な環境が私をバカにしたに違いない。じゃないとこんなことを私が言うなんて……、でも。


(呼んで欲しかったのは……なんだよね)


 だから私は恐る恐る、踊りながら葉桜君の顔を覗くと、少し顔が赤い葉桜君が口を開いた。


「いいのか?」


 もう言ってしまった手前、取り下げることは出来ない。なので、私はコクンと頷くしかなった。そして、葉桜君は私が欲しい一言を優しい口調で言ってくれた。



 以前、ママと偶然会ったときは真昼さんと呼ばれたことはあったけど、あんなの比じゃないくらい、ただ一言、それだけなはずなのに、嬉しさが込みあがってきて、私の心臓はドキドキが止まらない。健斗でもこうはならないのに、何で……。


「これでいいのか、


 元の呼び名に戻ってしまい、私は不満が爆発してしまった。


「ダメよ! これからは2人でいるときは名前で呼んでくれないと、もう葉桜君とは口を聞いてあげないわ」

「え、いやそれは……」

「ふふふ。なら、いいでしょ?」


 それが決定打だったらしく、葉桜君は観念したようで、優しい口調で私に話しかけてくる。


「わかったよ、。流石に口を聞いてくれないのは辛いからな」

「ふふふ、それでいいわ!」


 これでまた葉桜君とだけの秘密が出来た。それが何よりも嬉しかった。心に余裕が生まれたからなのか、ふと思った。葉桜君は文化祭中、いつも楽しむことを考えていたことを。だからだろう、私は葉桜君に当たり前のことを尋ねた。


「ねぇ、葉桜君。文化祭は楽しかったかしら」

「どうした突然」

「いいから。どうだったかしら?」

「あぁ、最高の文化祭だったさ!」


 葉桜君は満面の笑みで当たり前のことを私に伝えた。それからも私たちはゆったりと踊りながら後夜祭を楽しんでいった。


 みーちゃんと健斗には申し訳なかったけど、私は今が一番文化祭で楽しいと思ったかもしれない。だって、最後にこんなにもって思えたんだから。



────────────────────────


ここまで読んでいただき、ありがとうございます


これにて、文化祭編は終了となりますが、正直かなりの話数になってしまい申し訳ありません。本当ならいっても準備も含め10話くらいかなと思ったのですが、思いのほか伸びてしまいました。削ろうと思えば多分2~3話分は削れたかなと思いますが、折角なのでこのまま載せようかなと思いました。


実際は親友側の文化祭もあるので、まだ本当の意味での終わりではないのは内緒です。


因みに本エピソードは真昼というより、美美子側にスポットを当ててみました。何というか書きやすかったんですよね。とはいえ、ちゃんと真昼との絡みもきちんと入れていますので、許してください。


小話ですが、真夜と真昼が踊っている時、美美子は離れた所から2人を観察しています。その時の表情は嬉しさと寂しさ、それと後悔が混じった表情となっております。


では、これからの話も楽しみにしてください。

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