水族館デート

青年は少女の家族と遭遇する

 10月に入ってから初めての土曜日、俺はそろそろ秋・冬用の服でも買おうかと思い、ショッピングモールに来ていた。ついでに言うと、気分転換が無性にしたかったからでもある。


 なぜか? 決まっている。この前の水曜日、高橋が練習試合があったあの日の夜に藤原さんは水族館デートの約束を取り付けたと意気揚々と報告してきたからだ。


(あの時はとても嬉しそうに報告してくるから、色々脳が破壊されたんだよな……)


 現状片想いなんだから、脳破壊というのは大げさかもしれないけど、やっぱり好きな人が他の男とデートしに行くと言われたら、そりゃ落ち込むよ。ということで現実逃避も含めて俺は絶賛散財すべく、洋服を見ている。


「うーん、やっぱり、ここら辺のコートは高いな……。先に靴とかから決めて、それから上を合わせる感じにするか……」


──葉桜君?


 そう考えた俺は一旦店を出たのだが、突如、よく聞きなれた声で声をかけられたので、声の方向へ体を向けると……。


「……藤原さん?」

「あ、やっぱり、葉桜君だった! こんにちは」


 休日に偶然遭遇する確率高いなと、俺は思ってしまった。どこかで恋愛の神様が俺を使ってシミュレーションゲームでもしてるのか? だとしたらよくやったと褒めてあげたい。どんな理由であれ、会える幸運には感謝したいからな。


「こんにちは。藤原さんも買い物か。……今日も1人なのか?」

「ううん、違うよ。今日は家族で買い物に来てるのよ。ほら、来週健斗とデートに行くからそのために服を見に来たのよ」


(家族か。……ということはあの妹もいるのか?)


 先日、偶然遭遇した藤原さん妹。あの娘は何というか、凄いの一言だ。俺のやろうとしてることを藤原さん経由の話だけで当ててしまうんだから。……いい子なのは分かるんだけど、正直敵にしたくない。


 というか、デート用の服か……。聞きたくないワード、トップ10に入りそう。


「と、言うことは妹さんと?」

「優花もいるけど、後はママも来てるよ。ほら、あそこ……」


 む、お母さんもいるとな……。これはもしや、顔合わせ程度ではあるが、挨拶できるのでは?と考え、藤原さんが示した方向に目を向けると、めっちゃ若い女性がこちらに向かってきていた。


「……お姉さん?」

「うふふふ、違うよ、葉桜君。よく言われるけど、私のママだよ」


(これが、若さの神秘か……)


 どう見ても16歳の娘さんがいる人妻じゃないよね!? 普通に大学生って言われても通用するよ? 芸能人とかでも思うけど、マジで女性の若さって時々自然現象を超えるって思う。


(……つまり将来、藤原さんも歳を取ったとしても、あまり見た目が変わらない可能性があるってことか)


 それはなんと、素晴らしきことかな。と思っていると、藤原さんがジト目しつつ『何か、失礼なこと考えてない?』と聞いてきたので、『なんのことだ?』とはぐらかすことにした。最近俺の思考を読んでくることがあるから怖い。


 藤原さんと話してるうちに、藤原さん妹と母がやって来た。


「もう真昼、先に行かないでよね。……それで、そちらの方は? さっきからずいぶんと親し気に話してたようだけど……」

「あれ? 気のせいかなって思ってたけど、葉桜先輩じゃないですか! こんにちは。偶然ですね!」


「ええとねママ、紹介するよ。この人は葉桜真夜はざくらしんや君。私のクラスメイトで健斗以外で出来た初めての男友達だよ。 ……あれ? 優花、何で葉桜君の事知ってるの!? 私、紹介してないよね!?」


 藤原さんはお母さんに俺の事を軽く紹介してくれていたが、それよりも妹が俺のことを知ってることの方が衝撃だったらしく、それどころじゃなくなったようだ。まぁ軽く紹介もしてくれたし、後は俺の番だな。


「藤原さん、少し落ち着こうか」

「え? あ、ごめんね、葉桜君……」


「改めて、初めまして。葉桜真夜はざくらしんやと申します。先月から同じ高校のクラスメイトとして転校してきました。……以降、藤原さんとは友人関係として交流させていただいており、とても良くしてもらっています」

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。私はこの子の母の藤原春香ふじわらはるかと言います。……ふふふ、話には聞いてたけど、こんなに素敵な方だったのね。……あの、失礼なのは承知なのですが、その眼帯は……」


「いえ、気になるのは当然ですので大丈夫です。今年に入ってから出来た傷がありまして……。簡単に説明すれば、した勲章ですね。ですが、人前では怖がられるので、こうして普段は眼帯で隠しているのです」


 ここで、藤原さんには言っていなかった理由を少しだけ開示した。その方が春香さんとしても危ない人ではないという印象を持ってくれると思う。案の定というべきか、藤原さんは俺の今の話を聞いて、『人助け』と呟いていた。


「そうだったのね。……デリケートなことを聞いてしまって、ごめんなさい」

「いえ、母親として藤原さんを想うのは当然だと思います。それと、藤原さんと呼んでしまうとと被ってしまうので、春香さんと呼んでも構わないでしょうか」


 そう、下の名前を呼んだら藤原さんは顔を赤くし、『ふぇ!?』と驚いていた。まぁ普通は驚くよな。


「ふふふ、構わないわよ」

「ありがとうございます。それと藤原さん、が俺の事を知っていたのは、少し前に階段を踏み外した彼女を助けたことがあってな。その縁だ」

「そうだよ、お姉ちゃん。危ないところを助けてもらったんだ! ……あと、付けがいいって言いませんでしたか? 先輩」

「はいはい。そうだったな、


 遭遇したその日の夜、優花ちゃんとLIMEでやり取りしてる時に、"妹"呼びや"さん"付けを嫌がったので、仕方なく"ちゃん"付けにすることになったのだ。


「優花が男の人に下の名前を呼ばせてるなんて、私びっくりだよ……。それに踏み外したのは知ってたけど、その相手が葉桜君だったなんてね」

「そうね、ママも驚いたわ。もしかして優花、葉桜君のことが?」

「違うよママ。むしろ、葉桜先輩の恋を応援する立場なんだぁ」


(何カミングアウトしてるんだ、この娘は!?)


 余計なことを言うなと、目で訴えると、ごめんね的ないたずらっ子の顔をしてきたので、一瞬チョップを食らわせてやろうかと思ってしまった。まぁ女の子に手をあげたくないからやらないが……。


「え、ゆ、優花も知ってるの!?」

「偶然だけどねぇ。あ、誰にも口外しないから安心してよね、先輩」

「はぁ、俺は心配だ……」


 俺と優花ちゃんのやり取りを見て何かに気が付いたのか、『あらあら、これはこれは』とニマニマしながら呟いていて、もしかしたら春香さんにはバレたのではと思ってしまった。


 ちなみに藤原さんは『私は誰か知らないのに』とぶつぶつ言ってるので、それには気が付いていない。


「ふふふ、こんなにも2人と仲良くなってるなんて、ママ嬉しいわ」

「……それは、私たちの親としてどうなの? ママ」

「ママとしては、真昼と優花が幸せであればいいからね」


 そう答えた春香さんは俺にウインクしてくるので、これは完全にバレてるなと苦笑するしかない。もしかして俺って割とわかりやすいのか?


「ところで、藤原さんは買い物しなくていいのか? ……高橋とのデート服買いに来たんだろ?」

「うん、そうだよ。でも、大体買い終わったから、軽く休憩でもしようかって話をしてて、その時に葉桜君を見かけたんだ。……そういえば、葉桜君も服を買いに?」

「あぁ、これからの季節にとコートとかを買いにな」

「そっか。あ、だったらせっかくだし、私たちと少し休憩しない? いいでしょ、ママ」


 なんと、藤原さんから休憩のお誘いが来るなんて……。ヤバい、それだけでめっちゃ嬉しい。だが……。


「そうね。葉桜君もせっかくならどう?」

「いえ、ご厚意には感謝しますが、今日はこれくらいでお暇しようかと。せっかくの家族との休日に他人が水を差すのは無粋ですので……」

「えー、私は気にしないのに! ねぇお姉ちゃん」

「そうね。私たちは別に迷惑じゃないわよ、葉桜君」


「2人が迷惑じゃなくても、春香さんから見たら俺は今日知り合ったばかりの人、それも男だからな。やっぱり少し気を使わせちゃうさ」


 そう答える俺に春香さんは少し関心したような眼差しで見てくるので、やっぱりそういう部分があったんだなと安心する。


「真昼、優花、あまり無茶を言ってはダメよ」

「「えーー」」

「悪いな、藤原さん。でも、次があったらその時はご厚意に甘えさせてもらうさ」

「……約束だからね? 葉桜君」


 そこで話を締めくくり、俺と藤原さん家族とはその場で別れることになった。最後、春香さんから『そういう謙虚な所はポイント高いわよ』とひっそりと言われ、内心ドキドキしたのは内緒だ……。

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