青年の家で勉強する

「ま、こんなもんだろ……」


 今日は朝から学友たちが来るので、軽く部屋の掃除をしていた。普段からある程度かたづけているが、誰かを呼ぶんだからそれなりに綺麗にはしたくなるのが道理だ。


 それに、特に隠さなければならないものもある。


 何かは……、まぁわかるだろう。俺だって高校生男児だ。見るものは見るし、持つものは持つ。お試しで作ってみた本棚に隠し空間というロマンあふれる仕掛けの中に宝物を隠し、皆を迎える準備が完了した。


(あー、念のためパソコンの電源は切っておくか。あれ見られると俺の正体バレるし……)


 普段から使ってるパソコンには俺の作家としてのデータが入ってるので、何らかのきっかけで見られてバレるのもまずい。正直あいつらにならバラしてもいい気がするけど、まぁ正体隠しも一種のロマンだからそこは貫き通したいな……。


 そうこうしているうちに、チャイムが鳴り響く。なので、マンションのオートロックを解除し、あいつらを出向に行った。


「早かったな。……山口も無事風邪から復活か」

「うん! 昨日時点でもうほとんど回復してたんだけどね。この2日分の遅れを取り戻すんだ!」

「やあ、真夜。何だかんだ皆、お前の家が気になってたようでね。20分前には揃ったから早めに来たよ」


 雄太がそう言うと、みんなが頷く。そこまでして俺の部屋が見たいものか? まぁこの場で無駄話してる訳にもいかないし、さっさとみんなを3階にある俺の家に案内した。


「へー、ここが葉桜君のお家なんだね。一人暮らしっているからもう少し狭いのかと思ってたけど、普通にリビングとか広いわね」

「オートロックマンションの時点で薄々予感してたけど、……俺の部屋より広くないか?」


 藤原さんと高橋が俺の部屋の広さについて言及してくる。


「まぁ高校生1人が使うにしては広すぎるかもな」


 そう返事をすると、男どもはニヤニヤした顔つきで、『将来彼女を呼ぶときは広い方が色々都合がいいもんな!』と言うので、俺は2人の頭にチョップを食らわした。


「変なこと言ってないでさっと勉強を始めるぞ。それと、紅茶とお茶、後はオレンジジュースならあるが、何がいい?」


 皆から飲みたいものを聞いた後、俺は台所に向かい飲み物の準備を始めるのだが、藤原さんが後から台所にやってきて、手伝うと申してくれた。


「葉桜君、私も手伝うわね!」

「こっちが招待してるんだから、のんびりしてもよかったんだぞ?」

「ダメよ。5人分もあるんだから、落としたら大変よ」


 お盆があるんだから大丈夫だと思ったんだが、ここは藤原さんの好意に甘えよう。それに、こうして一緒に作業をしているだけでも嬉しいしな。


(まぁ藤原さんの場合、昨日の件もあるからちょっとだけ、高橋と絡み辛いのかもな)


 俺は昨日、藤原さんから高橋がやらかしてることについては聞いている。それをあいつに言及する事はないが、かといって意識的に仲を取り持つ事もするつもりはない。


 ふと、藤原さんの方に目を向けると、普段料理をするからなのか、『私の家より、香辛料とか充実してるわね』と目を輝かせながらそんなことを呟いていた。


(藤原さんの行動はいつ見ても飽きないな。……可愛い)


 気持ち悪い感想はここまでにして、俺たちは飲み物をリビングまで運び、勉強会を行うことにした。今日の地獄のレッスンは数学と物理だ。思う存分公式を叩き込もう。



***



「とりあえず、午前中はこんなもんだな」

「そうね。葉桜君に数学を色々と教えてもらえて助かったわ」

「俺も、藤原さんに物理を教えてもらえたからお互い様だ」


 お昼間近になったので、俺たちは一旦勉強を切り上げることにした。それにしても思いのほか進んだな。高橋はもう少し渋ると思ったんだが、逃げ道がなければ大人しく勉強をするんだと知った。さて、昼だし何を作ろうかな……。


「もう昼だから何か作ろうと思うけど、何がいい? それともピザとかにするか?」

「え!? 葉桜君作ってくれるの?」

「おー、葉桜君、料理男子だったんだね! これはまたポイントが高い事で……」


 まぁ一人暮らしだし、ずっとコンビニとかで済ませるのは体に悪いからな。だからよっぽどのことがない限り俺は自炊することにしている。


「真夜って意外とスペック高いよな。勉強が出来て顔立ちもよく、スポーツも悪くない。そこに更に料理まで加わるのか……」

「葉桜ぁ……、そのスペックの一部でもいいから俺にくれないか?」


 高橋がバカなことを言うので、『努力しろ』と一刀両断した。俺が言うのもアレだが、そんなんじゃ藤原さんの心が離れていっちまうぞ。


 最終的に流石に5人分を作らせるのは悪いということで、その日はピザを頼むことになった。


「んじゃ、今のうちに葉桜の部屋ん中を見ようぜ!」


 高橋が悪だくみでもしそうな顔で言うと、それに続いてみんなニヤリとしながら同意してくるので、俺は苦笑する。


 バカめ、俺の偽装工作をなめるなよ?


「ここが俺の部屋だ。と言ってもクローゼットを除けば、本とパソコン、それとベッドくらいしかないけどな」

「うわぁ、本がいっぱいだぁ! ねぇねぇ、何あるか見ていい?」


 まぁ本棚が3つもあれば、そりゃ目を輝かせますか。なので『いいぞ』と答えれば、すぐさま藤原さんは本棚にある本のタイトルを眺め始めた。


「うわぁ、真昼の部屋もそれなりに本は置いてあるけど、葉桜の場合はもっとあるんだな。流石作家志望というべきか?」

「ねぇねぇ、葉桜君。ベッドの下、何も置いてないんだけど?」

「なんで、速攻エロ本がベッドの下にあるんだと思ったんだ……」

「あははは、やっぱりみんな考えることは同じってことだよ。真夜」

「でも、何を探してるか分かってるってことは、あることは認めたね?」


 くっ、しまった! だが、隠して正解だったな。そんな安易な場所に隠す訳がないだろう。それにアレが見つかった場合、俺の癖がバレてしまう……。それだけは何とかしなければ。


 ふと藤原さんに目を向ければ、『あ、このタイトル知ってる!』や、『初版だー』と子供の様にはしゃいでいた。可愛すぎる。


 そしてピザが来るまで、俺のエロ本の所在を探索していた3人だったが、ついぞ見つけることが出来ず、残念がっていた。


(ふぅ、一安心だな……)


 ピザを取りに行き、リビングに運んでいこうとした際、俺の部屋から最後に出てきた藤原さんが少し顔を赤らめていたのに気が付いた。


「藤原さん? 顔、少し赤いけど大丈夫か?」

「ふぇ!? え、ええ……、だい、じょうぶ、よ」

「?」


 なんだか少し挙動不審になりながらも、藤原さんはリビングへ行ってしまったので、不思議がりながら俺もピザを持ってリビングに向かった。



***



「はぁぁ、勉強したわぁ」


 そんなおっさんが言いそうなことを山口は満足気に呟いていた。まぁ昼食った後もみっちり3時間くらいぶっ通しで勉強してたんだ、そりゃ満足気にもなるか。


「ふふふ、みーちゃん物凄く満足そう。ありがとね葉桜君」

「いや、俺の方こそありがとう。いい復習にもなれたし、これなら3日後からのテストも何とかなりそうだな」


 高橋も何とか最後まで食らいつくことは出来たようで、過去一点数取れるかもと呟いていた。


「真夜。ほんと助かったよ。明日もまた、頼む」

「あぁ、任せろ」


 そう締めくくり、みんな帰る準備を始め、俺も送る準備を始めた。


「んじゃ、みんなまた明日な」

「おおー、また明日―」

「葉桜君、ありがとー」

「じゃあな、葉桜! 次遊ぶときは何かゲームしようぜ!」

「もう健斗! ほんとゲームばっかりなんだから」


 そんなやり取りをして、皆は帰って行く。それを見届けた後、俺も自分の部屋に戻るかと思い、体の方向をマンション側に向けた所で藤原さんから声をかけられた。


「ん? どうした、藤原さん。何か忘れ物か?」

「あ、あのね……、その……」


 藤原さんは少し、もじもじしながら言いよどんでいるので、『言いたいことがあれば遠慮なく言ってくれていいぞ?』と言ったのだが、正直言ったことを後悔した。


「そ、そう? なら……、本棚の隠しスペースについてなんだけど……」


 それを聞いて俺は背筋が凍るような感覚に陥った。


(ば、バレただと!? バカな! 完璧な偽装だったはずだ……)


「本当にたまたまだったんだけど、私が取った本の後ろの壁に少し隙間があることに気が付いちゃって……、その、気になって見ちゃいました……」


 俺は今どういった表情になってんだろうか? 唖然? それとも……。


「あ、で、でも、私……、ああいう純愛物の話っていいと思うわ! それに、な女の子との身長差カップルってやっぱり憧れるよね! ……あ、そ、それだけだから! じゃ、じゃあ、また明日!!」


 そう藤原さんは顔を真っ赤にしながら言って、走って帰ってしまった。俺はその間、ただただ藤原さんの後ろ姿を見ることしかできなかった……。

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