少女は幼馴染とサイン会に行く(真昼視点)
*** 真昼視点 ***
「真昼ー、そろそろ行かないと待ち合わせの時間に間に合わないわよ!」
「わ、わかってるわ、ママ!」
どうしよう、全然今日着ていく服装が決まらない。現在私の高校はテスト期間に突入しているが、今日は先週、葉桜君が教えてくれた
(なんで、私ってこんなにも子供っぽい体型なんだろぅ……)
なかなか決まらない理由は明白で、私の身長が小さすぎて、今日のサイン会にふさわしい大人っぽい服装が決まらない。こういう時、相談できる人がいればいいんだけど、現状相談できる人は誰もいない。みーちゃんは昨日から風邪で休んでるし、健斗に至っては相談すらできない。
葉桜君に相談するのも一つの手ではあったけど、今日は埼玉の友達に会うという事だったので、その時間を私に使わせるのは申しわけないため、相談が出来なかった。
「ママぁ、助けてぇ……」
結局私はママに泣きつき、何とか待ち合わせの時間ギリギリまでに今日着ていく服装が決まった。
今日は白色のロングスカートに、ピンク色のアウターを纏った大人っぽい服装で、黒色のブーツを履く事にした。そして、以前葉桜君が褒めてくれた白色のベレー帽を被り、ママからは健斗君をそれで悩殺してきなさいと激をもらい、私は健斗の家に向かって行った。
「よう、真昼」
「えぇ、こんにちは、健斗! ……久しぶりに休日に会って遊ぶのにあなた、いつもと変わらない服装なのね」
健斗は黒を基調とした半袖の上着と青のジーンズ姿で家を出てきた。せっかくのデートなんだからもう少しおしゃれしてもいいと思うんだけどなぁ。
「いいだろ別に。真昼と出かけるのに、いちいちおしゃれしてたら疲れちまうぜ。あははは」
「はぁ全く、ダメよ? せっかく女の子と出かけるんだから、健斗も身だしなみ整えないと! あとで瞳さんに報告ね」
「ちょっ! それはないぜ真昼。分かった分かった。次からはちゃんとするから!」
「ふふ、それでいいのよ」
やっぱりこうやって健斗と会話するのは楽しい。普段から軽口で酷い事は言われるけど、それを差し引いてもこうして健斗と過ごす日常に私は安堵する。
「ふふ、さ、早く行きましょ! 先生のサイン会なんてめったにないんですし」
「なぁそれって俺も行く必要本当にあるのか? 俺楽しめないと思うんだけどよ」
「あら、私と一緒にいられるんだから、喜びなさい。…………そ、それに、久しぶりに健斗とのデートなんだから」
最後の方は流石に恥ずかして小声になってしまい、健斗からは『何か言ったか?』と言われてしまった。こういう所は何とかしてほしいと思う。
「と、ところで、……今日の服装どうかしら?」
ショッピングモールへ向かいながら、私はまだ健斗から服について何も言われてないと思い出し、聞いてみた。
先生に合わせた服装ではあるが、同時にデートに向けた服装でもある。やっぱり好きな人からは褒められたいと言うのが女の子の心情だ。
「ん、服装? まぁ確かに普段真昼が来てる奴とはなんか違うな……。なんというか大人っぽいっていうのか?」
「え、ええ、そうなのよ! 先生の小説を読んでる人たちの年齢層は高いから、それに合わせて大人っぽい感じにしてみたんだけど……どう?」
大人っぽいと言ってくれて私は嬉しくなった。だって健斗は私の意図を感じ取ってくれたから。そして少し気恥ずかしながらも健斗に再度聞いてみた。
褒めてくれたら嬉しい。『似合ってる』の一言だけでもあれば、私は今日一日幸せな気分で過ごせる気がした。
でも──。
「うーん、確かに大人っぽいとは思うけどよぉ、真昼には似合わないよなそれ。なんていうか子供っぽい背丈に、その服装は似合わないなって。あははは」
「真昼ならもっと子供っぽいワンピースとか、半袖のパーカーとかの方が似合うんじゃないか?」
それを聞いて私は少しショックを受けた。大人っぽいのは認めてくれたけれど、私には合わないと言われたからだ。正直な話、自分自身、今の恰好が似合っているかと言われると……、自信はない。
ママと優花からは似合ってると言われて少し浮かれていたんだ。だからきっと健斗も同じようにお世辞でもいいから、言ってくれると思ってた……。
けれど、それを表には出したくない、折角のデートなんだし楽しい雰囲気で最後まで過ごしたい。……だから。
「も、もう! 私が気にしてる事を言わないでよね。そんなの私が一番わかってるわ。でも、こういう時くらいお世辞でもいいから、褒めてくれてもいいじゃない」
「あははは、そんな不貞腐れるなよ。ま、たまには真昼でもそんな恰好をしたいって事なんだろ? あ、でも、そのベレー帽だけは似合ってるぞ」
「今更、褒めたって遅いわ。……ふふ、でもありがと。ほら、早く行きましょう」
(まぁベレー帽だけでも褒めてもらえたから、今はそれで我慢しましょう。でも絶対にいつか、ぎゃふんと言わせるわ)
服装について褒められはしなかったが、それはまた近いうちにリベンジすればいいだけの話だ。気持ちを切り替えた私は健斗と一緒にショッピングモールへ向かって行った。
***
「はぁ、生で先生が見られてよかったわ。ふふふ、それにサインも貰えたし」
サイン会であった先生は、写真で見た以上に優しそうな印象で、話し方もゆっくり丁寧でほんの数分の語らいだったけど、物凄い充実感だった。
(でも葉桜君、本当にサイン貰わなくてよかったのかしら……)
昨日の放課後、私は葉桜君に代わりにサインを貰おうか? と提案したんだけど──。
「ああいうのはやっぱり、会った本人がもらうからこそ意味があるんだよ。だから気持ちだけ受け取るよ」
との事だった。確かに私も同じ立場になったら同じ事を言いそうだ。
「はぁ、やっと終わったか……。なんでみんなあんなに喜ぶんだ? ただのサインだろ?」
「健斗だって、やってるゲームの有名な配信者さんや、サッカーのプロ選手に会えてサインとか貰えるってなったらああなるでしょ? それと同じよ」
「あぁ、作家のプロだから、そういうのと同じなのか。ま、いいや。それでこれからどうする?」
軽く流されたけど、健斗からこの後の予定について聞かれたので、健斗としてもまだ私に付き合ってくれるんだと思い、嬉しくなった。
「だったら、何か甘いものでも食べない? テスト期間中なんだし、今のうちに糖分を取って勉強しないとだからね」
「うへぇ、勉強とかしたくねぇ」
「ダメよ、明日みんなで勉強しましょうね。みーちゃんも来られるみたいだし、私と葉桜君でてきぱき捌くわ」
みーちゃんは英語がヤバいと言っていたので、明日は健斗と一緒にみっちり教えるつもりだ。……意外だったのは、葉桜君は勉強ができる方らしく、前いた高校の中間テストでは上位10人以内に入っていたと言う。
健斗はそれを聞いて、既に現実逃避をしているようだった。そんな当たり前の日常の話をしつつ、私たちは向かった先のカフェでケーキを食べ始めた。
***
「あれ? 健斗じゃん。何しに来たんだ? というか藤原さんもいるって事はデートか?」
カフェから出て、歩きながらこの後について話していた時、健斗の部活仲間から声をかけられた。
「よう、今日は真昼が好きな作家のサイン会があるっていうから、その付き添いで来ただけだよ。お前こそ何してんだ?」
「ちょっと!? 付き添いって何よ!」
「あははは、相変わらずの痴話喧嘩だ。俺はテスト期間中の息抜きで、少しゲーセンに行こうかなと思って来たんだ。そうだ健斗、せっかくだし一緒にどうだ? 藤原さんもさ」
そう誘ってくれた。せっかくの2人でのデートを邪魔されたのは残念だけど、逆に考えれば健斗とまだ一緒に遊べるという裏返しでもある。
「えぇ、ならせっかくだし、いっしょに──『あははは、真昼はゲームとか全然だから誘っても楽しくないって!』」
健斗は私が言い切る前にそんな事を言った。
確かに私はゲームとかそういうのはあまり得意じゃないけど……、そういうのは言わなくてもいいじゃない。
「そうなのか? うーんなら俺は1人で行くかな。せっかくのデートを邪魔するのも悪いしな」
「だ、だからデートじゃねぇって! それにやる事もなくて、これから帰るつもりでもあったんだ。だから一緒に行こうぜ」
「お、おい。いいのか? 藤原さんが1人になるぞ?」
「真昼、いいかな? どうせ明日からまたテスト勉強なんだし、今日くらい息抜きさせてくれよ」
「……はぁ、いいわよ。私も家に帰ったらママとご飯の準備しないといけなくて、帰らないといけなかったし」
「ほらな、それじゃ行こうぜ!」
「あ、あぁ。藤原さん、なんかごめんな……」
そう言って、2人はゲーセンに行ってしまった。……本当は一緒に居たかった。ご飯の準備なんて嘘で、気を遣った方便に過ぎない。
(なんでよ……、健斗にとって私は……、なんなの?)
そんな事を考えながら、私は1人家へ帰っていたとき、『藤原さん?』と、ふと後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「え? ……葉桜君?」
そこには青色の半袖のパーカを羽織り、普段と変わらず眼帯を装備していた葉桜君が少し不思議そうな表情をしながら立っていた……。
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