姉妹は今日の出来事について会話する(真昼&優花視点)
*** 真昼視点 ***
「ただいまー」
「おかえりなさい、真昼。本を買いに出かけたにしてはずいぶんと遅かったじゃない」
「うん、ママ。実は本を買って帰ろうとしたら、偶然友達に会ってね。せっかくだから一緒にウインドウショッピングしてきたんだ」
「えー! お姉ちゃんがウインドウショッピングって、一体誰としてきたの!? けんにいさんはそんな殊勝な事は出来ないだろうし、みーちゃんもそんなに好きじゃなかったと思うんだけど……。それに、その持ってる袋は何?」
「えーと……、最近高校で新しく出来た男の子の友達でね。葉桜君って言うんだけど、その人が誘ってくれてたんだ。……あと、これはその人から今日遊んでくれたお礼っていう事で、プレゼントしてくれたクマさんのぬいぐるみなの」
葉桜君と別れ、家に帰る。そしてリビングにあるソファに座りながら、ママと妹の優花に今日の話をしたら、2人とも物凄く驚いた声で、『お姉ちゃん(真昼)に男が出来てるー!!』なんて言うもんだから、大慌てで否定した。
「ち、違うからね!? 確かに葉桜君は健斗以外で初めて出来た異性の友達だけど、別にそういった関係じゃないからね!? というより、ママたちは私が好きな人知ってるでしょ!?」
(もぅ、いきなり男って言うんだもんだからびっくりしちゃうわよ! それに葉桜君とは別にそんな関係じゃなくて、普通の友達だもん!)
「お姉ちゃん、からかいがいがないなぁ。でもその葉桜先輩って、もしかして最近お姉ちゃんが話してた小説を書いてる人だったりする?」
「うん、そうだよ。というより、どうして分かったの? 私、その人が男の人だなんて一度も言ってなかったと思うんだけど……」
「うーん、なんだろう。女の勘? お姉ちゃんって、たまに存在をぼかす時があるんだけど、今回はそれが顕著だったからかな」
妹が怖い事を言ってくるので驚いた。私ってそんなにわかりやすいのかな。健斗に聞いても意味ないだろうから、明日にでも葉桜君に聞いてみようかな……。
それにしても、さっきから優花が私のクマさんを羨ましそうに見てる事に気付いてしまった。
(絶対にあげないわ。私のクマ助だもん!!)
「ダメよ優花。これはお姉ちゃんのクマさんだよ! もう名前も決めてるのよ」
「えー、いいじゃん。私もクマさんほしー。……でもさ、そういうのって意外と値段高い奴が多いんだよね。葉桜先輩、もしかしてお姉ちゃんの事好きなんじゃないの?」
「そんな事ないわよ。葉桜君も否定していたわ。それに彼、私が健斗の事が好きなの知ってるし、私も好きだって伝えてるしね」
──へ? お姉ちゃんが私たち以外にけんにいさんの事が好きだって伝えてる?
*** 優花視点 ***
「え、お姉ちゃん、それほんと?」
「ええ、本当よ。葉桜君と話してるとなんだか、自然と色んな事を話せちゃうのよね。なんというか凄く話しやすくて、話してると楽しいって思えるのよね。彼、私と同じでミステリー系の小説とか好きで、色々私と趣味が似ているから余計に話しやすいのかも」
お姉ちゃんは楽しそうに話しているが、私は今それ処じゃなかった。だってお姉ちゃんに、今までお父さんとけんにいさん以外でここまで心を許してる男の子はいなかった。
そういえば、夏休みが終わってからの2週間、お姉ちゃんの雰囲気が若干変わったような印象を受けてたけど、まさか……。
「でも葉桜先輩なんて、私初めて聞いたんだけど……。その人、今までお姉ちゃんの学校にいたんだよね?」
「違うわよ。言ってなかったっけ。葉桜君は夏休みが終わってから転校してきた人でね。その前は埼玉の学校にいたらしいわ」
どうやらその人は転校生らしい。だとしたら納得だ。でもそう考えると、葉桜先輩はかなりコミュニケーション能力が高いとみえる。だってここまでお姉ちゃんと打ち解けられる男子がいるなんて思いもしなかった。
趣味が似ているからと言って、ここまで早く仲良くなれるのかな? そもそもあのお姉ちゃん好き好きオーラを出しているけんにいさんがいるにも関わらず、その関係性に割り込もうとしている時点でかなりできる人だ。
事実、既にお姉ちゃんと友人関係になっている。
「でも、よくけんにいさんが許可したね。けんにいさんの事だから牽制してくると思ったけど」
「健斗ってそんな事してたっけ? まぁいいわ、葉桜君はね、私たちが幼馴染だという事を知って、小説のネタのために、私たちの話を是非聞かせてほしいってお願いしてきたのよ。ふふっ、あの時の健斗の一瞬ぽかんとした顔は面白かったわよ」
なるほど、そもそも相手に主導権を取らせないように動いていたんだね。それなら確かに、けんにいさんは何も出来やしない。その後もお姉ちゃんから葉桜先輩の事を聞きつつ、彼について考察した。
葉桜先輩はコミュニケーション能力が恐らく高い。それと、お姉ちゃんに接触する目的もあるんだろうけど、小説のためにあの甘々空間に侵入できるだけの大胆さがあって、自分の存在を相手に徐々に植え付けていける強かさを持っている。
そして何より……、お姉ちゃんに対する自分の好意を隠しながらそれを悟られないよう、プレゼントをあげるだけの器用さを持ち合わせていると。
(お姉ちゃんはきっと気が付いてないんだろうね。葉桜先輩はじわじわとお姉ちゃんの恋心を変えようとしている事に……)
恐らく、葉桜先輩は負け戦だという事を自覚している。だからこそ、どっちかが勝負をかけるまでの間に自分の勝率を上げようと行動している。
今までお姉ちゃんに告白してきたワンチャン狙いの有象無象の男どもとは違う。本気でお姉ちゃんの事が好きだから、必死にあの2人に悟られないよう細心の注意を払って暗躍してるんだ。
(この人は、私には出来なかった好きな人のために頑張る事が出来る人なんだ……)
昔の私はお姉ちゃんをいじめから助けたけんにいさんの事が好きだった。でもお姉ちゃんがいたから潔く諦める事が出来て、推しとして応援する事にした。
だからこそお姉ちゃんが話している内容だけで、その裏にいるこの人の事が分かる。分かってしまう。
「へー、けんにいさんでも絆されるなんて、葉桜先輩ってコミュニケーション能力高そうだね!」
「実際高いと思うわよ? 健斗ともずいぶん仲良くなってるし、この間なんて、そんなんだから彼女が出来ないんだぞーって言い合っていたわ、ふふふ。それと、彼のおかげなのか健斗にもクラスで話せる男子が増えてきたのよねー」
「あの、部活とゲームが恋人だと思ってるけんにいさんに、クラスで話せる男子できるなんてすごいね!」
「えぇ、ほんとよ。あとみーちゃんに教えてもらったんだけど、葉桜君と健斗、あともう1人柊君って男の子がいるんだけどね、その3人を題材にした本が作られようとしているようなの」
何その同人誌! ちょっと読んでみたいかも! いやいや、その前に葉桜先輩のコミュニケーション能力について修正しないとだ。高いんじゃない、あまりにも自然にクラスに溶け込めれるくらいの凄腕なんだ。
でも、だとしたら──。
その葉桜先輩がいれば、お姉ちゃんのこれまでの10年間で培った来た今までの恋愛観を変えてくれるんじゃないかと思えてきた。あのずぼらで、いつまでも子供っぽい軽口でお姉ちゃんをバカにするけんにいさんから、お姉ちゃんを取り返してくれるかもしれない。
私が推していた小学校時代のけんにいさんはもういない。今の、お姉ちゃんにしがみ付いてるだけのけんにいさんなんて私はもう推せない。
「ちょっと私、葉桜先輩の事、気になったなぁ。ねぇねぇ、今度紹介してよ!」
「えー? 優花が興味を示すなんて珍しいわね。もしかして好きになる予兆だったりしない?」
「にしししし、違うよお姉ちゃん。だって、お姉ちゃんがそこまで気を許してる男の子だよ? お姉ちゃんの妹として、相応しいか見極めないとだよ!」
「だ、だから、葉桜君とはそういう関係じゃないって言ってるじゃない! もぅー」
明らかに動揺してるなと思いつつ、今はまだお姉ちゃんの心がどうなっているかは分からない。知り合ったばっかりだし、きっとただの友達としか思われていないんだろう。
だけど、期待しない訳にはいかない。もしかしたら葉桜先輩が私の新しい推しになれるかもしれないし、どう考えても今のけんにいさんと比べたら優良物件だ。そしてふと、私は思い出した。
(そういえば、あの時の占い……)
2週間前、テレビでやっていた星座占い。
確か、恋愛観が変わると言っていて、そしてラッキーアイテムは……、そうだ、小説だ! しかも時同じくして葉桜先輩が転校生としてやってきて、お姉ちゃんと同じく小説好きだと言う。
正直、あまりにも話が出来すぎていると思うが、それでも嫌でも期待してしまう。
──その人なら本当に……、と。
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