堕蛇転生〜噛ませ犬から成り上がれ〜
タヌキング
第0話 堕蛇
「はぁはぁっ‼」
暗い夜道を一人の高校生の少女が走る。彼女は運動は得意な方では無く、走り始めの方から息も絶え絶えだった。 まさかこの自分が逃走する羽目になるとは夢にも思っていなかった。
少女には特殊能力があり、その能力を使って教室で嬢王の様に振舞い。イジメ、カツアゲ、暴行、やりたい放題であった。時には教師だって痛めつけた。そこまでしても何も御咎めは無かった。彼女にはバックに強い味方も付いていたので怖い者なしだったのだ。
だがしかし、今日で状況が一変してしまった。特殊能力の目覚め初めの転校生の男に勝負を挑まれ、戦いの末に敗北してしまったのである。男に殴れると思った瞬間、自分のことを守ってくれたのは、今まで散々コキ使った少女だった。
「やめてあげて‼」
必死になって自分の為に男を説得する友達の姿を見ても、少女は何も思わなかった。これはチャンスだと、その隙に逃げてしまったのである。
なぜ自分は負けてしまったのだろう?走るキツさで朦朧となりながら少女は考えてみる。自分の方が能力者としての経験値も上で、最初は優勢だった。しかし結果は鎖は引き千切られ、文句の付けようの無い程に完敗であった。
クソクソ‼と心の中で苛立つ少女。ここまでの屈辱は人生生まれて初めての経験である。だが、あの人達に頼めば、自分のことを倒した男をやっつけてくれる。そう信じて、ひたすらに少女は走った。
15分ほど走ると、少女は目的地である自分の高校の体育館に着いた。体育館には明かりもついていないが、あの人達が居ると少女は確信していた。
ガラガラと横開きの扉を開けて少女は土足のまま体育館に入って行く。そうして歩を進めると、暗がりの中に三人の人物が居るのを確認できた。その人たちを見るなり、少女は涙を流し、両手と両膝を床に突いて、頭も床に擦り付けた。
「申し訳ありませんでした‼あの男に負けてしまいました‼」
この自分の行動に少女は情けなさを感じていたが、プライドよりも自分の失敗を如何にフォローして上手く立ち回るかが重要であった。
クスクスと遠くの方で三人の笑い声が聞こえる。笑われて許されるならそれでも構わない。少女は今の地位を守ることに必死だった。
「た、助けて下さい‼アタシを助けて下さい‼」
何度も何度も頭を床に擦り付けた。許されるなら何でもするつもりだ。靴だって舐めるし、場合によっては犯されたって構わない。処女など助かるならいくらでも捨ててやる、そこまで考える程に少女は追い込まれていたのだ。
「フフッ、顔を上げなよ」
三人の内のリーダー格の腰に刀を下げた男が少女に近寄りながら話し掛ける。優しい口調に少女は少しばかり安堵した。
「は、はいぃ」
顔を上げるとニッコリと男は笑う。その笑顔に少女は救われた気持ちになった。
「失敗は許されない、ましてや敗北なんてもってのほか……なんだけど特別に君のことを許してあげるよ」
「ほ、本当ですか‼ありがとうございます‼」
涙と鼻水だらけの顔で許されることに感謝する少女。
けれど許される条件が少女にとってあまりに過酷であった。
「君の命で許してあげるよ」
「へっ?」
腰に下げていた刀をスラッと抜き、少女に歩み寄る男。月明かりに刀身が怪しく輝く。状況が整理できずにパニックになる少女であったが、とりあえず弁解しないといけない。
「あ、あの男のバリアーは強力でして、私の鎖では太刀打ち出来なかったんですよ‼信じて下さい‼ひぃいいいいいいい‼」
悲鳴を上げながら座ったまま後ずさりする少女。恐怖のあまり腰が抜けてしまい、まともに逃げることもままならない。冷や汗はもちろんのこと、股間に温かいものを感じ、自分が小便を漏らしていることをその時に理解した。
「汚ねぇ♪」
「やだー♪」
後ろの方で残りの二人が少女をあざけ笑うが、笑われていることを恥ずかしがる余裕は少女には全く無かった。
「粗相するなんて、本当に駄犬だね君は……いや君は蛇って感じだから、駄蛇だね。ほら手間かけさせないで」
「い、いや、許してぇ」
必死に懇願する少女であったが、男が刀を収める様子はない。その内に壁にぶつかって後ずさりも出来なくなった。少女は死にたくない死にたくないと呪詛の様に訴えたが、男は無情にも刀を両手で振り上げた。
「さようなら、まぁまぁ使えるコマだったよ」
「いやぁあああああああああああああ‼」
断末魔の様な悲鳴を上げる少女の首をスパッと一刀両断する男。あまりに綺麗に斬られたので、痛みも無く、少女は自分が斬られたことすら気が付かなかった。
少女の首は地面にコトリと落ち、自分の首から下の体を見る羽目になった。
自分以外の三人の笑い声が聞こえ、自分が見ている体の斬られた首部分からは血が噴水の様に噴き上がった。
嘘?私死ぬの?こんなんで死んじゃうの?嫌だ、嫌だ……ママ助けてよ。
飲んだくれでネグレクトの自分の母が都合よく助けてくれるわけもなく、少女の意識は次第に薄れていく。
薄れていく意識の中、少女の脳裏に最後に浮かんだ人の顔は、自分を最後に助けてくれようとした親友の顔であった。
あまりにも憐れで、あまりにも惨めな少女。堕ちるところまで堕ちてしまった少女は儚くその命を散らしたのである。
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