柴くんはよく爆発させる

きいろいの

第1話 柴くんは爆破させたい

 ここは如月高等学校。今日も生徒達が元気よく投稿をしている。


「おはよー!」

「おはよう!」


 1年C組の祠堂しどう天美あまみは同級生に挨拶を交わす。今日も一日何も無いと良いなと思った矢先。


 ドォォォォォン!!


 校舎の屋上から大きな爆発音と煙が立ち上る。


「コラー!またお前かー!!!」


 教頭先生が屋上にいるであろう人物に怒鳴りつける。それに応えようと煙の中顔を出してフェンスにもたれる男子生徒の姿があった。


「すみませんねぇ、屋上の掃除はしっかりやっとくので〜」


 まるで反省の顔話で手を振っていた。

 彼はしば瑛二えいじ。天美と同じ1年C組の変人だ。天美はその姿を見ると「またか」という顔で絶句していた。


 1年C組の教室にて。天美にとって柴が隣の席にいるのがすごく気まずい。それは他のクラスメイトも一緒だ。授業中にどこから用意したガラクタかわからないものを分解したり食べ物の成分表をノートに書き記したりとやっていることがわからない。…また爆発させるかもしれないという時限爆弾が側にあるのだ。

 休み時間、その謎の行動を一時的に止めるべく天美は勇気を出して柴に話しかける。


「ねぇ柴くん、あなたはいつからどこまで研究…?うーん、熱心になったのかな?」

「気づいたら」


 これは圧縮言語かと思うほど一言だけで終わった。他に話題を持ち出してみようか。


「そういえば同じ小学校だったよね!あの時は…柴くんと遊んだ覚えがないけど、どんなことをしてたの?勉強に夢中だったり?」

「覚えがないならそういうイメージでいいよ」


 とみかんを弄りながら答える。会話が全然弾まない…ダメだこりゃと思った天美だった。

 天美は昔の柴を何度も思い返そうとした。しかし、空気のような地味な印象しかなく話したこともなかった。もしかして孤独が原因で拗らせ変な実験をし始めたのではないかと少し後悔してしまった。…それよりも一体何をしようとしているのか、本当にわからない。聞こうとしても専門用語だらけで理解が追いつかないかもしれない。天美は頭を抱える中、次の授業のチャイムが鳴った。



 放課後となった。昼休みは柴が屋上の掃除をしていたため平和だったが、明日はどうなるか不安になる。そう思っている生徒は天美以外にも沢山いる。

 天美が下校中同じ制服の生徒と柄の悪い生徒が3人見かけた。


「如月高の嬢ちゃんよぉ、俺らと遊ぼうぜ!」

「いいとこ知ってんだぜー」

「や、やめてください!!」

「いいじゃんかー変なことしないから!」


 それを見た天美は如月高等学校の生徒として、学級委員長として放っては置けなかった。


「ちょっとあんた達!嫌がってるじゃないの!通報するわよ!!」


 片手にスマホを用意して3人を止めようとする。


「なぁんだ?乱入者かぁ?」

「おっほ、しかもいい女じゃん」

「通報されたら、困るよ…な!」


 柄の悪い男の1人がポケットにあった小銭を天美の手首に狙いスマホを地面に落とされる。


「さっすが元野球部!!」

「っ…いったぁ……」

「はい、もう1名追加でー」

「ちょ、離しなさいよ!!」


 天美の両手を取り押さえ、絡まれた女子生徒と一緒に何処かに連れていった。



「おや、これは…」


 放課後の反省文を書かされ他の生徒より遅れて下校する柴が天美の携帯を拾う。それをじっと見つめ誰もいない道を見る。


「この感じ、ただ事では無さそうだ…」



 天美と女子生徒は公園のトイレの裏側の茂みに連れてかれた。池が見えるスポットではあるが、明らかに違う目的で来られただろう。


「おい」

「へいへい!」


 柄の悪い男達はカバンから何かを取り出した。

 それは…。


「ジャーン!!可愛いコスプレセットー!!」

「しかも水着みたいなのもありまっせ!!」

「着てくれるよなぁ?」


 ただの変態に捕まってコスプレを強要されるとは思わなかった…。


「い、いやです…恥ずかしいです…!」

「そうよ!なんであんた達のために人肌脱ぐような事しなきゃなんないのよ!?」

「「「そう言わずにさぁ!さぁ!!」」」


 このまま2人はコスプレさせられるのか…?


「やっと見つけた。よくそんなところで変な趣味を…」


 天美達と男達が声をする方を振り返るとそこには柴の姿があった。


「柴くん!!」

「なんでぇ!てめぇ!俺らのロマンを邪魔する気か?!」

「んー、マロンの代わりに別のものを用意しようか」


 とカバンからゴソゴソと何かを取り出そうとしていた。天美はもちろん女子生徒も柴の噂は知っているので青ざめた表情になっていた。

 柴の右手にはナットのついたネジ、左手にはみかんを持っていた。


「まずはみかんの裏側にナット付きネジを差し込む。しっかり奥まで回しながら刺しておく。それをぶつけるように投げる」


 と説明しながらネジ付きみかんを男達の足元に投げると…。


 ボゴンッ!!


 爆発した。破裂ではない。まるで火薬だったのかと思うぐらいだった。


「「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 男達と女子生徒は悲鳴をあげた。天美は絶句していた。


「ちなみに殺傷能力は無いけど、顔に当たると辛いかもね」


 といつの間にかネジ付きみかん爆弾を3つも用意しており男達に一つずつ投げた。


 ボゴンッ!ボゴンッ!ボゴンッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「目がー!目がー!!」

「みかん怖いよー!!」


 男達は池の水で顔を洗い荷物を持って逃げていった。


「あ…あ…ありがとうございます…」


 女子生徒は腰を抜かしていたが天美が「大丈夫?」と背中を摩っていた。ある程度落ち着きを取り戻した後、お辞儀をし女子生徒は帰っていった。



 天美と柴はすっかり暗くなった池を眺めながら座っていた。


「よくここにいるとわかったね」

「君のスマホのおかげだ。返すよ」

「ありがとう。でも連絡先もGPSもわからないんじゃ」

「それは」

「変人科学者のパワーってやつ?」

「そういうことにしてくれ」


 柴はカバンからみかんを取り出す。


「余ったみかんでも食べるか」

「じゃあ頂こうかな」


 天美はみかんを受け取り皮を剥き始める。


「しまった!それは試作段階のやつだった!」


 ボッコーン!!!!!


 黒焦げになった天美は怒りで柴を池に突き落とした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年1月10日 07:00
2025年1月11日 07:00
2025年1月12日 07:00

柴くんはよく爆発させる きいろいの @kiiroino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画