断罪劇の後始末をお忘れではありませんか?
ひよっと丸 / 久乃り
第1話 断罪するのはご勝手に
「ありえないんだけど」
窓から夜空を眺めながら、悪役令嬢エレシアは深いため息をついた。
ここは王城の奥にある離宮無憂宮だ。名前の通りであればよかったのだが、全くもって憂いの気持ちしかエレシアにはなかった。何しろエレシアは乙女ゲームの悪役令嬢だったからだ。何かにつけてヒロインのライバルとして登場し邪魔をするキャラ、という立ち位置だったのだけど、結論としてエレシアはヒロインに何もしなかった。いや、する必要が無さすぎたのだ。
まぁ、それでもゲームの強制力なのか、卒業パーティーで断罪されたのだが、あまりにもおそまつすぎてエレシアは呆れてものも言えなかった。また、周りに居た同級生たちも然りの状態だった。
「大体、「お前を幽閉に処する」とか言っておきながら、放置はないでしょうに」
そう、エレシアは確かに無憂宮にいるけれど、幽閉と言うにはいささかおかしな状態なのだ。まず見張りの兵士が居ない。それどころかこの無憂宮にはエレシアしかいないのだ。まぁ、幽閉だからほって置かれても仕方の無いことだと割り切ればいいのだろうけれど、そうはいかなかった。
「お腹がすいたわ」
そう、エレシアは空腹だった。なぜなら卒業パーティーで断罪劇が行われたものだから、食事をとっていないのだ。立食型式のダンスパーティーであったから、ファーストダンスを踊る予定のエレシアは、食事に手をつけずにいたのだ。今となってはそれが間違いだった。まさか、ダンスパーティーが始まった途端に断罪劇が行われると思ってもいなかった。おかげでエレシアは飲まず食わずの状態だ。
「しかも寒いわ」
日本人が作ったゲームだから、卒業式は三月だ。日中は暖かいかもしれないが、夜になると底冷えする。おまけに、離宮は石造りの立派な建物で、床はピカピカの白い大理石だ。
「絨毯ぐらい敷いておきなさいよぉ」
エレシアは悪態をつきながら暖炉に火をくべた。一応、自宅のメイドたちがしていることは一通り見て覚えている。いつからあるのか知らないが、薪を暖炉に並べ、マッチで火をつけた。燃えカスの炭のような物が赤くなると、エレシアはその火を大きくして、何とか薪を燃やすことに成功した。
「あー、暖炉って熱効率悪すぎよ」
とりあえずドアと窓は閉めたけれど、王城の離宮だがら無駄に部屋が広い。ついたてをおいたところで意味などないのだ。
「寒い寒い寒いっ」
一番軽そうな椅子を暖炉の前に起き、寝台の上に掛けられていた布を肩から被る。ダンスパーティー用のドレスだから、肩が出ていて寒いのだ。長手袋なんて、シルクでできているから肌触りはいいけれど、暖かさは別問題だ。
「もう、侍女の一人も居ないなんてありえないわ」
ここがどこだか分かってはいるが、ここからどうやって王城に連絡をつければいいのか、エレシアには分からなかった。王配教育として何度も王城に来ていて、配置図なんかも見て建物の繋がりや構造はしっかりと把握してはいる。だが、こんな時間に一人で王城内を歩く勇気はエレシアにはなかった。何しろ明かりになりそうなランプも見当たらないのだ。
「でも、飲まず食わずで一夜を明かす?いや、無理無理無理よ。私お嬢様だもん。公爵令嬢なんだから、そんなこと出来るわけないわ」
実際、王子が「幽閉だ」なんて言ったところで、効力など無いに等しい。それは今こうして証明されている。だって、誰もやってこないのだから。
明るいうちに調理場から何とか水を汲んで持ってきてはいたが、お湯に沸かすすべがなかったのでお茶さえ飲めていない。今、暖炉に火があるが、ここでどうやってお湯を沸かしたらいいのか、エレシアには分からなかった。
「前世の記憶、役に立たないわぁ」
エレシアには前世の記憶があるのだが、それは王配教育には役に立ったが、今の状況を打開するには役には立たなかった。なにしろ完全インドア生活を送っていたので、キャンプなんてした事がなくて、ましてサバイバルなんて絶対無理な前世だったのだから。
「虫も苦手だし、ほんっと、お嬢様に生まれてよかった。んだけどなぁ」
今これだから、完全に詰んでいる。
なにしろ卒業式でダンスパーティーだ。帰りが遅くなること前提だから、もしかすると家族は誰も気がついていないのかもしれない。宰相をしている父に至っては、まだ仕事をしていることだろう。
「ああ、せめてお父様が気がついてくれないかしら」
エレシアが暖炉の火を眺めながらそう呟きた時、地鳴りのような音がやってきた。
「え?何?なんなの?」
まるでダンプカーが走ってきたような、そんな重量のある音と振動がエレシアのいる部屋に響いてきた。
「どこだっ」
「この辺りのはずだ」
「全ての扉を開け放てっ」
男たちの大きな声が聞こえて、エレシアは恐怖した。まさかとは思うが、幽閉なんて言いながら、その実暗殺を企てていたのでは?という考えが脳裏をよぎったからだ。
「え?まさか悪役令嬢の最後にありがちな死亡ルートってやつ?」
ラノベでよく読んだ、悪役令嬢の断罪劇は何故か死刑とか、修道院送りの途中で賊に襲われ死亡とか、幽閉されて病んで自殺とか、ヒロインにちょっとした嫌がらせをしただけで殺されてしまう悪役令嬢。理由が幼稚すぎる断罪劇で命を取られたのではたまったものじゃない。
エレシアは数秒考え込んだ後、腹を括った。
「来るなら来い。私は宰相閣下の娘で王配教育を受けた公爵令嬢なのよ。そんじょそこいらの兵士なんかに殺されていい存在じゃないんだから」
護身用の短剣を確認してエレシアは覚悟を決めた。
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