第158話 変わっていく部長の人生

―学校近くのカフェ―


 今日はラインで部長に呼び出された。

「今後の部活の件で相談がある」と。

 あの部長が珍しいなと思って、「わかりました」と返事をする。

 そうだな。もうすぐ夏休み。ゲーム創作の進行は順調だが、部長には受験だってあるし。いろいろ考えないといけないことが多いんだろう。


 念のため、梨華にも「放課後に部長と部活の件で話があるから、今日は先に帰っていて」と言っておいた。梨華は少しだけ悩んだ様子だったけど、「じゃあ、先に帰っていますね。でも、家に遊びに行ってもいいですか?」と言われたので、「夕食、食べていってよ」と返しておいた。


 ああ、本当に楽しいな……この生活は……前世では梨華とは高校時代に恋人のような甘いことはできなかったから、なんだか新鮮だ。高校時代に恋人と楽しく過ごすことができるなんて、幸せなんだよな。一度社会人を経験したからこそ、わかる。前のミヤビとの思い出は黒歴史になってしまっているから、余計にそう思えた。


「矢口君!」

 先に着いた部長が席を確保しておいてくれた。カフェは冷房が効いていて涼しい。


「お待たせしました」


「大丈夫よ。私が呼んじゃったんだし……アイスティーを頼んでおいたけどいい?」

 部長とはこの3か月で随分と親しくなったな。最初は、恥ずかしがり屋過ぎて、入部すら拒否されたのに。部長は一度仲良くなれば、本当にどこまでも深い信頼関係を作ることができる。


「ありがとうございます」

 すでにこちらの好きな飲み物もわかっているらしい。

 アイスティーが席に来て、一口飲んだ後に本題に入った。


「夏が終わった後の部活についてなんだけど……」

 やっぱりそうだよな。3年生は普通なら夏で部活を引退する。サッカー部などの例外はあったりするけど。ただ、部長は前にも俺たちの部活に魅力を感じているとも将来のためにもなると言ってくれた。


 だから、今日は悪い話ではないはずだ。俺だってできることなら部長と一緒に他にもたくさん活動をしたいし、教えてもらいたいことがたくさんある。


「はい」


「私の後任の部長は、矢口君にお願いしたいなって。副部長だしね。それに、私が調整とか苦手だから、ほとんど部長みたいな役割を果たしてもらっているし」

 その引継ぎと言うことで、呼び出されたのか。たしかに、部長がいなくなってしまうのは痛い。俺がある程度、代わりになることはできても、天才的な発想力や技術を補うことなんてできない。できることなら、引退せずにずっと部活を続けて欲しいけど……部長には部長の人生がある。


「わかりました。部長の後任、がんばります。さびしいけど……」

 それに対して、部長は首を横に振った。思わぬ反応に、こちらが驚いてしまう。


「でもね、私も創作を休みたくはないの。だから、引退しても週に3回は部活に顔を出してもいいかな?」


「いいんですか‼ 俺たちは大歓迎だし、お願いしたいくらいですけど……」


「よかった。大丈夫。この前の三者面談でもね、学校の先生に相談したら、今までの部活の功績や成績を考えたら、私の第一志望校に推薦で受験して合格はできるだろうって。私は情報学部に行きたいから、今の部活を継続することも重要だと思うって先生もお母さんも言ってくれてね」

 その言葉を聞いて、心の中でガッツポーズをしたのは言うまでもない。


「やった」

 短く言葉が漏れていた。部長はくすくすと笑う。


「それで高校を卒業しても、一緒に活動してもいいかな。たぶん、大学に行っても、みんなを超えるような人たちとはなかなか会えないと思うから。私は、みんなと一緒に成長したいの」

 心がどんどん喜びに満たされていく。


「もちろんです。じゃあ、部活のメンバーでサークルも作りましょう。そうすれば、部活の枠組みだけじゃなくて、いろんな活動ができますから」


「よかった。不束者だけど、今後も宜しくお願いします」

 部長は上品に笑う。今日のアイスティーは無糖なのにとても甘く感じた。

 そのあとは、夏休みに入ったら部活のメンバーで部長の別荘に遊びに行く予定などを立てて、楽しい時間を過ごした。


 前世でも、部長に出会えていたら、俺の人生は変わっていたのかもしれないな。そんなことをふと思った。

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