第35話 Get on the bus
校門の前で、マイと落ち合う。いつものように駅への道を歩きだすのかと思いきや、
「今日はバスに乗っていこうと思うんだ。」
彼女はバスを使うことについて、トラウマを抱えていた。その話を聞いたことのある俺は、
「大丈夫なのか?」
というが、
「わかんないけど、嫌なことから逃げてばかりじゃだめだと思うんだ。」
と何かしらの決意を持って彼女は言った。
俺としてはどっちでも良かったが、そうしたいという彼女の意志は尊重したいと思ったから、
「わかった。行こう。」
と言って二人で、バス停へ歩きだす。
一緒でいいのか、などとは聞くまでもなさそうだ。想像するに、俺が一緒にいるから、バスを使ってみようと思ったのだろう。
俺達が並んだのはバス待ちの列の前の方だ。気づけば、列はだいぶ長くなっていた。1台ではさばけなさそうな人数と思われた。でも、オレの経験から、この位置なら多分2人掛けの席に座ることが出来そうだ。そうすれば、マイの不安はかなり少なくなるだろう。俺は定期券を、彼女はICカードを握りしめながら、バスの到着を待っていた。いつもと比べて、彼女の口数は少なかった。 不安などと闘っているのが何となく感じられた。俺も少し緊張してきた。
しばらくして、バスが到着する。ドアが開き、学生達が乗り込んでいく。前から乗るタイプだ。まず俺が定期券を提示し、続いて彼女はカードを機械にかざす。ピッと音がしたのを確認して、二人で、車両の後方へ向かう。2人掛けの席に俺達は素早く腰を下ろした。窓側にマイ、通路側が俺だった。この並びがいいのではないかと俺が提案し、彼女は従った形だ。俺達が席に着くと、瞬く間に車内は学生たちで一杯になった。
乗客たちの動きがなくなるタイミングでバスのドアが閉まり、発車した。車が動き出すとすぐ、マイのてが伸びてきているのがわかった。すぐ手を握ると、彼女の表情が少しホッとしたようになった。でも、緊張は解けておらず、何も話そうとはしない。不安や恐怖と戦っているであろうことは、何となくわかったから、俺も話しかけることはしなかった。
途中何度か止まったりすると、少し人が動いた。途バス停で多少の乗り降りがあったのだろう。そんな中で俺たちはひたすら無言でただずっと手を繋いでいた。マイの手は気持ち汗ばんでいるように思えた。
「つらかったら、途中でおりる?」
俺が小声で聞くと、
「今は、大丈夫。本当にやばくなったら言うね。」
とか細い声で答えた。
酔っているわけではなさそうだが、顔色はあまり良くない。さすがに俺も少し心配になってきた。俺の手を握る力が乗った時より強くなっていた。どうしたらいいか悩んでいたが、彼女が、
「手、離さないでね。」
か細い声で言った。俺は何も言わず、少し手を握る力を入れた。痛くないかなと、不安になったが、
「ありがと。」
彼女のか細い声が再び聞こえた。
そんな中、バスはトラブルなく、多分俺の記憶として、いつも通りの所要時間を持って、駅前のバスロータリーに到着した。
運転手のアナウンスの直後、ドアが開き、乗車していた学生たちはやや急ぎ気味かつ、競い合うまでいかないくらいの勢いで、バスを降りていく。大体周りの客がいなくなったくらいのタイミングで、俺たちは席を立ち、ゆっくりと出口から外へ出た。
車外に出てから、マイは少し背伸びをしていた。
「よかった、ちゃんと乗れたよ。はーくんがいてくれたお陰だね。」
それは、ありがたかったが、彼女の動きが、余りにも、長時間乗り物に乗った後のようなそれだったので、
「トラウマうんぬんより、マイちゃんにはバスが向いてない気がするよ。」
俺が、そういうと。
「あはは、そうかも、でも、次乗るときも、はーくんがいないとダメかも。」
と返してきた。
「無理して乗ることはないんじゃない?」
「でも、アタシは一つ壁を越えた気がする。」
彼女は何かドヤ顔みたい表情でそう言っていた。でも、困難を乗り越えるというのはいいものだなと思った。
その後は、お互い準備やらのため一旦ここで解散。彼女の家の最寄り駅で後ほど再会することとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます