過ぎ去りし嵐
ビョオビョオと吹き荒れる強風が雨戸をガタガタと言わせて、屋根を叩く雨粒がバリバリと響き渡る。あまりにもうるさく、まともに眠りにつく事ができなかった。
管理の行き届いていない屋根から垂れ落ちてくる雨粒をあるだけの桶で受け止めている。
ろくに眠れないし、何かしていないと落ち着かない。とはいえ、暗がりの中でやる事といえば、桶に溜まった雨水を捨てて、また元の場所に戻すか、食事くらいだ。
飯を作るのは時間を潰すには良いものだった。麦や粟は長い時間浸水させ、その後、野草でかさ増しをしてかまどで炊き上げる。
麦はよく噛まねばならないから勝手に満腹感が得られるからありがたい。粟は別に美味しくはない。これもまた野草同様かさ増しである。そもそも庶民である俺のような者は食事に味を期待してはいけない。
1日経つ頃には更に雨足が強まっていた。地盤の硬いこの辺りならば土砂崩れの心配はいらないし、近くに川のない高台の上に位置している。だから氾濫して家が飲み込まれるようなことはない。
そうでなければこんな家で嵐の中引きこもってなどいられない。
とはいえ、これ程の大嵐になろうとは予想していなかった。この人生においてここまで酷い嵐にあった事はない。
この様な状況になるのなら、ボロ屋よりは何処かの宿にでも泊まった方が良かったのではないかという考えがよぎることもあった。
三日三晩嵐を耐え凌ぎ、雲間から青空が見える様になるまで回復した。
外の景色は随分と変化していて、折れた木の枝や葉が散乱していて、遠くの山には土砂崩れが起きた跡が見受けられる。
背負子を背負い、家から下に降りて川を確認してみると、濁流がゴミを飲み込んで流れている。泥やゴミが散乱する道を見るに、氾濫したのだろう。老朽化していた橋、飲み込まれた家や小屋が流されてここまで運ばれてきたのだろう。
少し危険かもしれないが、一度風穴まで向かってみる事にしよう。
あまりに危険であればまた整備して登れる様にすら必要がある。
銅山近くの街では各々が家の修理を行なっていた。屋根が吹き飛んだ家に、木片の突き刺さった家と大変な事態になっている。
「おうカミノマ!お前山に入るのか?」
俺を呼んだのは佐吉であった。佐吉の家は無事だった様で他の家の修理を手伝っているようだ。
「ああそうだ。なにか問題があるか?」
「いや。ただ行くなら気をつけて行けよ。かなり荒れてる」
「ここまで来る間にそんな事は理解しているさ。何より雨上がりに行かねばならないのだ。こんな時に行かねばならないのさ」
「そうかい!何かあればすぐ知らせろよ!」
「ああ、その時は頼らさせてもらうさ」
山に入って風で薙ぎ倒された草の中を進んでいく。
記憶を頼りに進んで小屋付近の斜面を登っていく。途中倒木や落石で通れない所もあったが、少し迂回すれば問題ない。
懸念していた手作りの階段はなんとか生きていた。お陰で風穴まで登る事ができた。
風穴の周囲を囲う木々は葉を散らしてはいるが、凛々しく立っている。
涼しい風の吹く風穴も崩れておらず、問題はなさそうだ。
ここまで来たのでいくつか風穴の中を覗いてみるが、[黒鉄の丸薬]は見当たらない。
「雨が降ったからといってあるとは限らないか。しかし、この場所随分と湿ってきている」
もしかしたら、この湿った環境が丸薬の出来上がるのに必要な条件なのかもしれない。
もしそうなら、数日待ってみる事にしよう。この後の天気は[龍神の瞳]によれば曇りらしい。
少しばかりではあるが可能性を感じられた。
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