番外編『一期一会』

これはまだ姫依と澪華が再会する前の物語。






〈登場人物〉

fairytaleフェアリーテイル澪華みおか 紅音 あかね 詩颯うたは 天鈴 あまり

Bijouxビジューゆき 聖耶 せいや 楼麗るり 櫂璃 かいり 晴斗 はると

その他⋯朝陽あさひ (回想)






ーー1月5日


「あけましておめでとう! 」


正月ムードが褪せ始めているこの日。

毎年事務所では新年会が開かれる。


三が日を避ける意味もあるが、ひとつひとつの出会いを大切にする気持ちを持ち続けてほしい思いから 『一期一会』と1月5日をかけてこの日になったそうだ。



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯



グループでの新年の挨拶を一通り終えての自由時間。

私たち fairytale は Bijoux の皆さんと過ごしていた。


天鈴「う〜ん! やっぱり今年も料理が美味しい⋯」

雪「ふふっ。まりちゃんもかいくんもリスみたい」

紅音「あはは、ほんとだ!

でも気持ちわかるなあ。ビュッフェだからいっぱい食べちゃうんだよね」

天鈴「ほうほうそうそう」 櫂璃「ほえほえそれそれ

晴斗「ははっ。2人とものどに詰まらせないようにな」

天鈴・櫂璃「はーひはーい



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯



しばらくして話題は私達のデビューについてになった。


楼麗「で、澪はどう? デビューしてみて」

澪華「実はまだ実感がないんです。夢の中にいるみたいにふわふわしているような⋯そんな気持ちになる時があります」

紅音「え! 澪も? 実は私も夢の中にいるみたいに実感がわかない時があって不安になったりしちゃうんだよね⋯」

澪華「あ⋯同じです。眠りから覚めちゃうんじゃないかって少しだけ怖くなるみた⋯わっ」

紅音「よかったー! みんないつも通りに見えてたから不安なのは私だけかと思ったよ~⋯」


そう言いながら私を抱きしめる紅音さんと私の頭にすっと手が置かれた。


權璃「ふっ。紅音も澪華も相変わらず心配性だな」


そう言ってぽんぽんと頭に触れる櫂璃さんの手は子供をあやすようなやさしい手つきで、もやがかかった気持ちが少しだけ晴れた気がした。


紅音「ありがとう。おかげで落ち着いてきたよ」

澪華「私もです」

櫂璃「それは何より」

紅音「澪にも感謝してるよ」

澪華「私⋯ですか? 」

紅音「うん。不安を出さないようにしなきゃって思っていたから、澪が一緒の気持ちだってわかって正直少しほっとしたの。リーダーとしてもお姉さんとしても情けない話なんだけどね」

澪華「そんなこと⋯」


気持ちは溢れてくるのにうまく言葉にできない。

私は喉に思いが詰まって動かない口の代わりに紅音さんの服をきゅっとつかむことしかできなかった。



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯



飲み物を取って席に帰ると席を外していた人たちが戻っていた。


晴斗「一期一会って良いよな。オレこの言葉好き」

櫂璃「唐突だな」

晴斗「朝陽さん⋯社長の挨拶を思い出してさ」

詩颯「毎年話している 『一期一会』の 話ですね」

晴斗「それそれ」


“回想”

朝陽「同じ時代に生まれること自体かなりの確率だし、貴方達を取り巻く環境や貴方自身の選択によっては私達が出会うことすらなかった。

そんな中で今私達はこうして同じ時を過ごしているけれど、来年もまた同じ顔ぶれで会える保証なんてものはない。出会いも別れも気まぐれ。

同じ時なんてないんだから今一緒に居る相手との時間を大切にしなさい」


楼麗「一期一会については前の社長の時にも話していたけれど、『出会いも別れも気まぐれ』っ て例えるあたりが朝陽さん、って感じよね」

全員 「わかる⋯」

聖耶「あ。そう言えば俺、事務所に入って最初の方は『今一緒に居る相手との時間~』ってやつ、「今まさにこの瞬間一緒にいる人! 」って思ってたんですよ」

紅音「私も入ってすぐはそう思ってた気がする⋯」

詩颯「私も。それが経験値や年齢を重ねるごとに仕事やプライベートを問わず『目の前の相手を大切にしよう』って受け取り方が変わった覚えがある」

雪「うん。あと私は朝陽さんの話じゃないけど、人との出会いは個人の選択が重なった偶然によるものだなとも思った気がする」

晴斗「オレも。そう考えるとオレ達が出会ったことも奇跡みたいなもんだよなあ。運命の出会い、とか言ってみたくなるな。 ははっ」

楼麗「でた、晴のロマンチストモー ド」

櫂璃「それな。けど確かに俺達は年齢も育った環境も違うとこが多いし、事務所に入った理由もばらばらなとこあるよな」

天鈴「事務所に入るタイミングが違えば今とは違う関係性だったかもしれないしね~」

晴斗「ああ。そんな中でグループ組んだりこうやって話したり⋯それってやっぱりすごいことだと思うんだ」

楼麗「そうね」

晴斗「だからみんなとの出会いを大事にしたいと思ってさ」

雪「うん。私もみんなとの出会いを大切にしたいな。みんなとであえて私は幸せだなって思うから」

紅音・聖耶「うん」



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯



私はみんなの輪から少し外れてテラスで風に当たっていた。


(選択、違う未来⋯)


澪華「⋯」


あの時だけを切り取れば正解とは言えない。

けれど今私の周りの人たちを見ればこの未来自体は正解と言える。


(どうすればよかったんだろう⋯)


私は考えが何も浮かばなくて、思考を放棄するようにただゆるく頭を振って新鮮な空気を吸い込んだ。


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