第3話 五神官
解散したあとは五神官とともに近くにあった大きな建物に入っていく。大きな部屋があって上座っぽいところに椅子が置いてあった。ゴーレムがそこに私を下ろしてくれた後、なんの音も衝撃もなく消滅し、あとには元の木の杖が残った。
「正直ここまで長持ちするとは思いませんでした。さすがの魔力です」
とガギ。どうもあのゴーレムは私の魔力で動いていたようだ。再び木の杖に戻ったのでそれをガギが拾い上げたあと、またその杖を部屋の中心にたてて何かを唱えた。杖が軽く光って浮いたままになる。
「これでこの杖から離れているものはこちらを、何も聞くことはできないし見えません」
ガギは四人に向かって立ち、私を振り返って宣言する。
「わたしは仮面をとってリン様に忠誠を誓うつもりだ。お前たちになら顔を見られてもいいだろう」
他の四人も仮面をつけているので顔色は分からないけど、驚きの衝撃があったようだ。
「よ、良いのですか? パートナーでもないものに顔を晒して?」
「……かまわんだろ?」
「私はそれに賛同します。ガギがお顔を出されるのでしたら私も出して忠誠を誓いましょう」
一人が賛同してからは話は早くまとまったようで、全員がそれぞれ顔を出すことになったようだ。
「これは……私も忠義に報いなければなりませんね」
と出来る限り偉そう、かつ皆のためみたいな雰囲気を出しつつ言ってみる。ここに来る前に顔まで緑色に塗っておいて良かった。
ガギの方を見た。止めるような様子はない。なら大丈夫だろう、とカバーを椅子の横に置いて顔を誰よりも先に晒した。
皆、ガギも含めて、一斉に跪いて仮面を外した。跪いて顔を下に向けてるから、誰も私の顔を見てないし、私も見れない。
しかしそれも一瞬のことで、まずガギが恐る恐るといった感じで顔を上げた。
ガギは思った以上に美形だった。ハイとはいえゴブリンだからなぁ、と思っていたけど、牙とか生えてるけど八重歯みたいで可愛いし、やや尖った耳はコスプレみたいだけどまあスルーできる。わたしもそうみたいだしね。
鼻の造形も普通のゴブリンみたいな鷲鼻でなく美形のすらっとした感じだし。それに目がすごい綺麗だ。唇も薄い、まあこれは好みによるか。
唯一気になるのは全部緑色ってところだけど、ゴブリンなんだから仕方ないね。
ガギはこちらをひと目見た後目を伏せてにやっと笑った、気がした。たぶんちゃんとメイクしてるのを確認できたので笑ったのだろう。だよね?!
私がブサイクだから笑ったとかじゃないよね!
実際のところ今の自分の顔は手で触っただけだから正直どんなのか分からないんだよ。
次に顔を上げたのは顔を出すことに賛同した女性だった。
やや幼いといった顔だ。
将来すごい美人になりそう。全部緑だけど。
あ、髪の色は赤系だけどガギやグゲとは明らかに違うタイプの赤だ。
それにこの人は緑も薄い感じがする。そのへん個体差があるのかも。私の肌の地の色も個体差で済めばいいんだけどなぁ。
グゲは、いかにも戦士やってます、といった武人系って言えばいいのかな。そんな精悍な顔つきだった。これも美形といっていいと思う。
なんだハイゴブリンって美形の集団なのかな?
残りの二人のうちの男性は、おじさんっぽかった。
若い頃は男前と言われた、みたいな感じのナイスミドル顔?
たぶん実際年齢も上なんだと思う。
最後に顔を上げた女性は、うん、なんだこの美女は、といった感じの女性だった。
赤というかピンクに近いストレートの長い髪を持ったすっごい美人。
肌の緑色も薄緑といった感じで薄いし、女性は色薄い傾向があるのかも。
ガギを除く四人はこちらをちらりと見て、恐れ多いって感じの表情を一瞬したと思う。
相手がいかにもゴブリン顔だったら表情読めなかっただろうけど、人間っぽい、しかも美形ばかりだから読みやすかった。
「そういえば皆さんの名前をガギとグゲ以外は聞いていませんでしたね。あ、一応自分で言ってないので。私はリンと申します。今後ともよろしくお願いします」
「頭をお上げください。我らに対し頭を下げる必要はありません」
そうガギに注意されたけど、概ね間違っていなかったと思う。だって皆顔を上げて目をきらきらさせ始めたんだもの。おじさんですら。
まずはそのおじさんから。
「わしはギグと申します。技巧を司っております。我らジュシュリの技術は神話の時代にドワーフから受け継いだものです。それを伝承しております」
「おお、ドワーフ! 皆さんが伝承されているとは? ドワーフはいないのですか?」
私が知ってる知識では、ドワーフとゴブリンって仲が悪かったと思うんだけど。
「ははっ。ドワーフはその神話の時代に絶滅したと言われております」
おお……、そうなんだ。でも技術力が高いとされているドワーフの技術を受け継いでるならジュシュリの技術も高いのでは? もしかするとこの世界でも最高水準なのかもしれない。これは良いことを聞いた。
次は最初に賛同してくれた幼い感じの女性だ。
「わたしはゴガと申します。言語を司っています。ちなみに我らの名前も神話の時代から受け継いだものです」
言語? いろいろ話せるのかな?
「神話の時代から存在している言語を習得しておりますので過去の石版などを見つけたらそれを知識とすることが出来ます」
おー、なるほど。神官たちはそれぞれ専門の知識を持っているようだけど、その知識を増やす手段を持ってるってところか。
あとはすっごい美人、というか美ゴブリン? のピンク髪の彼女。
「貴方の名前を当ててみましょうか? ゲゴ、じゃないかしら?」
私はドヤ顔でそんな事を言う。だって今までの名前を聞いてたら、ねぇ。それに伝承された名前みたいだし、そういう法則性はありそうだ。
「そうでございます。わたくしはゲゴです。魔術を司っております。ゴーレムが専門ですが、魔術全般と言っていいです」
ゲゴは素直にすごい、なぜ分かった、みたいな表情をしながらそう言った。
「ゴーレムですか、私が先程乗っていましたけど、ガギも使えるのですよね?」
あのロボット、やっぱりゴーレムなのか。ガギもそう言ってたし。ファンタジーな世界なんだね、ここ。そうだと思っていたから大丈夫だけど若干動揺した。
このまま話してたら動揺を悟られかねないのでガギに話をふってみる。
「はい、私は口伝を司っており、他の神官たちの知識も多少持っております」
おー、なるほど。万能ってことかな。確か五神官のリーダーみたいなこと言ってたし、そのためかな。
「となると、グゲは、武具とか戦闘とかかしら?」
グゲがきらきらした目で私を見つめる。先程は恐れ多くて直視できないといった感じだったのに、もう慣れたようだ。
「さすがでございます。俺は戦術、武技など、戦いに関する知識や実践を伝承しております。故に今後リン様の護衛として侍らせていただくことが多くなるかもしれません」
「さて、人払いをした上で五神官のみになったのには顔見せ以外にも理由がある」
そう言ってガギは私に一歩近づいてきた。
「失礼します、お手をお貸し願えないでしょうか?」
そう言われたので手を差し出す。エスコートするように手を取り、もう片方の手でいつのまに持っていたのか水か何かを含ませた布で私の手を拭いた。
え? そんなことしたら肌の色が違うってばれちゃう?!
と思ってビクッとしたが、なにか考えがあるのだろう、と思い直し、されるがままにする。
手に塗っていたものが拭い取られて、元々の肌が露出する。他の四神官が息を呑んだのを感じた。
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