転生した”わたし”はゴブリンの姫としてゴーレムを開発し、世界を変える

なぞまる

第1話 ゴブリンが現れた! どうする?

やっちゃった! と思った時には全てが遅かった。自損事故だ。体がばらばらになったかのような衝撃と足に激痛を感じる。


ふと足元を見てみると、右ふとももの下から大量の出血、すぐに救急車が来ると思うけど、これは間に合わないかも……、と思いつつ、気を失ってしまった。



……



ふと目覚めた。


あれ? 死なずに済んだ? 



ラッキー、なのかな?


あの状態じゃ右足はどうなってることやら。


あれだけの事故だったのにどこも痛くないぞ。



んー、それにしてもここはどこだろ?


どう見ても日本の病院とは思えない。



あの有様で病院以外にいるとも思えないし、そもそも木造で、明かりは窓から入ってくる陽の光だけという状況だ。



体を起こしたらなにか見えないものに頭をぶつけた。


「あいた!」


思わず漏れ出た声は妙に高い別人の声だった。ぶつけたところへ両手を伸ばしてみると手も小さい。


なんだこれ。



不思議に思いつつ両手を伸ばすと透明なものに触れたのでそのまま押してみる。


ガラスみたいに透明なものがあるように感じた。触った感触は木みたいだけど。

あまり重さは感じなかった。


それを押し続けるとガコって音がして、それが外れた感じだ。

軽い音がして足元に固定されたようだ。



たったそれだけでだいぶと疲れた気がしたけど、気にせず顔を触ってみる。小さい。


それに髪が長い。私はショートだったはずだし、こんな真っ赤な色であったはずがない。


それに自分が着ている服もなんだろうこれ。こんな肌触りの服はあまり着た覚えがない。

幸い不潔な格好ではないのが救いか。大きなTシャツをかぶってる感じで、下は下着をつけているだけだった。



それにさっきから気にはなってはいたんだけど、右足がないような気がする。


……気がするだけだったら良かったんだけど、左足は自分の思い通りに動くのに、右足は動かない、というかそもそもないしなぁ。あの事故の影響なのかな?


あの有様じゃあっちにいてもダメだった気がするしなぁ。それに痛くはないし。



そう、すでに自分が別人の中に乗り移ったこと自体は素直に受け入れたけど、右足を失ってしまっている現状には仕方ないと思いつつも納得がいっていなかった。



……



喉が乾いた……。付近には誰もいないみたいだし。


辺りを見回してみると、部屋の端に大きな瓶が置いてあって木製の蓋がされていた。決定的だったのはその蓋の上に柄杓みたいなのが置かれていたことだ。


たぶん水だ。



左足を慎重に床に下ろす。何故か左足は緑色に染まっていた。


痛くはないので肌が変色してるってことはないと思う、たぶん薬草とか塗りたくってるんだ、そうに違いない、そうであってほしい、と一瞬で考え、たとえ何であってもどうしようもないよねぇ、と一瞬で諦めた。



床は明らかに汚れていたが仕方ない。ゆっくりとベッドを支えに片足で立ち上がる。


先程起こした重いガラスのようなものは外側から見ると変な文様が入った木製のカバーっぽかった。



立ち上がると想像以上に視点が低い。瓶よりは背が高いっぽいから行けるだろうけど。この小ささは小学校に入ったばかりぐらいなんじゃないかな。



片足でけんけんとまずは窓際へ移動する。


窓の位置が高くて外はあまり見えない。



まあ窓が高いんじゃなくて私の背が低いんだけどね。


そこから壁にそって移動しようとしたら、窓の向こうから足音っぽい音が聞こえてきた。



水に未練はあったけど、こうやって立って動いてるとまずいような気がしたので慌ててベッドへ飛び込む。



うう、けっこう大きな音を出してしまった。しかし気にせずベッドへ潜り込む。


あ、かぶせてあったものがそのままだ。起きてることはすぐにばれそうだ。


幸いこれ、こっちからは見えるけど外からは見えないはずだし、座って待ってよう。と思い直してベッドに座って唯一の扉がある方を見る。



ベッドの上でも足音が聞こえてくるようになった。こちらに近づいている。


誰かが喋っている。特に隠れて近づいてきているわけではないようだ。


ただ不思議なのは明らかに日本語ではない、むしろ言語なのか、と思える濁音ばかりが聞こえてきているのに、それの意味が分かるのだ。



「いませんね」


「言われていた危惧が発生したのやもしれんな。近寄るなとも言われていたが仕方あるまい」



ドアが開かれて入ってきたのは四人。


うち二人は大きな仮面をつけていて、そのうち一人は神父様みたいな服をきていて木の枝そのままって感じの長い杖を持っている。



肌の色は緑だけど。



もう一人はたぶん鎧をつけてる。鎧とか見たことないんだもの。


大きな武器も持ってるし。この二人は身長高くて大人としても背の高い方だ。



けど残りの二人は、仮面は一応つけてるけど、目の周りを隠すだけのマスカレードマスクみたいなものだ。だからわかったんだけど、人間じゃなかった。



だって全身緑色だし、背が低いし、牙生えてるし、耳とがってるし!


二人は粗末な布を腰につけてるだけでほぼ裸のように見えた。もちろん素足だ。

そしてその手には短剣が握られていた。



これ、ゴブリンよねぇ。



と、立て続けにいろいろと起こったために麻痺した頭でそう考えていた。今にして思えばそうやって呆然としていたのが良かったのかもしれない。



「な、なんという大きな仮面だ」


四人が入ってきた途端、先頭にいた神父様っぽいのがそうつぶやく。なんかかなり棒読みみたいなつぶやきだけど? 神父様の大きな仮面はこっちを向いている。



カバーが立ててあるから大きな仮面をかぶった人がベッドに座ってると思っているのかな。神父様以外は跪きはじめている。



「それほどの大きな仮面、さぞや高位な方だとお見受けします。さあ、我らとともに参りましょう」



なんかへんな理由で私を連れて行こうとしてるみたい。けどこっちを高位だと勘違いもしているみたいだ。



「え、えーと、あなた方はどなたでしょう?」


日本語で聞いてみたけど、通じたようだ。まーこっちも向こうの言ってること分かるしね。



「はっ、我らは神話の時代より代々知識を伝え続けるゴブリンの部族、ジュシュリの者。私はジュシュリ五神官の一、ガギと申します、姫様」



そう言ってガギも跪いた。まー声から女性だとわかったってのはいいとして、なぜ姫? それにゴブリン?



「貴方様のお名前を伺っても?」



えーと、どうしよう。姫様とか言い出してるから姫様っぽく喋ったほうがいいよね。


「あ、アサナギ リンです。リンでお願いします」



「リン姫様、どうかジュシュリへ」


え、えーと、どうしよう。このままここにい続けるより、なんか敬ってくれてるこの人?たちについていった方が良い気もするし、危ない気もする、ゴブリンみたいだし。



それに敬う理由がこのカバーにあるみたいだからこれも持っていかないといけないだろうし、って持てるように取っ手がついてたよ。透明に見えるから気づかなかった。



そしてとりあえずベッドから降りようと左足をベッドから出した時点でようやく気づいた。

右足がないからまともに歩けないことを。

片足ではねながら移動はできるけど、長くは持たないだろうし、この大きな仮面を持ちながらは無理なことも。



「え、えーっと、実は私歩けません。片足を失ってますので」



片足を失ったのはここに来る前の、今とは別人のアサナギリンだけど、この体も失っている。


けどいつどのように右足を失ったのか分からないのでごまかして言った。



「おお……、では私が乗り物を作りますので、それに乗ってください」



片足がないからついていけない、と言ったつもりだったんだけど、彼はついてくるのに同意したと取ったみたいだ。


神父様みたいな姿のガギは立ち上がり、杖を立てる。


手を離してもそのまま立ちっぱなしの杖に向かってなにかつぶやいた。

すると杖が目の前でグニョグニョと膨張、変形して人型になった。お、おぅ……なんだこれ。



「ジュシュリに着くまではウッドゴーレムは持つと思いますが、急ぎたいと思います」


杖から変形したウッドゴーレムはベッドの上の私に手を伸ばしてくる。慌ててカバーを持つ。ウッドゴーレムは優しく私をいわゆるお姫様だっこしてくれる。


片足がないのに慣れてないから助かる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る