第3話   予言者マーデットVS首無し魔王

 ダメ王のせいで、せっかくの魔王完全討伐の好機が……しかもこの我『サクリファイス以下略』を魔王本人に譲渡してしまうとは!


 白けた空気で解散してゆく、予言書解読団体。王からの支援で成り立っている学者集団ゆえ、王の機嫌を損ねて資金をカットされては困るのだろう。ハァ、いったいなんのための解読団体だ。今こそ世間体をかなぐり捨てて、魔王に臨むときであろうが!


 誰ぞ、気骨のある者はおらんのか!


 あぁ~、我が、魔王に抱っこされる形で運ばれてゆく……。魔王は背中に野菜の入ったリュックを背負って、城を後にし、市場へと歩いていった。人混みの中をとことこと。このままでは逃がしてしまうぞ。


「待て、魔王め!」


 んお?


 魔王の二の腕を掴んで引き留めたのは、あの男装の麗人マーデットであった。じつに勇ましい面立ちである、生前のお父上に、そっくりであるな。


 魔王は路地裏へ引き込まれた。


「あ、あの……」


「そんな弱々しい姿に擬態しても無駄だ!」


 魔王はあっさりと胸倉を掴まれて、背中を壁に打ち付けられた。リュックサックと我が、地面に転がる。


「大賢者様の残された予言書には、貴様こそが魔王であると、はっきり記されてある! 他の学者どもは諦めても、この私だけは、貴様から証拠を引きずり出し、兵士の前に突き出してやる!」


 傍から見れば暴漢に襲われる儚い美少女、だが実際は、人間代表と魔王の一騎打ちである! やれー! マーデット!


「きゃあああ!」


 マーデットが羞恥と驚愕で目を見開き、胸部を押さえながら後退りした。なんと、魔王が彼女の胸を鷲掴みしたのだ。


「マーデットさんって、女性ですよね」


 自由になった魔王が、ゆらりとした不気味な足取りでマーデットに近づいてゆく。金色の長い髪がすっかり乱れて垂れ下がり、表情を覆い隠している。


「僕、知ってるんです。女性が予言書を読むことを、反対してる国が多い理由を。大賢者とかいう人間が、『女の予言者が世界を滅ぼす。故に、女に予言書を読ませてはならぬ』と書き残したから」


「近づくな! 下劣な魔王め!」


 逃げようとする彼女に魔王が間合いを詰め、足払いからの背負い投げ! 小柄で儚い体躯に似合わぬ豪快さ。地面に転倒するマーデットの帽子が、ローブが、綺麗に脱げてしまった。艶やかな赤毛が白い肩を覆う。体にはサラシこそ巻いてはいるが、隠しきれない豊かな胸部が激しく揺れる。


 マーデットが悲鳴を上げて起き上がった先には、彼女のローブと帽子を奪い取った魔王が。ついでに我も拾われ、芋リュックも背負い直される。


「僕に女性だと言いふらされたくなかったら――お嫁さんになってください!」


 勢いよく一礼する、魔王。


 一瞬、時が止まったかのような空気になった。


「え? いいんですかぁ!? 嬉しいです!」


「まだ何も言ってないだろ! それより、服を返せ! 私が女だと知られたら、殺され――」


「僕の巣に案内しますね、一緒に来てください!」


 脱兎の勢いで、路地奥に逃げる魔王。半裸で放置されてなるものかと彼女も追いかけるが……やがて疲労したか、巨乳をゼェハァと上下させながら立ち止まってしまった。


「私は、生涯、己の性を偽り、予言書解読団体の一員として、魔王の完全復活を阻止すると、父の墓石に誓いを立てた。いわば、貴様の敵だ! それを嫁に貰うなど……何を企んでいる!」


「逆らえる立場だと思っているんですか? お願いですから、おとなしく言うことを聞いてください」


 うるうると瞳を揺らして懇願する魔王。台詞と顔が合っとらんぞ。


「う……まあ、魔王復活阻止に貢献できるなら、この身を犠牲にしてでも貴様を監視する価値はあるな」


「子供は何匹欲しいですか!?」


「声を抑えろ! 誰か来たらどうする!」


「巣に帰りましょう。みんな待ってますよ」


 会話が、微塵も噛み合わん……。


 嬉しそうな魔王、顔が引きつっているマーデット、そして運ばれてゆく我……まんまとお持ち帰りされてゆくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る