第60話 ヒューイの謎

「ぐあぁぁ・・・勉強とか、かったるいとしか思ってなかったけどよ、生き死にに関わると思ったら結構集中できるもんだな・・・」

康介は解放されたと言う感覚を全身で表現しながら食堂棟を出てくる。

昼食をはさんで午後は各自の自己鍛錬・トレーニングタイムとされていた。


今日だけではまだまだ理解ができていないと思うので、明日も引き続き行われるらしい。


ゼオもちょっと疲れた表情で棟から出てくる。

「柄にもないことをやると疲労が半端ないな・・・」


その後ろから響が走ってきてゼオを追い抜いた。

響が走りながら、「ヒューイ!あそぼう!」と叫ぶと、巣箱というにはかなり大きい木造の箱から、ピィッ!と鳴いて響のところに飛んでくる。


響はがんばって、飛鳥から手ほどきを受けて写真章を、さくらの手ほどきで通信章を取得している。

そしてこのスキルのおかげで、ホームの外に出なくても簡単な偵察はできるようになったのだ。


「お、おい、ちょっとまて!その鳥、ちょっと見せてくれ!」

ゼオは、響と楽しそうにじゃれるヒューイをみて驚き、そして響のもとへ駆け寄った。


「はい?いいですよ!ヒューイ、おいで!」

響が声をかけると、ヒューイはひと鳴きして肩にとまる。


「ま・・・間違いない・・・ラムナス鳥だ・・・」

ゼオはまだ自分の目が信じられないといったていで、声を震わせている。


「?この子、ラムナス鳥って種類なんですか?」

キョトンとして響が質問をすると、ゼオは目を見開いて興奮したように話し始めた。


「君は知らんと思うが、この鳥はとても貴重な鳥でね。

俺たちの神、ラムナの使いと言われているんだ。とても臆病で、人に懐かず、そして目にする機会はほとんどない、かなり長生きする鳥だということを除いて謎の多い鳥なんだが・・・」


「そうなんですか?この子、矢が刺さって苦しんでいたんですよ?それを助けて、そしたらお友達になっちゃって」


「!?矢が刺さっていただと!どこのどいつだ!罰当たりなやつめ!

まてよ?だいぶ前に、目撃情報がこの近くの村であったな・・・捕獲しようとして逃げられたとか言っていたが・・・まさか、その時に矢を射っていたのか」


眉をひそめてかなり難しい顔をするゼオを見たヒューイは、響の肩の上でピィピィと何かを訴えるように鳴いた。


「え?ヒューイ、そうなの?うん、なるほどね。わかった」

響はヒューイが伝えたいことを理解し、ゼオの方を向いた。

気が付くと周りにはほぼ全員のスカウトが、何事かと集まっている。


「ゼオさん、ヒューイはもう気にしていないから大丈夫って言ってます。

迂闊に近寄った自分のせいだって」

「なに!?きみはラムナス鳥の言うことがわかるのか!?」

「はい、スキルのおかげで」

「・・・もう驚かんと言ったが、前言撤回だ・・・非常識にもほどがある・・・」


ヒューイはまたピィピィと鳴いて響に意思を伝えようとしていた。

「ヒューイ、それどういうこと?」

「何と言っているんだ?このラム・・・じゃない、ヒューイ君は」


その瞬間、ヒューイがゼオに向かってギャーギャーと騒ぎ始める。

「ゼ・・・ゼオさん、ヒューイが女の子に向かって「君」とは何事だと・・・」


それを聞いたゼオと、周りのスカウト達も一斉に驚く。

「うそ・・・メスだったのか・・・てっきり名前からオスだとばかり・・・」


「この子、ホントに長生きみたいですね。自分に矢を射った人が生まれるずっと前からその村を知ってるんだーって・・・ちょ、ヒューイ、落ち着いてってば・・・」


響のなだめでようやく落ち着くヒューイ。


「なんだろう・・・ラムナの使いって言うだけあって、知性がすごいのはよく分かった。

なのに、なんでこう・・・残念感が漂うんだろう・・・」

ゼオがぽつりと漏らす。


「あの、ゼオさん・・・この子がかなりレアだというのはよくわかりました。

であれば、街に連れていくのはまずい・・・です・・か?」

響は上目づかいでゼオを見ている。


「んー・・・ああ、いや、そう思うよな。

それも含めて色々と根回ししてみるよ。大事な友達なんだろう?」

そう答えたゼオに、嬉しそうに笑ってみせる響。


そんな状況が落ち着いたのを見計らって、希が口を開いた。

「はいはーい!そろそろ昼食の準備をしないと遅くなっちゃうよ!

各班、はたらけー!」


その声に背中を押される形で、集まっていたスカウト達は炊飯作業に取り掛かろうと動き始めた。

それを見送ったゼオは、アイコンタクトで蒼真を呼んで、L8棟へ入っていった。


「どうしました?ゼオさん」

「んー、お前には予め言っておいた方が良いと思ってね」

「なにをです?」

「うん、根回しのことなんだが、正直なところ勝算は五分五分なんだよ」

「というと?」

「俺は、君らとそのスキルを保護する方向に働きかけるつもりでいるわけだが、さっきのヒューイも含めて規格外すぎることがマイナスに働く可能性もあるってことだ」


蒼真は少し考えて

「要は受け入れるのではなく、排除される可能性もあるってことですね?」

と、ゼオの懸念を言語化してみた。


「まあ、平たく言えばそう言うことだ。

コネの方はそれなりに理解力も先見の明もある。

しかし、保守的な議員や関係者が多いのも確かだ。

そのあたりを踏まえて、どの程度までお前たちのことを伝えればいいか・・・」


「なるほど。分かりました。

ですが、ゼオさんが一人で抱えられなくても良いと思います」

「ほう?」

「僕らがこの世界で異端だというのは理解しています。おそらくみんなも。

その上で、僕らは真摯に、愚直に、僕らを信じてもらうしかないんです。

僕らはボーイスカウトです。この世界でもボーイスカウトであり続けたいと願っています。」


ゼオは即答せずに、蒼真の顔を見つめた。


「・・・わかった。では俺が街に戻る前に、ボーイスカウトというものがどういうものか、俺に説明してみせろ。それも含めた価値を俺が伝えきれば言い訳だろう?」


「わかりました。指導者ではないので俺もきちんと説明できるかわかりません。

ですが、俺たちの隊長たちから教わってきたものは全て伝えたいと思います」


「頼むぜ。まぁあれだ。少なくともこのボーイスカウトというやり方は、この世界にはないものだ。スキル云々は置いておいても、価値のある活動だと思う。

その方面からも切り崩してみるよ」


「よろしくお願いします。

そろそろ食堂に行きましょうか。昼食をとってからまた話をしましょう」

蒼真とゼオは、そう言って食堂棟に向かって歩き出した。

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