逆さパンティ

@JULIA_JULIA

第1話

 満月の夜、ワタシは森の中を彷徨っていた。目指しているのは、我がカイゼル王国。その国境へと向かうため、森の中を彷徨っていた。できる限り足音を立てず、息を潜めるようにして森を進む。誰かに見つかってはいけない。もしそうなれば、たちまちのうちに捕らえられてしまうからだ。


 此度の戦争で、我が軍は大敗した。敵は狡猾な策を用い、我が軍を翻弄した。そうして潰滅へと追い込んだ。第三部隊を率いていたワタシは命からがら戦場から逃げおおせたが、まだ敵の領内からは脱出できていない。


 女だてらに五大将軍の末席に名を連ねるワタシは、格好の捕虜となるだろう。それなりの身代金を得られるからだ。しかし、そんな事態は避けたい。祖国に───国王陛下に迷惑を掛けるなど将軍として、あるまじき行為だ。よって残党狩りに捕まるくらいならば、死を選ぶべきである。


 とはいえ、今はまだそのときではない。無闇に死んでも仕方がない。なんとか生き延び、カイゼル王国へと帰還し、引き続き陛下のために命を削る。それが将軍たるワタシの務めであり、道を切り開いてくれた部下たちへの報いとなる筈だ。


 既に残党狩りには出会でくわした、それも中々の人数の。そのため付き従えていた兵士五名はワタシの盾となり、活路を開いてくれた。彼らの無事を祈りつつ、ワタシは重厚な鎧に守られながら歩き続ける。


 今宵は満月だ、そのため月明かりを頼ることができる。森の中に差す光は少なく弱いものの、それでもなんとか進むことができる。仮に新月の夜だったならば、こうはいかない。完全な闇の中、ただ身を潜めて夜明けを待つしかなかっただろう。


 やがて、僅かながらもひらけた場所へと出た。細く左右に伸びる道へと出た。これまで以上に月光が差し込んでいる。その先には、またしても森。ワタシは足早に光を通り抜けようとする。影に身を置かなければ、誰かに見つかってしまうかもしれないからだ。


 そうして再び森の中へと入る際、奇妙なモノが目に移った。それは、一体の人形。木の枝に逆さの状態で吊り下げられている女児の人形だ。その大きさはワタシの前腕ほど。陶磁器製の顔は薄汚れ、月光を鈍く反射させている。また、纏っているドレスはところどころが擦り切れて、あちらこちらに穴が開いている。


 そんな人形が両足首を細い綱で巻かれ、吊り下げられている。両腕は地面に向けてダラリと垂れ下がり、恥じらいを隠す筈のスカートは大胆にもめくれている。


 なんとも、おぞましい。まるで残党狩りに捕まったワタシを見ているかのような気分だ。一体これはなんなのだろうか。それなりに気にはなるが、今は帰国するのが先決だ。よって、おぞましい逆さ吊りの人形を横目に、再び森の中へと入る。


 やがて森を進むと、イヤな予感がした。なにかの気配を感じたような気がしたのだ。残党狩りか、獣か。はたまた、別のなにかか。ワタシは深い藪の中へと慎重に体を運び、ゆっくりと身をかがめつつ、腰にたずさえている剣の鞘を外し、左手に持った。それから這いつくばるように限界まで身を低くして、耳に意識を傾ける。そうして静かに時が過ぎるのを待つことにした。


 程なくして、僅かながらも藪を掻き分けるような音が聞こえた。やはり誰かがいる様子。距離はまだありそうだ、なんとかり過ごさなければ。そうして息を殺していると、不意に両足を引っ張られ、体を引きられた。突然の出来事に驚いたワタシは、握っていた剣をうっかりと手放してしまう。


「くっ! 離せ、離さぬか!」


 うつぶせの状態で引きられる中、懸命に身をよじるが、相手の力はなんとも強く、逃れることはできない。よって変わらず引きられるしかない。しかし、やがてワタシの体は宙に浮いた。持ち上げられたのだ。そうして運ばれ、やがて森を出る。


 どうやら先刻横切った道へと出たようだ。満月が照らす中、首を左右に振ると、なんとも小柄な男たちがワタシを持ち上げている。その背丈はワタシの半分ほどだろうか。そんな男たちの数は、五。両肩、両足、そして腰。その五ヶ所の下に男たちがいる。


 重い鎧を纏っているワタシを軽々と持ち上げている

彼らはみな、腕が太くて力強い。そのため、やはりワタシが暴れようとも逃げることはできなかった。






 暫くののち、ワタシが運び込まれたのは、小さな集落。いくつかの篝火かがりびかれ、多少は明るい。そんな集落の広場へと連れてこられるや、ワタシは投げ捨てられる。


「ぐっ! 貴様ら・・・」


 ワタシは地面を転がり、片膝を突く形で起き上がった。そうして周りを見ると、小柄な男たちに取り囲まれていた。その数たるや、二十では利かない。そして、やはり全員が太い腕を有している。更には足も太い。


 剣さえあれば、なんとかなったかもしれない。しかし素手で抗うには、分が悪い。彼らの力強さは体感済みだ。とてもではないが、これだけの数を相手にできるとは思えない。


 だからワタシは覚悟を決めた。コイツらは残党狩りなのだろう。このままでは捕虜になってしまう。よって、舌を噛み切る覚悟を決めた。しかし・・・。


「おい、姉ちゃん。そのズボンを脱げ」


 その言葉は、予想外のモノだった。いや、ワタシが失念していただけか。群がる男たちと、女であるワタシ。この状況を鑑みれば、が生まれるは必然ともいえる。


 仮に、この場の男全員を相手にして解放されるのならば、それで良い。カイゼル王国に生還できるのならば、それで良い。しかし、そういうワケにはいかないだろう。辱しめられた上、捕虜にされるのだろう。捕虜になることだけは絶対に避けなければならない。よって、ワタシは再び舌を噛み切る覚悟を決めた。ところが・・・。


「ほれ、ソイツに履き替えろ」


 一人の男がなにかを投げてきた。丸めた布のようなモノをワタシの足元に投げてきた。それを拾い上げ、広げてみる。麻でできたスカートだ。その丈は短く、ワタシが履けば膝を隠すのが、やっとというところ。ワケが分からず、男たちの顔を窺う。すると・・・。


「あ、わりわりぃ。オイラたちは後ろを向いてるから」


 その言葉のあと、男たちは軒並みワタシに背を向けた。そんな状況にワタシは戸惑った。なにがなにやら、全く見当がつかない。とはいえ、これは逃げ出す好機なのかもしれない。しかし逃げ出そうにも、周りには多くの男たち。ワタシは完全に取り囲まれている。


 自決するのは、いつでも可能だ。今はまだ、そのときではないのかもしれない。ここは暫く様子見をしよう。とりあえずは男たちの言うとおりにスカートへと履き替える。なんだか異様な状況だ。背中を向けられているとはいえ、たとえ一瞬とはいえ、男たちに取り囲まれながら下着を晒すことになるとは。程なくしてスカート姿になったワタシは声を掛ける。


「は、履いたぞ・・・」


 すると男たちは一斉に振り返り、ワタシを凝視した。


「おぉ! 悪くねぇ!」


「こりゃあ、楽しみだ!」


「久々だからな!」


「上手くいくことを祈るばかりだ!」


 口々に喋り始め、ワタシへと近寄ってくる男たち。程なくすると、一人の男がワタシの目の前に立った。


「姉ちゃん、ちょっとばかし協力してくれや」


 なんのことだか分からずに、訊き返そうとした。しかしワタシが言葉を発するよりも早く、その男は飛び掛かってきた。更には、他の男たちも飛び掛かってきた。






 暫くした頃、ワタシは鎧を剥ぎ取られていた。そして猿轡さるぐつわめられていた。更には後ろ手に縛られ、両の足首には太めの綱が巻かれている。だが、服は剥かれていない。


「んんーーーっ!! んーーーっ!」


 猿轡さるぐつわによって、舌を噛み切るどころか、まともに声を出すこともできない。ワタシが顔を強張こわばらせる中、男たちはニヤニヤと笑っている。彼らの目的はなんなのだろうか、襲うつもりではなさそうだ。もしそのつもりならば、服を残したりはしないだろう。いや、今から剥ぎ取られるかもしれないが・・・。


 やがて、またしてもワタシの体は宙に浮いた。男たちによって持ち上げられ、一本の木の下へと運ばれる。そして両足首に巻かれている綱が、その木の枝の上へと通された。その後、綱の先は木の幹にくくり付けられる。そのためワタシは宙吊りとなった。つまり、逆さ吊りとなった。まるで、あの人形のように。


 鎧を剥ぎ取られ、スカート姿のワタシは逆さ吊りになっている。よって、必然的にスカートはめくれてしまっている。その裾はワタシの首の辺りにあり、顔が隠されることはなかった。そのため、男たちの喜ぶ顔が見えている。彼らは両手を天に伸ばしつつ、ワタシの下着を見ては夜空を見上げ、再びワタシの下着を見る。そのあまりの状況に、ワタシは顔を火照らせる。


 あぁ、恥ずかしい・・・。一体なんなのだ、これは・・・。



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