第7話スクールとダンジョンと新しい道
洗礼式を終えて数日、意気消沈していた僕だが「このままではいけない」と、ようやく立ち直ることができた。
確かに精霊と契約をすることはできなかった。しかし、この世界には自分で使うことのできる魔法やスキルといったものが存在するのだ。
だったら次に目指すものは一つだ。
「魔法使いに、僕はなる!」
なんか前世のネット民の一部からは変な誤解を受けそうな一言だ。
▽ ▽ ▽ ▽
それから約1年が経った。1年間、魔法を学ぶ方法を試行錯誤していたが、僕の家には魔法教本があるわけでもなく、父さんと母さんも「ステータスがわかっていない状態で魔法を使うのは危険だから」と、使い方は教えてはくれなかった。ちなみに、去年の春の洗礼式の後、アストル司祭の計らいで昨秋と今春の洗礼式の精霊契約に特別に参加させてもらったのだが、結果は初めの洗礼式同様となってしまった。結局、三度目の正直で臨んだ挑戦も失敗した僕は、アプローチを変えることにした。
「父さん母さん、僕、スクールに行きたい」
ここ1年間、僕が今の状況を打破しようと色々なことに取り組んでいたことを知っていた父さんと母さんは急に方針転換して頼ってきた僕に驚いていた。と、同時に僕が「スクールに行きたい」といったことにも驚いたようだ。
「な、なんだって?スクール?」
父さんから素っ頓狂な質問が返ってくる。
「うん。僕、スクールに行って魔法の勉強がしたい。それにスクールに通えば、ダンジョンに入るためのギルドカードの発行とステータスも確認できるようになるでしょ!」
「ブフォッ/// だ、ダンジョン⁉︎」
僕の突然の申し出に取り乱した父さんは一度落ち着きを取り戻すべく、お茶で一息を入れていたが、僕から飛び出した「ダンジョン」という言葉にお茶を吹き出した。
「ち、ちなみに、お前がいうダンジョンというのは・・・・・・」
「うん、オブジェクトダンジョンの方だよ」
この世界には大まかに分けて2種類のダンジョンが存在する。一つは前世でもよく一般認知の高かった魔物の生まれる洞窟などのダンジョン。そして、もう一つはオブジェクトダンジョンと言われる建物のような特別なダンジョンだ。
通常のダンジョンは街の外にあるのが基本なのだが、オブジェクトダンジョンはその逆、オブジェクトダンジョンのある場所に都市ができる。
オブジェクトダンジョン入り口には転送陣が存在し、その転送陣は別次元へと通じている。そしてその転送陣はセーフエリアという魔物の入ってこないエリアに通じているらしい。そのため、魔物がこちらの世界に溢れることはなく、安心して狩や採集にいけるというわけだ。
さらに、オブジェクトダンジョンの中では死に戻りができる。ダンジョンの中で死んでも、ある一定の間隔であるセーフポイントに復活するらしい。また、そのセーフポイントからはダンジョンの入り口にワープすることもできる。
それどころか、ダンジョン内の魔物を倒すと素材や魔石の他に「
実は僕たちの住むノーフォークにも”テール”と呼ばれるオブジェクトダンジョンが存在する。スクールや教会はオブジェクトダンジョンの近くに建てられており、僕は洗礼式に出向いた際に、まじかにその建物を見ている。
その外観は、屋根のある大きな新しいローマのコロッセオという表現が一番しっくりくる建物だった。
そして、オブジェクトダンジョンは神のダンジョンとも言われており、ダンジョンの名前がそのまま神様の名前になっていたりする。そのため、この街の教会の主神はこの”テール”であり、オブジェクトダンジョンの存在する都市の教会は基本的にその都市に存在する神を掲げている。
ちなみに、王都にはオブジェクトダンジョンが4つもあり、それぞれのダンジョンに合わせて4つの神様がいる。どの神の宗教も、その中身はほとんど共通しており、違うのは「主神を誰に置くかだけ」というかなり自由な信仰を開いているようだ。
僕が出したダンジョンというワードの意味がオブジェクトダンジョンだったことを確かめた父さんは「そうか・・・よかった」と一安心したようだ。しかしその後「いや、良くない!」と声を荒げる父さんは、混乱した思考をリセットし、正常に戻った。
「どうしてお前はダンジョンに行きたいんだ?」
父さんは僕の考えを聞くために改めて質問する。
「ダンジョンに行きたいというわけじゃないんだけど・・・・・・スクールに通えば魔法やその他のいろんな勉強もできるし、ギルドでカードを作ってステータスも見られるようになるでしょ?もしかしたら、ステータスを見て僕が精霊契約できなかった理由もわかるかもしれないし、何より魔法が使ってみたいんだ!」
最初に父さんの質問をやんわり否定しつつも『我が意を得たり』と目を輝かせて、ついつい早口になってしまう。
「しかし、スクールは通常6歳になってから通うものだ。お前にはまだ早すぎると思うのだが・・・・・・」
誇大な妄想を語る僕に父さんは現実の常識を突きつけてくる。しかし ──
「大丈夫。確かスクールには編入試験があったよね。それに合格できれば、スクールの先生たちも通うことを許してくれるんじゃないかな?」
遠回りに世の中には常識というものがあると言っていた父さんだが、やる気を見せている我が子の、それも僕の我儘な屁理屈に反論をすることも叶わず、どうすべきか悩んでいた。
そして、何も反論が思い浮かばなかった父さんは助けを求めるように、今まで隣で静かに見守っていた母さんに視線を移す。
静寂の中、母さんがコップを手に取りお茶を一飲すると、また机の上にコップを戻す。
その様子を見ていた僕と父さんには、思わず「「ゴクリッ」」と生唾を飲むほどの緊張が走る。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
すると突如、「ダンッ!」というテーブルに手をつく音とともに、母さんが立ち上がった。そして ──
「良いわね!それ!」
とても嬉しそうに、やる気満々といった顔で僕の意見に賛同する母さん。突然の母さんの言動に一瞬肝を冷やした後、僕の我儘に賛成してくれる母さんに、僕は喜び、父さんは難色を示す。
「ア、アイナ、ちょっと落ち着いて。やっぱりリアムにはまだ早い」
たじろぎながらも母さんを説得しようとする父さん。しかし、母さんはその父さんの説得も我関せずといった感じで主張を口に出す。
「せっかくこの子がやる気になっているのよ!それに、あなたもこの子のやる気を折りたくなかったから迷っていたんでしょ!だったら良いじゃない!」
母さんは父さんに有無も言わさないよう、まくし立てていく。そして「わ、わかったから落ち着いてアイナ」と強気な母さんに狼狽えている父さんはついに折れて僕の我儘に賛同してくれた。
その言質を取った母さんは、満足した顔で僕の方を見てスクール挑戦のお許しを述べる。
「というわけで、スクールの試験に挑戦しても良いわよ」
そういう母さんの言葉にたまらなく嬉しくなり「うん!」と返事する僕。
「でもリアム、今回はあなたの意見に賛同するけど、本当は母さんも心配なの。だから、お父さんの気持ちもわかってあげなさい」
続く母さんの言葉にそのことを理解していた僕はすかさず頷く。
「それに、スクールの話は今回限りのチャンス。もし今回スクールに入ることができなかったら、入学できる年になるまでスクールは諦めること」
と、新たな条件をかけてくる。僕は一瞬戸惑いながらも、それは仕方のないことだと、その条件に了承の意を伝える。
「よし、じゃあウィル!今からスクールに直談判に行くわよ!」
「えっ!今から⁉︎」
「そうよ!善は急げ。スクールの入学時期ももうすぐのはずだから、急げばリアムも初日からスクールに入ることができるかもしれないわ」
そういうと母さんは、母さんの行動力に驚く父さんと僕を引き連れて、直談判をするためにスクールへと向かった。
▽ ▽ ▽ ▽
母さんに ” 思い立ったが吉日 ” というような勢いでスクールに連れてこられた僕たちは、今、学長室にいた。
「── 当スクールとしては、このような特別措置を取ることは難しいでしょう」
学長先生は学長と言われる割には若い20代前半くらいの見た目をしていた。そして、僕たちの突然の直談判に時間を作り、話を聞いてくれた学長先生は、その内容に難色を示す。
「それに、リアムくん?でしたかな。親であるあなた方が、いくら『この子は優秀だ』と申されましても、精霊契約もしていないこの年の子が、スクールで学んでいくのは厳しいかと思います」
もう「絶対にノーだ」という雰囲気を醸し出す学長先生に、母さんはなんとか絞り出すように反撃する。
「確かにこの子は精霊契約のできなかった子です。何よりも精霊契約を楽しみにしていたこの子は、契約ができなかったことで、一度谷底へと突き落とされました。しかしこの子はめげることなく、新しい道を見つけ『魔法を学びたい』と言ったんです。そんなこの子のやる気と真摯さは、親である私が保証します。ですので、何卒、ご再考のほどよろしくお願い申し上げます」
そんな情に訴えつつも真面目な口調で内容を語った母さんは、一度頭を下げ再び顔を上げると、その後は黙って学長先生を見据えていた。
すると母さんに追随するように今度は父さんが ──
「この子の姉であるカリナは、スクールでも優秀な成績を修めていると聞いています。どうか、そのこともご考慮いただいてご再考願えないでしょうか」
と、頭を下げる。突然カリナ姉さんを引き合いにだす父さんに、僕は内心『え、なんでカリナ姉さん?』と不思議に思い軽いツッコミを入れてしまう。しかし、僕のために頭を下げてくれる父さんに、僕も「お願いします」と追って頭を下げる。
すると、学長先生は父さんの「カリナ」という発言に片眉を上げ、反応を示す。カリナ姉さんは、どうやらスクールでは相当優秀らしい。それに、黙って学長先生を真っ直ぐ見据える母さんに『これは折れないな・・・・・・』と、観念した学長先生は「わかりました」と、とうとう折れる。
父さんと僕は学長先生の言葉に下げていた頭を上げ、母さんはこちらに顔を向ける。思わず「やった!」と3人抱きつきたい気分だが、今はグッと堪える。
「試験は国語と算術の筆記試験とします。魔法や剣術、歴史などは学んでいないでしょうから試験から除外します」
特別措置を許した学長先生が実施する試験の内容を提案する。思いの外好条件だ。
「しかし、試験の内容は一年生の編入試験と同レベルのものとします。それでもよろしいですか?」
前世の知識がある僕にとって、この世界の6〜7歳児の受ける国語と算術程度ならば大丈夫だろう。そんな好条件の提案に僕は
「はい!」
と元気よく返事する。
すると父さんと母さんに学長先生までもが、温かい眼差しを僕に向けてきた。
『恥ずかしいからそんな生温かい目で僕を見ないで!』
しかし、僕がそんな恥ずかしさに内心で悶えていると、学長先生が表情はそのままに、とんでもないことを言い始める。
「合意もいただいた、ということでそのように取り計らわせていただきますね。それでは早速、筆記試験を行いましょうか」
突然の試験告知に「えッ⁉︎」驚く僕に、「何か問題でもあるかね」と語る目でこちらを一瞥する学長先生。そして、その後は「してやったり」という顔でニヤニヤこちらを見ていた。
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