第4話洗礼式の準備と精霊
カリナ姉さんとの軋轢もなくなり、更に2年と半年が経った。
3歳の誕生日を迎えてから初めて迎える春、今日は洗礼式の日だ。
カリナ姉さんも今では立派なブラコ ── もとい弟想いないい姉さんに・・・・・・なった。
「ほら!私が着替えさせてあげるから逃げないでおとなしくしていなさい!」
「ちょっとやめてよカリナ姉!自分で着替えられるから!」
今は動くのに邪魔だからと普段は凛とした目元で将来はクール
祭服は魔糸を織り込んであり、その色によって魔力の属性が変わる。洗礼式では、自分が契約したい精霊の属性と同じ色の魔糸が織り込まれた祭服を着ることで、その属性の精霊がよって来やすかったり親和性を高め契約しやすくする。ただ、この話には実証がなく、あくまでも願掛けのようなものらしい。
「リアム!せっかくの祭服なんだから私がきちんと着付けしてあげるわ!だからこのドアを開けなさい!」
「大丈夫!僕だって成長してるんだから、カリナ姉の手伝いがなくても自分でできるの!」
全力で着替えの手伝いに立候補したカリナ姉さんを拒む。しかし扉の向こうからは「はぁ、強がるリアムも可愛いわ」なんて声が聞こえてくる。ここまでくると野暮さを通り越して呆れてくる。
このままカリナ姉さんと問答を続けていると時間に間に合わなくなってしまうので僕は今も「恥ずかしがらなくて良いから姉さんに全部任せなさい!」なんてドアを叩を叩く音とともに聞こえれる声を無視して、黙々と祭服に着替えた。
▽ ▽ ▽ ▽
「あら、よく似合ってるわよ」
僕の祭服姿を褒めてくれながらも最終チェックをしてくれる母さん。その後ろでは僕の着付けができなかったカリナ姉さんがむくれている。
「ほら、そろそろ出発しないと遅れるぞ」
今日は仕事を休んで、一緒に洗礼式の送迎をしてくれる父さんが玄関先から出発を促す。
「じゃあ、行こっか」
「はーい」
と母さんの言葉に返事をし一緒に玄関から外に出る。
外は晴天で春の風が通り抜ける。暖かな光が降り注いでいるため、草原に出かければのんびり昼寝をしたくなるような陽気だ。
洗礼式は、子供が3歳にり初めて迎える春か秋、教会で行われる恒例行事だ。アースに生まれ落ちた子供たちを祝福し、その街の教会が信仰する主神に祈りを捧げ、精霊との契約を交わす儀式だ。ちなみにアースとはこの世界の総称で、地域によっては違った呼称をするとか。
そして精霊については、母さんを質問攻めにして予習していたからバッチリだ。
アースには精霊が存在し、上から順に
精霊王:全ての精霊の王
高位精霊:完全な会話が可能な高位の精霊
中位精霊:鳴き声や仕草で感情表現可能な体を得た精霊
下位精霊:光の塊。大きくなったり点滅したりして感情表現をする
と位が高くなり、使用できる精霊魔法の種類も魔力も、上から順に多い。
洗礼式では大抵が下位精霊と契約をし、生涯を
他にも、精霊の位を上げる方法はあるらしいが、これにはスキルを必要とするケースがほとんどのようだ。
そして、高位精霊ともなるとその恩恵と力は大きく、人間と契約した中位精霊が高位精霊に位を上げられることはまずない。高位の精霊と契約を果たすには、精霊に気に入られて直接契約を結ぶ必要がある。
この直接契約は1代限りで終わるものもあれば、代々契約した者の一族に引き継ぐ世襲タイプがある。アウストラリアの王族と一部貴族は高位精霊と代々の契約を結んでおり、一族は契約の子として間接的に力の恩恵を受け精霊魔法を操り、契約の親として直接契約を結ぶものを当主として添える形式をとっている。
そのため、高位の精霊と契約をしている一族とそうでない人々との力には一線が引かれ、幼い頃から強い精霊魔法を操っている彼らは、通常の魔法にも長けているらしい。
しかし、そんなことはどうだって良い。それよりも僕は”相棒”という響きに心惹かれていた。
『
僕の祭服には無属性の白い魔糸が織り込んである。無属性は単純な魔力に近く、どの属性の精霊にも特化しない属性だ。前世では室内にいることが多く、生粋のぼっちだった僕にとって、一蓮托生の相棒を得られるということは限りなく嬉しいことで、どんな属性の精霊でも契約してくれるだけで満足だった。
そんな嬉しい気持ちでウキウキしていた僕だが、まだむくれ不貞腐れているカリナ姉さんの視線が後ろから背中に突き刺さる。
「カ、カリナ姉の精霊さん、また見たいな〜」
カリナ姉さんのご機嫌を取るべく、僕は後ろを振り向いて「精霊を見たい」と催促する。中位と下位の精霊は契約者が魔力を与えないと姿を自由に契約者以外に見せることができない。すると、カリナ姉さんの表情は「パァッ」と明るくなり、「リアムがそこまでいうならしょうがないわね〜」と満更でもない顔をする。
「おいで、フェアーリル」
右腕を前に差し出し精霊を呼ぶカリナ姉さん。すると、カリナ姉さんの差し出した右手の人差し指には一匹の青く美しい蝶が止まっていた。現れた蝶はカリナ姉さんの瞳の色と同じ色をした綺麗な青の羽を上下させ指の上で大人しくしている。
「カリナ姉の精霊はいつ見ても綺麗だな〜」
「ふふん、そうでしょそうでしょ」
カリナ姉さんの精霊をそう褒めると、自分が褒められたが如く上機嫌になっていくカリナ姉さん。
実を言うと、カリナ姉さんのこの精霊はかなり特殊な中位の精霊で、なんと魔力の続く限り何体もの分体を作り出すことができる。さらに分体を集めることで文字を表現したり、軽い回復魔法が使える上に偵察や索敵も行えるサポート特化の精霊だ。そんな中位精霊とカリナ姉さんは洗礼式で契約してしまった。その時はおばさん夫婦、カリナ姉さんの本当の両親が健在で「盛大にお祝いしてくれたんだ〜」といつかカリナ姉さんが話してくれた。
ふと頭の中でカリナ姉さんの精霊について考えていた僕は、本当に綺麗な青の羽に吸い込まれるようにふと精霊に近づいてしまう。すると、指の上に止まっていた精霊は突然飛び立ち、逃げるようにカリナ姉さんの影に隠れてしまった。
「あっ・・・・・・」
思わず残念な声を上げてしまう。カリナ姉さんや父さんたちも「あちゃー」と呟いて心配するように僕の方を見ている。精霊はそれから決して僕の前に姿を現そうとはしない。
そう、僕が精霊に近づこうとすると精霊が逃げて行ってしまうのだ。これはカリナ姉さんの精霊だけではなく、父さんと母さんの精霊も全て逃げてしまい僕に近づこうとはしなかった。ちなみに、父さんの精霊はモグラのような土の中位精霊、母さんはフェアリー
こうなることはわかっていたはずで、自業自得なのだが僕は思わず落ち込んでしまう。そんな僕を見かねてか、狼狽えるカリナ姉さんと父さん達が僕に励ましの言葉をかけてくれる。
「だ、大丈夫よ、リアム。きっと今日はあなたと一緒にいてくれる精霊と必ず契約できるわ」
「そうね。きっと大丈夫よ。あなたは私たちの子供でカリナの弟でもあるんだから。ね、ウィル」
「ああ、大丈夫だ。男は胸を張っていてこそなんぼのもんだ。そんなんじゃお前の相棒になる精霊に笑われるぞ」
三者三様の言葉がかけられる。『そうだよな、僕もやっと精霊と契約して一緒に過ごせるんだ。これから苦楽を共にする精霊に、最初からこんな姿を見せていたらダメだよな』と僕は気を取り直すと、「大丈夫」と心配する3人に笑顔で答え、それから「みんなの洗礼式の時はどんな色の祭服だったのか」など残りの教会への道中を楽しく過ごした。
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