(連載版)ヒモになる予定でお持ち帰りしたイケメンが主夫になって、もはや幸せになるしかない件について!?
丹羽坂飛鳥
寝起きの衝撃
ヒモという言葉を聞いたことがあるだろうか。
ネットで調べたが、女性に養われて生活する男性を指す言葉らしい。
実は我が家にも、今朝増えていた。
会社の飲み会で酔い潰れたのまでは、覚えている。
しかしいつも通り起き上がった私の部屋で料理をしていたのは、見知らぬ男の子だった。
「おはよう、千種。昨日はすごかったね……危ないから、今後はあんまり飲み過ぎちゃ駄目だよ?」
だれ?
茶髪に青いピアス、顔も可愛い系で一度見たら『お、イケメン見つけた』としばらくくらいは覚えているはずの顔立ちだ。
でも、一切の覚えがない。
衝撃の展開に呆然としたが、起き上がった自分が裸なのにも気付いてさらに愕然とした。
ベッドサイドのライト下には、開け放たれたコンドームと思しき箱が転がっている。
四角いパッケージはいくつか封が切られて、使われた形跡がゴミ箱に残されていた。
部屋の鍵を開けたのは、鍵を持った人物に違いない。
だって扉が普通に開けられていたから。
部屋に荒らされた形跡は何もないから。
つまり。
「つかぬことを伺いますが……まさか私は昨晩、あなたを拾って帰ってきましたか?」
「うん……酔っ払った千種が絡んできて、最初は面倒だったけど意気投合して……もしかして、覚えてない?」
どう答えるのが正解なんですか神様ー!?
そもそも酔っ払って見知らぬ男性を家に連れ込むとか、漫画の世界に転生したのかと錯覚するほどの所業だ。
イケメンツモって連れ込んで寝てる。役満になりませんか。
突きつけられた現実に息も出来ずに呆然としていると、イケメンに朝食が出来たと呼ばれたから手近にあったパジャマを着て向かった。
昨日は金曜日で飲み会をしていたはずだから、土日祝日休業の弊社はお休みだと勤続四年目の体が覚えている。
シャツとジーンズでラフな格好の青年がダイニングテーブルに食事を並べてくれたけれど、そもそも食材が家にあったことにすら驚いてしまう。
買った覚えも霞む程前の冷凍野菜と、気が向いて災害備蓄したパックごはんを使った雑炊らしい。
それでも作りたての雑炊からは良い香りがして、席についただけでお腹が鳴ってしまった。
「千種が『一生養う』って叫んで、婚姻届まで出してくれてさ……そうだ、コピーも取ってくれたから持ってるよ。何か思い出せない?」
役所にコピー機があるのを覚えていたので、財布に折りたたんで入れてあったものを見せてもらった。
間違いなく私の字だった。
……どうやら私は、養いたい男子を見つけて結婚までしたらしい。
全く記憶がない自分が恐ろしくなったけれど、とにかく冷めないうちにと差し出してくれた朝食はたいそう美味しかった。ネギ多めの雑炊が疲れた胃に効く。
胃袋を掴まれるとは、こういうことなのだろうか。
お腹が満たされると、二日酔いと精神的なダメージのダブルパンチを喰らった私はもう一度布団に潜った。
アルコール解毒のために何も考えられないほど眠いなんて、体は正直だった。
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