第50話「父母の軌跡」



北斗学園の音楽室。放課後の陽光が差し込む中、机の上には研究所から送られてきた資料の山が積まれていた。


「これが...両親の研究?」

星見凛は、一冊のノートを開く。母の細やかな文字で、星霊波動の観測データが記されている。


「凛さんのお母さんも、研究者だったんですね」

織部翔が資料に目を通しながら言う。


「ええ」

凛は懐かしむように微笑む。

「母は、星の音を記録する装置を作っていた」


その時、資料の間から一枚の紙が滑り落ちる。それは手書きの楽譜だった。


「これは...」

宮澤千春が息を呑む。

「星霊波動を、音楽に変換した記録?」


楽譜には「星たちの声」というタイトルが付けられ、通常では表現できないような複雑な音符が並んでいた。


「お母さんは言ってた」

凛の声が柔らかくなる。

「星たちは、いつも歌っているって」


星川綺羅が、その楽譜をじっと見つめる。

「この音符...北極星の音?」


「違う」

凛が首を横に振る。

「これは...まだ見ぬ星座の音」


翔が新しい資料を広げる。そこには星見博士の直筆で、衝撃的な仮説が記されていた。


『星座は固定されたものではない。数万年、数十万年という時間の中で、星々は新たな物語を紡ぎ出す』


「新たな物語...」

綺羅が呟く。


その時、凛の手元の楽譜が、かすかに光を放ち始める。


「この反応...!」

千春が駆け寄る。


楽譜に書かれた音符が、まるで生きているかのように明滅する。そして、かすかな音色が空間に満ちていく。


「これが、母の聴いていた音」

凛の目に、涙が光る。


音色は次第に強まり、形を持ち始める。それは決して調和的とは言えない、しかし確かな意思を持った旋律。


「凛さんのお母さん」

綺羅が静かに言う。

「きっと、この音を私たちに届けようとしていたんですね」


資料の中から、さらに一枚の紙が見つかる。それは実験直前に書かれた母からの手紙だった。


『愛する凛へ。

もし何かあっても、怖がらないで。

星たちは、いつもあなたと共にいる。

そして、新しい物語を紡ぐ時が来たら...

あなたの耳を澄ませて。

星たちは、必ずあなたに語りかけてくる』


「お母さん...」

凛の声が震える。


その瞬間、部屋の空気が変化する。窓から差し込む夕陽が、虹色に輝きを増す。


「見て!」

翔が窓の外を指さす。


夕焼け空に、前代未聞の光景が広がっていた。星々が、まだ陽の残る空に、はっきりと姿を現している。


「まるで...」

千春が言葉を探す。

「星たちが、急いで私たちに会いに来たみたい」


凛は立ち上がり、窓辺に歩み寄る。彼女の体から放たれる光が、星々と呼応する。


「分かった」

凛の表情が、決意に満ちる。

「両親は、ただ世界を正そうとしていただけじゃない」


「新しい物語の、証人になろうとしていた」

綺羅が言葉を継ぐ。


音楽室に、星たちの奏でる音が満ちていく。それは新しい夜明けを告げる、希望の音色だった。


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