第3話 午後の災難

16 部屋への訪問者

 風呂に一緒に入る理由は、先程判明した。


「この部屋そのものは、周南市にある賃貸マンション。ただ風呂部分の空間をゆがめて広くした結果、風呂を沸かすガス機器に問題が生じた。シャワーを浴びるには問題ないけれど、浴槽にお湯を張るには出力不足。だから今は水を張った後、私が魔法で加熱している。追い炊きが面倒だから、一緒に入った方がいい」


 以上の通りだ。

 お湯を沸かせるなら、同じ魔法で追い炊きできるだろう。

 そう突っ込む気力は俺には無かった。

 という事で、この件は今後もこのまま続く予定。

 

 ただ微妙に疑問を生じたので聞いてみる。


「それじゃ前々から、この部屋は借りてた訳か?」


「過去を操作して借りていることにした。その程度なら魔法で可能。ただ防犯上の関係で、扉以外の場所は何をしても問題ないン・ガイの森に繋いだ。私が意図しない者はこの部屋に入れない。そこは安心していい」


 過去を操作? 壁と床と天井と窓を森に繋いだ?

 理解するのが難しいので、とりあえずそういうもんだな程度に思っておくことにした。


 昼食に買ってきた菓子パン類を食べ、そして紺音はお出かけ。

 今回の紺音の服装は最初に出逢った時と同じ、黒ブラウス黒スカート黒マスク。

 訓練以外は基本的にこんな服装なのだろうか。

 何か理由があるのかもしれないけれど、聞いていいかわからないのでそのままにしている。


「それじゃ行ってくる。夕食を作れないほど遅くなるとは思わないけれど、何時になるかはわからない。大翔はこの部屋に居てもいいし、出かけてもいい。でも夕食までには戻って欲しい」


「わかった」


 紺音を見送った後。

 俺は昨日借りた第五生徒会『香妥州かだす学園新聞部』編纂の『各生徒会・サークル一覧』をソファーの所へ持ってくる。


 昨日夜に借りたのだけれども、疲れていてあっさり寝てしまったので読んでいない。

 だからこの時間で読んでおこうと思ったのだ。


 この『各生徒会・サークル一覧』は、無線綴じにカラーの表紙カバー付きという、高校の新聞部発行というには本格的な装丁。

 それなりの厚さもあって、市販のゲーム解説書みたいな作りだ。

 まずは一ページ目の『はじめに』から……


 ◇◇◇


 ひととおり読み終えて、俺はふっと息をつく。

 何というか、見た目だけで無く内容もゲームの解説書っぽかった。

 とても実在する学校の生徒会やサークルとは思えない。


 野球部とかサッカー部のような、一般的な運動系部活やサークルは全く無い。

 勿論理由はあって『常人より遙かに上の能力で問題が起きないよう、他校と対戦する可能性のある部活やサークルは許可しない』からだ。


 結果、通常の高校でもありそうな部活は、文芸部とか漫研とか単独で活動できるものだけ。

 他のほとんどは宗教っぽい怪しい組織が大半だ。

 それも『聖書研究会』なんて一般的なものはごく少数で、『陀嚴ダゴン秘密教団』とか、『星の智慧派』とか。

 一見まともな名前に見える『福沢諭吉協会』も、実は……

 

 更に言うと、漫研も第一第二第三第四があって、それぞれ内容が偏っていたり怪しかったり……

 作品名が『三神合体 ゴッドゾス』とか『バステト様の愛した従者』とか…


 思えば遠くに来たものだ、なんて若干黄昏れた時だった。

 ピンポーン、ピンポーン。

 どう聞いてもインターホンからの訪問チャイムにしか聞こえない音が部屋内に響いた。


 いや、間違いなくインターホンだ、これは。

 部屋の壁にかかっているインターホンの赤ランプがついている。

 ただこの部屋、実際は周南市にあって、なおかつ玄関以外はンガイとかいうわけのわからない場所に繋がっている筈だ。

 そんな構造でインターホンがまともに使えるのだろうか。


「いるのはわかっているのですよ。これは許可を求めているのでは無く、連絡なのです。紺音ちゃんと同じクラスの勝門かど緋摩ひすりなのです。もし私が入ったら問題ある格好をしているのなら、至急自分の寝室に入るのです。猶予は一〇秒。九、八……」


 とりあえず今は、外にも出られる格好だから問題は無い。

 あと『私が意図しない者はこの部屋に入れない』と紺音は言っていた。

 だからまあ、問題はないのだろう。

 ただ返事をして女子寮に聞こえたらまずいので、とりあえずこのまま待っている。


『一、零』


 言い終わると同時に、玄関に人が出現した。

 同じクラスと言うには小柄な、小六か中一くらいに見える女子だ。

 格好は白いポロシャツにチェックのスカートという、一見制服っぽく見える組み合わせ。


「それでは失礼するのですよ」


 彼女は靴を脱いで入ってきて、部屋の入口で俺に向かって一礼する。


「お初にお目にかかるのです。姓が勝門かど、名前が緋摩ひすりなのです。以降、カドちゃんと呼んで欲しいのです」


 とりあえず俺も立って挨拶する。


「はじめまして。高等部1年に転入する伊座薙いざな大翔はるとです」


「ということで、とりあえずは座るのです。今日は紺音ちゃんの新居の確認と、大翔氏にちょっくらお話があって来たのです」


 そういえばこの部屋は、俺が来るからということで急遽用意した部屋の筈なんだよなと気づく。

 その割には何というか、通称カドちゃんは勝手知ったるという感じに見えるけれども。

 そのカドちゃんはソファーに座った後、周囲をあちこち見回す。


「それにしても、愛の巣っぽい感じに欠けるのです。この部屋は一緒に住むために急遽用意したと聞いているのです。ならばてっきり今日辺りは行為の痕跡が残っているかと期待したのです。

 これでも私はイス人なので、一日経過程度ならアハーンな事をした気配を感じ取れるのです。でも誠に残念なことに、そんな痕跡は全くないのです」


 おい待てカドちゃん! 君は何を言っているんだ!


「というのは半ば冗談で、でも半分本気なのです。私は紺音ちゃんの親友のつもりなので、紺音ちゃんが潜在意識で家族とか帰れる場所とかを求めているのを知っているのです。そして同棲で家族なら、ムフフでしっぽりだと期待したのです。ただ残念ながら、そうなっていなかったようなのです」


 何だかな。

 そうは思うけれど、なにげに重要な事をさらっと言われた気がした。

 なのでちょっと聞いてみる。

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