見ていたもの 聞いていたもの

冬を超えて春が来る


桜の蕾が膨らんでいたのを


僕は視界の隅で見て


桜の花がいっぱいに笑みを咲かせてたのも


僕は横目に流し見た


やがて桜が化粧を落として


緑葉のヴェールを纏い始めた


けれど僕は下ばかり見て


その素顔さえ知り得なかった




春が終わり 夏が来て


梅雨の雨は激しかったけれど


僕はあんまり濡れなくて


湿度がすごいと言われたけれど


僕は汗さえかかなかった


暑さがひどいというけれど


僕は涼しげな顔をしていて


みんなは遊びに出かけるらしい


僕は机とデートしてた


セミの声がうるさいというけれど


僕の耳には英語だけが聞こえて


花火の音が聞こえたらしいけれど


僕の耳はイヤホンで蓋されてた




夏が過ぎて 秋のとき


紅葉は赤々と色づいて


僕は視界の隅に追いやるだけ


文化祭さえ体育祭さえ


僕は遠くを見つめてただけ


後はあんまり思い出せないや


ただ時の速さが憎かったな




秋を経て 長い冬に変わる


雪化粧なんか見てる暇もなく


机以外とは縁を切った


寒さがひたすら鬱陶しくて


ずっと体が寒かった


苦しいとか 辛いとか


そんなこと思う暇もなくて


冬の寒さが僕を苛む


それでも それでも


立ち止まっちゃダメなんだ


春を待つだけじゃダメなんだ


春を自分で迎えに行くんだ




春を待たずに


雪のない世界へ


知らない世界へ


見たことない 聞いたことないものを


見るために 聞くために


だから 春を迎えに行こう


そして


冬を超えて 春が来る

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