第3話 二人の秘密

「おいおいおい、ちょっと待て!」

アレンは新聞を片手に叫んだ。そこには大きな見出しで《街に魔物出現!》と書かれていたのだ。

「これ、君の仕業じゃないよな?」

ソファで寝転んでいたリリスは、頬杖をついたままのんびり答えた。

「失礼ね。私は引退したのよ。もうそんな野蛮なことはしないわ。」

「いや、でも“元・大魔王”って肩書きがあるだろ! 怪しまれても仕方ないだろ!」

リリスはニヤリと笑った。

「だから私、魔力を封印したの。あなたを悲しませたくないからね。」

アレンは目を細めて彼女を睨んだ。

「本当だな?」

「本当よ。」

そう言いながらリリスは胸に手を当て、まるで誓いを立てるような仕草をした。しかし、その裏にはどこか小悪魔的な雰囲気が漂っている。

「でも、たまに封印がゆるむこともあるのよ。」

「なんだそれ!? 結局危ないじゃないか!」

「仕方ないじゃない。魔力が強すぎるのよ。そういう日が来たら、あなたがしっかり私を守ってね?」

「……俺の仕事が増えるばかりじゃないか。」

アレンは再び頭を抱えた。しかし、リリスの無邪気な笑顔を見ると、つい許してしまいそうになる。

「本当に……厄介な妻だな。」

その時、玄関の扉が激しく叩かれた。

「誰だ……?」

アレンが玄関に向かおうとすると、リリスがすっと立ち上がり、その場に風が吹き抜けたかのように部屋の空気が変わった。

「待って。」

彼女の瞳が一瞬、深い紫に輝いた。

「リリス……?」

扉が勢いよく開かれると、そこには黒いローブをまとった男が立っていた。顔の半分を隠す仮面の下から、不気味な笑みが覗く。

「お久しぶりです、リリス様――いや、元・大魔王様。」

「あなたは……」

男はローブの中から杖を取り出し、闇のエネルギーが渦巻く。

「リリス様、我々はあなたを再び魔王の座にお戻しするために参りました。」

「断るわ。」

リリスの声は冷たく、しかしどこか楽しげだった。

「そうですか。それならば……力づくでお連れします。」

男が杖を振ると、闇の獣がアレンたちに向かって飛び出してきた。

「アレン!」

リリスが叫ぶと同時に、アレンは剣を取り出し、獣の一撃を受け止めた。

「おいおい、俺の家の中で戦うなよ!」

「仕方ないじゃない! 早く片付けましょう。」

「君の知り合いなんだろ? 何とかしてくれよ!」

「無理よ。彼らは一度決めたことは貫くの。」

「まったく……厄介な人たちだな!」

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