7走目 友達 ライバル

 来週のレースに向けてトレーニングを続けてるよ。普段から早朝のランニングをしてるから、まずはそれから始めよう。今日はちょっと負荷を増やそうと思って、足に重りをつけてみることにしたんだ。


「足が重くなっても上げられるようにしないとだよね」


 そう言って、足に重りになるアンクレットを取り付けようとしたんだけど……なかなか上手くはまらないよ。革のベルトが硬くて、留め金が小さくて扱いにくい。


「うぅ……なんだか私って不器用なのかな」


 そんなことを呟きながら、なんとか足に重りを取り付けた。少し指先が痛くなっちゃったけど、やっと準備ができたよ。これでランニングを始められる。基本的にはこのランニングでスタミナと脚力を鍛えるつもり。それから、少しずつ速度を上げていこうかなって思ってる。

 ヴィンテール市の朝は静かで、朝焼けが石畳をオレンジに染めてる。私は『ヴィルマ亭』の裏庭を出て、街の外れにある小道を走り始めた。重りが足にずっしりきて、いつもより足が上がりにくいけど、これが効いてる証拠だよね。息が上がってきて、汗が額を流れる。でも、この感覚が気持ちいいんだ。


「ふぅ……今日はこれくらいでいいかな」


 一時間くらい走ったところで、私は少し休憩した。重りを外して足をマッサージしながら、朝食を楽しみに宿屋に戻っていくよ。『ヴィルマ亭』の一階は食堂になってて、そこで食事をとってから次のトレーニングに備えるんだ。今日はバイトが休みだから、一日中トレーニングに当てられる。ラッキーだよね!


「さてと……」


 今日はどんなトレーニングをしようかな。一日使えるなら、やっぱりレースの特訓がいいよね。来週の公式戦に向けて、障害物の練習もしなきゃ。


「フィリアちゃん! ご飯できたよ!」

「あ、はい、今行きます!」


 女将さんに呼ばれて、私は食堂の席に着いた。今日の朝食は焼きたてのパンと野菜のスープ。それにベーコンまでついてて、グリーンサラダもある。美味しそうな匂いが漂ってきて、お腹がぐぅって鳴っちゃった。


「いただきます」


 私は手を合わせて食事を始めた。パンをちぎってスープに浸して食べると、温かさが身体に染みてくる。食べてると、他の宿泊客たちも食堂に集まり始めた。その中に、同年代くらいの女の子が一人。小柄な体型で、赤みがかった栗色のセミロングが無造作に結ばれてて、跳ねた毛先が特徴的だよ。それに、澄んだ琥珀色の瞳と笑顔が印象的な少女だった。


「ねえ! 朝、走ってたよね!」


 私が彼女をチラッと見てたことに気づいたのか、彼女の方から私に話しかけてきた。少しびっくりしたけど、元気な声に笑顔が伝染しちゃう。


「うん! 私、来週のアストラル・レースに出場するんだ!」


 私がそう答えると、彼女はぱぁっと笑顔になって、目を輝かせた。


「そうなのね! 私も来週のレースに出場するわ! 私は、レティシア・ヴェントゥス! 貴女は?」

「私はフィリア・ドミナ! よろしくね、レティシア!」


 私たちはそれから朝食の間ずっと話をしたよ。彼女の話によると、私と同じで地方の農村出身みたい。家族のために出てきたわけじゃないけど、走ることが大好きでレースを始めたんだって。私と似てる部分が多くて、なんだか親近感が湧いてくる。


「ねえ、この後一緒にトレーニングしない?」

「いいの? 私、ライバルだよ? 来週、競う相手だよ?」


 私がそう言うと、レティシアは首を振って笑った。


「いいの! だって、私は貴女と友達になりたい! レースは勝ちたいけど! 何よりも走ることが楽しい! だから一緒に走る人とは友達になりたい! おかしいかな?」


 レティシアはそう言って首を傾げて、私をまっすぐ見つめてきた。その琥珀色の瞳がキラキラしてて、私、ちょっと照れちゃったよ。


「ううん……おかしくないよ」

「よかった!」


 それから私たちは一緒にトレーニングすることになった。まずは軽くストレッチから始めることにしたんだ。宿の裏庭に出て、二人で身体をほぐす。今まで一人だとできなかったことが、誰かと一緒だとこんなに楽しいなんて知らなかったよ。レティシアが「ここの筋肉、ちゃんと伸ばしてね!」って教えてくれるから、私も真剣にやってみる。


「せっかくだし、競争してみない? スキル禁止の一本道!」


 レティシアの提案に、私は目を輝かせた。競争は走る楽しみの一つだよね。


「うん! 負けないよ!」


 私たちはヴィンテール市にある川沿いの道まで行った。川の水がキラキラ光ってて、風が涼しくて気持ちいい。そこに二人で並んで、走る準備をした。走る。ただこの瞬間を感じるために、横並びになって、いつでも走り出せそうな姿勢をとったよ。


「スタートのタイミングは?」

「じゃあ……あの遠く見えるおじさんが橋を渡り切ったら」

「わかった」


 私はレティシアにそう伝えると、橋を渡ってるおじさんを見つめた。杖をついたおじさんがゆっくり歩いてて、私たち、じっと待つ。おじさんが橋を渡り切った瞬間、レティシアと目が合った。


「行くよ!」

「うん!」


 私たちは同時に走り始めた。スキルなしの純粋な足の速さ勝負だよ。風が耳元で唸って、足音が地面に響く。レティシアが少し前に出るけど、私も負けないように踏ん張った。川沿いの道はまっすぐで、景色がどんどん後ろに流れていく。


「速いね、レティシア!」

「フィリアも速いよ!」


 私たちは走りながら笑い合った。ゴールは道の突き当たりにある大きな木。息が上がってきて、汗が額を伝うけど、楽しい気持ちが止まらない。最後はほぼ同時に木にタッチして、二人で地面に座り込んだよ。


「引き分けだね」

「うん! 楽しかった!」


 レティシアが笑うと、私も笑顔になった。友達であり、ライバル。来週のレースで競う相手だけど、一緒に走る時間がこんなに楽しいなんて、初めて知ったよ。私、もっと強くなりたい。レティシアと一緒に、ヴィオラさんに追いつくために、全力で頑張るんだ!

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