我、古竜の鱗で作りし鎧を纏いて、帝國を滅さん

熱燗徳利

第1話 竜殺し

 一筋の赤い閃光が竜の翼を貫く。翼に深手を負い、空中でバランスを崩した竜は、揺らめきながら地面に落下していった。巨大な質量が大地にのしかかり、盛大に砂埃が巻き上がる。 


 地上では全身に無機質な灰色の装甲を纏った戦士が、その手に銃剣を構えていた。竜を射貫いた閃光は、この銃口から発せられたものだった。 

 彼はガルクス。帝國から派遣された『竜殺し』の特殊隊員である……



 地面に落ちた竜はそれでも威嚇の咆哮をあげ、ガルクスを殺さんとその口から灼熱の炎を吐いた。ただし、装甲は溶けるどころか、くすみさえしない。


 ガルクスは竜の頭部に狙いを定め、銃剣の引き金を引いた。またしても赤い閃光が放出され、竜の頭蓋骨を、脳を瞬時に貫く。巨大な竜は、あっけなく息絶えた……




 一昔前、竜が最強の生物だということに疑念を持つ者などいなかった


 その巨躯を鋼より硬い鱗で飾り、灼熱の吐息を吐く。どんな鳥よりも速く空を駆け、地上を睥睨する空の王者。それが竜であり、人類は竜にひれ伏して生きていくしかなかった。――そう、少し前までは。


 今、竜族は著しくその数を減らしている。理由は、帝国工廠が開発に成功した賢者のコアと呼ばれる兵器の影響だった。


 賢者のコア、これは目玉くらいのサイズの球状の物体で、適性のある人間、つまりは適合者の胸部に埋め込んで使用する。そうすれば、適合者の任意で、埋め込まれたコアから全身を覆う光の粒子が顕現し、それは徐々に明確な実体と質量を持ちはじめ、適合者の頭部、胴体、四肢それぞれを守る強固な装甲と武器へと姿を変える。

 つまりは、特殊な装甲と特殊武器――通称『錬金装甲』と『錬金武装』を適合者は装備することが出来るのだ。


 この兵器の圧倒的な戦闘力によって竜は次々と駆逐され、今や絶滅寸前だった。この大陸から竜の姿が完全に消え去るのも、もはや時間の問題だろう。


 人類はとうとう竜を屠る力を手に入れてしまった。これは誇るべき偉業であるはずだ。空の王者の翼をへし折り、地上に引きずり下ろした。もはや人類にとっての竜など、地べたを這いつくばる巨大なトカゲに等しいだろう。


 ただし、自分で竜を撃ち落としておきながら、ガルクスはどこか虚しさを感じていた。『竜殺し』、その偉業を誇る気持ちより、恐ろしさの方を感じる。


 かつて地上から見上げる竜の姿は美しかった。この世界で唯一完全に自由な生物は竜であると思っていた。

 だがその自由の翼は人類がもぎ取ってしまったのだ。もう、この世界に自由な生き物などいないという現実は、ガルクスをひどく物悲しくさせる。


 それでも、帝國が『竜殺し』を命じる以上、ガルクスはそれに従うしかない。彼は己が運命を自嘲するかのように、ため息をついた。


「すべては、皇帝陛下の御為おんために……」


 そう呟くと、竜の解体作業に取り掛かるのだった……

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