第6話
「あ、おい!!」
彼が下りると触手の攻撃は彼に集中した。まるで僕のことなんて見えていないようだ。彼が下りると同時にひものようなものでつながれていたのか、それにつられて近くに置いてあったいくつかの箱が引っ張られて落ちていった。僕はそれに引っかからないように避けてから下を観察する。
「超高電圧集束爆弾。起爆します。」
ジュリーは落ちてきた箱をたたきつけるように投げると同時に空中で跳躍した。一瞬ですべては理解できないが、どうやら靴に仕込まれていた特殊な装置で磁石が反発するように飛び上がったのだ。そして箱がスライムに着弾し、爆発する。一つ一つは先ほどの大槍ほどの威力ではないが、その爆発は確実にスライムの体をえぐり取った。そして青紫色のスライムの体からオレンジ色に発光する球体のようなものが露出した。それを見たジュリーが笑みを浮かべる。
「コアを発見しました。破壊します。」
ジュリーは左手からワイヤーを発射し、弧を描きながらスライムの元迄急接近した。スライムの体は今までの攻撃で大半が消し飛び、しかし絶え間なくジュリーに攻撃を仕掛けた。それを右手の刃で当然のように防ぎながら彼はオレンジ色の球体めがけて刃を振り下ろした。はずだった。
「な、何やってるんだ!?」
しかしジュリーの刃は球体に命中しなかった。スライムが避けたわけではない。ジュリーがあらぬ方向へ刀を振ったのだ。
「いやそっちじゃないってこっちこっち!」
おそらく聞こえないだろうが、僕は一生懸命指をさしながらそれを伝えようとした。そして違和感に気づく。なぜ僕は左腕を前に差し出したのか。僕は右手で球体を指そうとしたのだ。その違和感に気づいたとき、ジュリーはより大変な状況になってしまった。先ほどまで難なく防いでいた触手の攻撃をほとんど受けてしまっている。すぐに対応しようとして軽傷で済んでいるが、プロテクターはボロボロになり、いまも攻撃を食らい続けている。これはどういうことかと僕は観察再開した。
「もしやあれのせいか?」
スライムの一部に先ほどまでなかった黄色い発光器官が生成されていた。あれができてから何かがおかしくなったのだ。洞窟に入ってしばらくした時の感覚が狂う感覚によく似ている。このままではやばいと瞬時に理解した。
「右手を出そうとしたら左手が出る。指を曲げようとしてもなんだこれ変な方向に行くぞ…。クソ単純に逆に動くわけじゃないのか。」
おそらく人間の運動神経系に作用し、脳の信号が正しく体に伝わっていないのだろう。呼吸などは問題ない。おそらく四肢の運動神経にのみ影響が出ているのだろう。こんななかジュリーがあれだけ動けていることがむしろ不思議なのだ。しかし長くはもたないだろう。
「これは…僕がやるしかないなあ。」
あの黄色い器官を破壊出来れば勝機はあるはずだ。パターンを理解しろ、どうすればいつものように体が動かせるのか。僕に今危険はない。しかし急がなければならない。その危機意識がすさまじい集中力を呼び覚ました。
「ここでやらなきゃ男じゃない!」
僕は手りゅう弾の栓を抜き投擲した。ソフトボールはからきし下手だった僕だが、この時ばかりは神が味方をしてくれたとしか思えない。絶妙な放物線を描き、スライムの黄色い器官の前で爆発した。
「よっし!」
瞬間、スライムの体が崩壊を始めた。ジュリーが球体を破壊して倒したのだ。実質僕が倒したってことでいい気もしてきた。
「やったあああ!」
体の自由も戻り、僕は歓喜しながら下へと降りて行った。
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