クリムゾンムーンファンタジー

黒猫館長

セシリアの愛

第1話

 ジュリー・ブラッドリーは任務を受け辺境の村へと向かった。アイルランドの美しい山々の渓谷にある、のどかな村だ。ただ今回は隣を歩くジュリーの主、エリザベート・ゼクス・ブラッドリーがいることでその景色を楽しむ余裕はなかった。




「そろそろ、どういう任務か教えてもらえませんか主様?貴女がわざわざ来る必要があるほど恐ろしいものがあるのかとびくびくしているんですがねこっちは。」




 エリザベートは美しく長い金髪をふんわりと二つ三つ編みに下げ、桃色のドレスを身に着けた、その上背の高い美女だ。十センチのヒールを履いているせいで身長は百八十センチほどになり、小柄なジュリーはものすごく肩身が狭かった。




「危険はあるだろうが、大したことはないはずだ。心配するな。」




「そうですか。それではなぜ?戦闘狂の貴女がほかに来る理由なんて俺は思いつきませんね。」




「馬鹿にしてんのかお前は。主をもっと敬わんか馬鹿者。」




 エリザベートはジュリーの頬をつねる。




「いててて!いつも思うんですけど、頬をつねるのは流行か何かですか!?地味に痛いんですよそれ!」




「お前の頬はいい弾力だからな。お前が子供の時もよく触ってたぞ。」




「まったく覚えがないですね。」




「ま、小さかったからな。仕方ないだろう。あとお前の問いへの答えだが、まあじきわかるから待っていろ。」




「うーわーもやもやする。」




 見えてきた村の入り口は関所のような建物があり、そこから延びるように村全体が石壁に囲まれているようだった。その上から垣間見える風車や建造物が中世ヨーロッパの田舎を思わせるもので、ジュリーの心は多少踊った。




「エリザベート様、ここって写真撮ってもいいですかね?モモセさんたちに見せたいくらいものすごく良い景色ですよこの村。」




「別にいいだろう。そうだジュリー、今回私たちは旅行に来た姉弟きょうだいとして潜入する。いいな。」




「はあ…まあ一応義姉弟ですし構いませんが、あの、その格好で普通の観光を気取るつもりですか?」




「何か問題あるか?」




 貴族としてのドレスコードには十分すぎる素晴らしいドレス(色合いがこの人位の容姿がなければ変にみられる気はする)ではあるが、観光というにはあまりに仰々しい気がする。その思いをジュリーは呑み込んだ。今更どうしようもない。




「ないですあねさん。」




「うむ。ではいくぞ。あまり浮かれすぎるなよジュリー。」




「はい…。」




 観光雑誌片手にそのセリフはおかしいと思ったジュリーだった。

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