第52話 マインド・ユア・ビスケット
「グラトニー?」
聞き覚えはある。もちろん龍の名前としてではなく、キリスト教の“七つの大罪”のひとつとしてだ。
「
暴食を司る悪魔は、悪魔の王サタンに次ぐ強大で邪悪な悪魔、“ハエの王”ベルゼブブ(あるいはベルゼビュート)だとかなんだとか。わたしはクリスチャンでもなく、宗教的なアレコレにもあんまり興味はないんだけれども。親友のひとりがオタ文化と中二病のオーソリティみたいな子だったのでいつの間にやら記憶させられていた。
さて、その名を冠した
なんでか、初見の印象が少しだけ
「もしかして、コハクの知り合い?」
「にゃ!」
あんなの知らないって、いくぶん気分を害した感じで言われた。たしかに、ビスケット色の恐竜から“聖なる”って感じはしない。“
「リヴェルディオンの連中が連れてきたってことは、あいつらが召喚したのか?」
リールルが忌々しそうに言う。どんどん近づいてくる肉食恐竜もどきを見ても、弓を引こうとはしない。
正体がわからないながらも、敵というより“敵の敵”なのだ。彼女もアリベリーテも、明らかに射るのを
「オオオオォ……ッ!」
「わ!」
まっすぐ向かってきた
「おいカロリー、これは大丈夫なのか?」
リールルが困った顔でわたしに訊く。
「……た、たぶん平気!」
絶対大丈夫かといわれると返答に困るものの、結界が破られそうな感じはしない。弾き返されても
「グォオオォ……ッ!」
しばらく続けていた
なに、その駄々っ子のようなリアクションは。その威厳のなさは、ドラゴンとしてどうなの?
「ガアアァ……ッ」
苦しそうに身悶えながら、こちらにすがりつくようにして吠える。
「そんな顔されても、なにかを訴えているのかわかんないんだけど……」
外してあげようかどうしようかと迷う。さすがにこのサイズの龍がコントロールを失ったらわたしの手に余る。どうしたものかと結界ギリギリで悩んでいるわたしに、転がったままの
「グォオオォ……」
その声を聞いて、コハクがこちらを見る。不用意に近付こうとしていたわたしに注意を促そうとしたのかと思えば、そういう感じではない。へんにょりと眉尻を下げて、呆れたような顔で首を振った。
「どうしたの、コハク。この子が言ってること、わかるの?」
「にゃあ」
わかるみたい。しょーもないと言わんばかりの感じでわたしを見て、
「……にゃ」
――こいつ、“お腹へったよー”って、泣いてる。
「え?」
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