第26話 ロスト・フードトラック

 やっとレベルアップかー。前とは条件が違ったのか、今回はけっこう長くかかったな。体力と魔力は、また上がってる。相変わらず、実感はぜんぜんない。

 それにしても……


【プロフィール】天籟テンライ 香里カオリ(24)

【体力】966/1024

【魔力】1878/2048

【攻撃力】256

【防御力】128

【ストレージ】財布/鍵/ボールペン/i-phone/パスポート/ハンカチ/ウェットティッシュ/ボルトカッター/片手鎌(3)/草刈収穫鎌(2)/刈払い機/平服上着(2)/平服スカート(2)/平服肌着(4)/串焼き肉(26)/ミラネア塩焼き(4)/金貨(216)/銀貨(3)/大銅貨(7)/銅貨(26)

【キャッシュ】184ドル72セント

【スキル】スーパーマーケット(レベル3)

【サブスキル】実店舗召喚(小)/換金

【換金対象】金貨216枚/大銀貨0枚/銀貨3枚/大銅貨7枚/銅貨26枚/魔珠0個

【換金レート】

・金貨:1、600ドル

・大銀貨:64ドル

・銀貨:16ドル

・大銅貨:2ドル

・銅貨:50セント

・魔珠(スライム ):4ドル

・魔珠(ゴブリン):10ドル

・魔珠(オーク):80ドル


「文字、多ッ……目が滑るわ」


 あとストレージの中身の多さ。容量はまだ余裕がありそうな印象なんだけど、整理しないと出すときモタつく。なんでも突っ込むクセはどうにかしないと、アホの子のバッグみたいになっちゃう。

 さらに見ていく内に、問題を発見した。


「これはマズい……」


「にゃ?」


 どしたの? ってコハクが訊いてくる。

 聖獣様には大した問題じゃないかも、だけどわたしにとってはちょっとした問題だった。


移動店舗召喚フードトラックがなくなっちゃった」


 その代わりに、なのか「実店舗召喚(小)」というサブスキルが生えてる。

 “小”っていうのが本当に“小”なのかは実際に見てみないとわからない。アメリカのサイズ感だけは信用しちゃダメだ。彼らのスモールサイズは日本人のエクストラ・ラージだったりするし。特に食べ物と服と車は。あと体形もか。

 レベル2の“スーパーマーケット”でもコンビニ3軒分くらいの面積はあったから、イヤな予感はする。


「カロリーさま、なにか問題でも?」


 シスター・ミアが心配そうに訊いてきたので、現状を伝える。

 異界から不思議な食べ物を手に入れられる能力というのは伝えてある。見たこともない食べ物を次から次へと出しておいて、通りすがりの商人ですはさすがに無理があったから。

 この世界のひとからすると規格外のことばかりなんだろうけど、女神様の意思による“聖獣様のお導き”というだけで納得して受け入れてしまったシスターもどうかと思う。


「では、あの大きな乗り物は使えなくなって、代わりにお店が使えるようになったということですか?」


「ですね。それがどんな店なのかは出してみなければわかりませんが」


「そのお店は、カロリーさましか入れないのでしょうか?」


 それだ。フードトラックの冷蔵庫から繋がっていた間は他のひとが入らないように注意していたけど、今度は実店舗なんだから出している間はひとの目に触れる。入り込むのを阻止するのも大変だし、そもそも店舗なんだから利用できないというのも変な話だ。


「わかりませんね。いっぺん出してみましょうか」


 どれくらいのサイズなのか不明なので、孤児院の近くで出すのは難しいかも。傾斜があったり小さな林があったりするので、傾いたり押し潰したりしそうだ。

 それを伝えると、シスターが少し考えた後でバーベキューをやったところが良いんじゃないかと提案してきた。たしかに、あの場所だったら少しくらい大きな店でも水平に設置できそうな気がした。


「にゃ?」


 いまから行く? と訊かれたものの、もう外は暗いし子供たちはみんなおネムの時間だし、明日にしようと答えておいた。話を聞いていた子供たちが、興味津々で声を掛けてくる。


「かろりーさま、あした、なにかあるの?」


「ええとね……、わたしの、お店が使えるようになったから試してみようと思って」


「おみせ?」「おみせって、なに?」

「おかね、はらって、いろんなもの、かうところ」「みたことない」


 そうか。物心ついたときから孤児院で暮らしている子はお店の存在そのものを知らないんだ。


「明日になったら、お店を出してみるから。みんなが入れるかどうかはわからないけど、入れそうだったら呼ぶね?」


 それから子供たちは大部屋で寝るための用意を始める。部屋に厚手の敷布を拡げて、子供たちは毛布で丸まって寝るのだ。いつもシスターは少し離れたところで、赤ちゃんテニャちゃんと一緒に寝ていた。

 わたしとコハクも孤児院にいるときは同じように寝させてもらってる。小さい子たちと一緒だと、あったかくて柔らかくて、すごく幸せな眠りを得られる。たまに寝相が悪い子から蹴られるけどね。小さくてぷにぷにの足で蹴られるのは、それはそれで幸せだ。


「にゃ」


 どこ行くの、ってコハクから訊かれた。わたしが外に出ようとしているのに気づいたんだろう。


「子供たちを呼べるのかどうか、先に見ておきたいと思って」


 入れるかも気になるが、さらに気になるのは安全が確保できるかだ。

 コハクは、一緒に行くと言ってくれた。ついてきてもらえたら、わたし以外にも入れるかどうかはわかる。


「少し出てきます。すぐ戻りますから先に寝ていてください」


 シスターに声を掛けて、バーベキューをした丘に向かう。もうフードトラックはないので、聖獣姿になったコハクの背中に乗せてもらった。最初に見たときに思った通り、大きくなったコハクはわたしくらいなら楽に乗せて車以上の速度で走る。

 あっという間に丘の上まで到着した。周囲には明かりもなく真っ暗なので、ほとんどなんにも見えない。少し離れたところにある孤児院の明かりが、少しだけ見えているくらいだ。


「周りに誰もいない? 出てきたお店に潰されちゃったりしたら困るんだけど」


「にゃ」


 コハクが大丈夫と言ってくれたので、実店舗召喚(小)を召喚する。


「“スーパーマーケット”」


 唱える必要があるのか不明ながら、わたしが言うと丘の上に巨大な建物が出現した。煌々と灯った異世界の明かりは、あまりに眩しくて目が眩みそうになる。


「にゃああぁ……」


 コハクは目が痛い、みたいなこと言ってる。目が痛いのは、わたしもだ。元いた世界の照明って、こっちのランプとは光量が桁違いなのね。

 目をシバシバさせながら、店の入り口に向かう。夜に無人の巨大店舗に入るのって、正直ちょっと怖い。これで店内にひとがいたりしたらさらに怖いけど。

 自動ドアを通って店内に入る。後ろからついてきたコハクがドアをくぐろうとしたとき、


“入店を承認しますか?”


 承認すると、コハクも無事に入ることができた。煩雑ではあるけど、いまのところ不特定多数を“スーパーマーケット”に呼び込む気はないので、この方式の方がありがたい。

 懸念事項のひとつはクリア。問題は、子供たちでも安全に買い物ができるかだ。


「広ッ……」


 思ってた以上だった。フードトラックの冷蔵庫から入れた店舗はコンビニ3軒分くらいだったのに、今度はそのまた倍以上ある。わたしの知ってる日本の平均的スーパーマーケットよりずっと広い。


「大丈夫、まだ焦る時間じゃない」


「にゃ?」


 なに言ってんの? と聖獣様にツッコまれた。

 本場アメリカのスーパーセンターは、面積がこれの何倍もある。平均で1万7千平方メートル超えだったか、店内を回るのに自転車が欲しいレベルだ。店によってはもっと広くて、いちばん広い店は4万6千平方メートル東京ドームを越えるとか聞いたことがあった。

 この店も広いが、日本人の感覚で言えばショッピングセンターのサイズ感。買い物するたびに店内を駆け回るのかと思うとウンザリはするものの、まだ許容範囲だ。


「毎日こんなとこ回ってたら痩せちゃうよ……」


「にゃ」


 お手伝いするよ、と言ってくれたから、急いでいるときはコハクに乗せてもらうのもアリかもしれない。

 聖獣様の背に乗って野山を駆けるのは実に異世界ファンタジーな絵ヅラだけれども。アメリカの“スーパーマーケット”の店内を駆け巡るのはシュールというかネタ感がスゴいな。


「お腹いっぱいだから、買いたいものが出てこないな」


「にゃ」


 そうだね、って同じくコハクも答える。仔猫姿でカレーお代わりしてたもんね。


「マズい、いまどこなのかわかんなくなってきた。出入口は……っと」


 無為に歩き回っていると、同じような棚が続いていて方向感覚を見失う。縦横の通路が無限に伸びているような錯覚に陥る。子供の頃スーパーで迷子になった気分が蘇ってくる。コハクといっしょじゃなかったら不安になってた。


「美味しそうなものがいっぱいあるねえ」


「にゃ」


 でも正直あんまり美味しくなさそうなものとか、美味しいのかどうかわからないものがメチャクチャいっぱいある。食品以外の品ぞろえも、かなり増えてる。

 単に数が増えたというよりも、ラインナップが大きく変わっていることに気づいた。いままでにない商品部門デパートメントが加わっていて、既存のものも品揃えが拡大している。これで、いろいろと選択肢が増える。


 それは必ずしも良いことばかりではないのだと、店の隅に置かれたを目にして思った。




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