豊満のグルメ ~チートスキル“スーパーマーケット”で美味しいスローライフのつもりが、なんか思てたんと違った件~
石和¥「ブラックマーケットでした」
第1話 リーシーズのピーナッツ・バターカップス
「……なにこれ⁉」
目覚めると、わたしは鬱蒼とした森のなかにいた。
いやいやいや、待って。アメリカ出張からの帰国便、エコノミーのクソ狭シートでアクロバティック爆睡してたとこまでは覚えてるんだけど。
「なにか
だとしたら生きてないか、少なくとも大怪我はしてると思う。それに、周囲になんらかの痕跡が残っているはず。
「なんにもない……」
見渡してみても、モッサリした木と草の他にはなにも見えない。墜落機の残骸も、機体が森を薙ぎ倒した物理的ダメージも、炎も煙も散乱した荷物や乗客も、なんにも。
自分の身体を調べてみても、怪我や痛みどころか服に汚れさえもない。一張羅のパンツスーツにパンプス。
「
わたしの言葉に呼応するように、目の前で光る板が現れた。
「ん?」
懐に触れると、お財布が消えてた。いつの間にやらスマホもパスポートもなくなってる。その代わり、画面上に表示が増えた。
【プロフィール】
【体力】218/256
【魔力】489/512
【攻撃力】64
【防御力】32
【ストレージ】財布/鍵/ボールペン/i-phone/パスポート/ハンカチ/ウェットティッシュ
【キャッシュ】152ドル40セント
【スキル】スーパーマーケット(レベル1)
【サブスキル】オンラインショップ
「これ……ステータスボード?」
ゲームでプレイヤーの性能や成長値なんかが表示されるものだ。一瞬なんでこんなもんが現れたんだろうと思ったけど、わたしが“ストレージ”って言ったからかな。よくわかんない魔法的な処理として、持ち物を
「これは完全に、異世界転移って感じかー」
なんでか不思議なくらいに冷静だった。正直、あまりに現実感がなさ過ぎて驚きも焦りもツッコミも出てこない。
さてどうしたもんかとは思うものの、現実問題として、どうしようもない。どうやって生き延びるかって話になるんだろうけど、ここがどんな世界かによる。
実は隠れファンだった乙女ゲームの世界とかだったら良かったのに。いまのところ王子様も悪役令嬢も出てきそうにない。あのジャンルは転生じゃないと立ち位置ないしね。
それよりなにより、思っきりスキルに表示されている“スーパーマーケット”というのがもうツッコミ待ちにしか見えないくらい違和感ある。
異世界でスーパーマーケットって、美味しい日本の食材で現地人を魅了して和やかにスローライフを満喫するヤーツだったら、それはそれで不満はないんだけれども。
ホントに期待していいの、これ?
「す、スゥパァマーケッツ!」
海外出張帰りなんで無駄に発音を気取っちゃったりなんかして、ピコンという電子音とともに開かれたスキルメニューを見たわたしは思わず固まってしまった。
「たしかに、オンラインショップの画面だね、これ」
そこに並ぶ商品は、見覚えがある。アメリカに住んでいた頃に何度も利用した、庶民向け巨大スーパーマーケットのものだ。日本人の感覚でいう“スーパー”ではなく、ホームセンターと合体した郊外型の“スーパーセンター”だ。消費大国アメリカだけあって、品ぞろえも店舗も商品そのものも日本のそれとは桁違いに幅広く、巨大で、さらに言えば安っぽく大味だ。
うん、“美味しい日本の食材で現地人を魅了”の線は消えた。
商品の項目は他にも大量にあるのに、ほとんどが
「
「異世界なのに、なんでアメリカのスーパーマーケットなんだろ」
わたしがアメリカで暮らしてたのは
「まあ、いっか」
自分のスキルはわかった。ある程度は状況も理解した。わかんない問題は先送りにして、なにを購入しようかと頭を悩ます。
手持ちの
異世界わらしべ長者クエスト開始ってとこかな。この世界が和やかイージーモードであることを祈ろう。
安心したら、小腹が減ってきた。
「とりあえず、こんなときには糖分補給!」
糖分は心の栄養だ。困ったときにはまず甘いものと相場が決まっている。知らんけど。
チョコレートの
「おお、久しぶりのリーシーズ。日本では見かけないんだよね、これ」
端数の2ドルほどで、ごく小さなパッケージを購入。
リーシーズといえばピーナッツ・バターカップス。アメリカらしい雑で甘ったるいチョコがカップケーキ型になっていて、なかにはアメリカの甘くないピーナッツバターがぎっしり。合わさると甘じょっぱくてクセになる、まあ簡単に言えばカロリーの塊だ。
齧りつくとアメリカ菓子特有の強烈な甘さが脳に突き抜ける。糖質と脂質が身体に染み渡ると、空腹とともに不安や焦燥も収まる。問題を先送りにするような感覚で、なにもかもがどうでもよくなる。アメリカがデブの楽園になるわけだ。
危うく4個入りを一気に食い尽くしそうになって、2個で止める。一番小さいパッケージとはいえ、
ここだけの話、まだ小学生でしかない在米中の方が
「気をつけないと。あの国は魔窟だ。……ん?」
そのとき、どこかで猫の鳴く声が聞こえてきた。
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