マネージャーの物語――北方謙三『三国志』批評
85点
全13巻。これまで筆者が読んだ小説の中で最長である。
これまでは山崎豊子『白い巨塔』の全5巻が最長だったが、
それを塗り替えた。
(村上春樹『1Q84』は文庫だと全6巻だけど、ハードカバーでは全3巻だから3巻の扱い)
いやー、長かった。
一気に全巻読んだけど、3ヶ月半かかった。3ヶ月半、ほかの本はまったく読まず。
まず何より思ったのは、これはマネージャーの物語であるということ。
視点が置かれるのは劉備、関羽、張飛、諸葛亮、
曹操、曹丕、司馬懿、
孫堅、孫策、孫権、周喩、陸遜、
呂布、袁紹、張衛、馬超などなど、
ほとんどが有名どころであり、
漏れなく全員大なり小なりの集団のリーダーだ。
組織に属さない一匹狼もいなければ、部下を持たない末端の人間も登場しない。
孤高のイメージのある呂布、張衛、馬超ですら自分を部下を持っていたり、
なんらかの組織の管理職であったりする。
視点人物で管理者でない人は、強いて言えば、後半の爰京ぐらいではないか。
そりゃあ、ハードボイルド作家の書く歴史小説を読む層なんて、ほとんどがおじさんだろう。
そして、おそらくおじさんの半分以上は会社でなんらかの管理職に就いているはず。
そうでなくても所帯を持っていて、一家の大黒柱という立場である可能性が高い。
そういう人たちの共感を狙ったところもあるのかなと。
ちなみに北方謙三自身はちゃんとした会社勤めってしたことないはず。家族はいるみたいですけど。
次に、北方謙三が全共闘世代であることが色濃く反映されていること。
この小説は、凝り固まった体制に対して革命を起こす物語である。
『三国志読本』に掲載されている北方謙三へのインタビューなんか読むと、
やはりキューバ革命あたりへの憧憬みたいなものが見え隠れする。
ある意味『ノルウェイの森』の対極に位置する。
かたや革命を信じて集団で蜂起し、かたや革命を冷笑して一人の世界に閉じようとしてる。
村上春樹も全共闘世代だけど、北方謙三とは根本的な考えかたが違ってるんだろう。
一方で、視点人物たちが一人であれこれ考えをめぐらせる場面が多いのも、この小説の大きな特徴だ。
管理者だから色んな他人とコミュニケーションを取る必要があり、実際そういう場面も何度も登場するが、
視点人物は、程度の差こそあれ全員思慮深い。
それゆえ人物描写に重点を置いた三国志と評されるのだろう。
技法の面でいくと、この小説は三人称小説であるが、
彼、彼女などの代名詞がいっさい使われない。
固有名詞で記すか、主語を省略するやりかたで対応している。
代名詞を使わずともこれだけ長大な小説を書けることの証左といえる。
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