第27話  3- 4 再会 -母との再会、ユッシの影-

 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、僕はルネール村に到着した。何も変わらない懐かしい雰囲気が漂い、ザワザワと落ち着かなかった気持ちが少し和らいだ。

 意を決して、故郷の土を踏みしめるように村に入ると、すぐさま声をかけられた。


「おー、奏多じゃないか。久しぶりだなー。今日はどうした?」

「メザトさん……ただいま。たまには家に帰っておこうと思ってね」

「サガのやつも喜ぶかもしれんな。せっかくだから薬草の収穫くらいしていけよ」


 メザトはそう言うと、ニカッと笑って立ち去った。懐かしい顔との再会が心の不安を僅かばかり融解させたが、その先に見た人物に心臓が止まりそうになった……それは零も同様……メッシだった。


「ほら、行くわよ」


 ルーナかあさんの声に我に返る。抵抗する間もなく僕は母さんに引きずられるよう半ば強引に自宅へと連れ込まれた。


「何やってるの、ユッシを見て表情を変えたら、相手に”私はあなたが普通の人ではないことを知っています”と教えているのと一緒じゃない……でも、おかえり、奏多」


 母さんはそう言うと、優しく包み込むように僕を抱きしめてくれた。


「母さん……ごめん」

「まぁ良いわ。奏多は少し精神面を鍛えないとダメなようね……」


 さっきまでの俗界でのかあさんの嫌な心が、霊界でのかあさんの温かい心で上書きされていく。そんな感傷に浸っていると、背後から聞き慣れた声がした。


「おー、奏多、帰ってたのか。いやぁ参ったよ」


 頭を掻きながら、困った表情で帰ってきたのは父さん。


「今日もダメだったの? 困ったわねぇ」


 困った顔をする母さん、こんな顔を見るのは初めてだ。


「どうしたの?」

「あぁ、数日前に俗界人が迷い込んだんだが、あそこから動かなくってな。さっき飯を持っていってやったんだ」


 ここに来る直前に聞いた、行方不明になったという俗界でのかあさんのことが頭に浮かぶ……「それって、どんな人?」と思わず聞いてしまった。


「ああ、なんか知らんけど、俺のこと”お父さん”って呼ぶんだ。俺には愛しの妻がいるって言ってやったが、金がどうだとか、早く何とかしなさいとか、やかましくてかなわん」

「まーサガったら。私も愛してるわよ」


 絶対に俗界でのかあさんとしか思えないその行動……霊界に来てまで何やってんだか。


「ちょっと僕が見に行ってきてもいいかな」

『大丈夫なの奏多? 絶対にあのお母さんだと思うわ』


 零に向かって諦めたように小さく頷くと、ゆっくりと立ち上がった。


「それなら奏多、ついでだから夕飯の差し入れでも持っていってくれ。レイナー迷い人の夕飯を持ってきてもらって良いか」

「レイナが食事作りしてるの?」

「ああ、みんな成長してるんだ。最近は随分と手の込んだものを作れるようになったぞ」


 子供の成長を喜んでいるような父さんと母さんの顔に感動を覚えた。


「あ、お兄ちゃん、お帰り」

「お、レイナ。随分背が伸びたんじゃないか?」


 ルネール村で生活していた時、シズに訓練をつけてもらう時にじっとレイナが見ていたこともあって、仲が良くなっていた。


『あー、レイナちゃんって本当に可愛いわぁ……』

「零には澪ちゃんがいるでしょ」

「奏多には桜花がいるじゃない」


 桜花は双子とはいえ同じ妹がいる者同士。妹話で盛り上がることがある。


「はい、じゃあ”森のおばちゃんの夕飯”ね、お兄ちゃんよろしく」


 この時間から畑に行って少し話をして戻ってくれば危険な時間帯を避けられる。


「ありがとうレイナ」

「いーえ、2つあるから1つはお兄ちゃん食べてね」


 桜花がこの年齢の時はわがまま放題だった。そんなことを思い出すと、育った環境ってとても大事なんだなぁと改めて思う。


「でも、良くその人、森の中にずっといて獣に襲われないね」

「あの人の周りに良くないオーラが漂っているわ。それが危険な生き物を避けているのかも」

「良くないオーラ―って……性格からにじみ出るオーラだったら凄いな」


『奏多も言うようになったねぇ。こっちの生活にもすっかり慣れたみたい』


 言葉の内容に実感を覚え、レイナからお弁当を受け取ると、サムゲン大森林のポイントに向かった。久しぶりのサムゲン大森林に懐かしさを感じながらも、慎重に足を踏み入れた。


「あれ?」


 目線の先にスーッと何か人影が通ったような気がした。その先を見ても何もいない。


『どうしたの?』

「なんか今、人影が通ったような気がしたんだ……」

『幽霊ですか?』

「うーん、ちょっと違うような……気のせいか。ごめん、さっさと行っちゃおう」


 僕と零が霊界で足を踏み入れた最初の場所。思い出の場所ではあるが過酷な記憶が蘇る。薬草に”甘い”と刻んで大騒ぎしたことを振り返りながらその先に向かった。


 目的地に近づいたとき、女性の大きな声が聞こえてきた……この声は明らかに……母さん。


「金よ金! 使いきれないくらいの金に決まってるわ。ほら、さっさと出しなさいよ!」


 ”あ、いつも通りだ”と思う心と、”いったい何が起きたんだ”、という心が混在する。僕は意を決して足早に向かった。

 そこに居たのは、卑しい顔つきで大笑いする母さんの姿と……ほくそ笑むユッシだった。


「母さん!」


 僕の問いかけに気づくことはない。代わりにユッシがこちらを振り向いた。


「ほう、俺の姿を見ても何も感じないとは……入り口で俺を見て焦ってたものなぁ。前の奴と何か繋がりでもあったか」


 何も言えなかった。そんな僕にユッシは睨みつけて言葉を続けた。


「ちょっと待ってろ、こいつのことが済んだら遊んでやる」


 ユッシは体中からドロリとした暗黒を周囲に放った。その暗黒が母を包むと、体の中から霊のような半透明の姿をした母さんが飛び出してきた。


「こいつの体はあんまり役に立たなそうだな。まぁ家畜程度にはなるだろう……でも魂の方は……こんなに欲望の渦巻いたのはそうそうお目にかかれん」


 そう言ってユッシはどこからともなく女性の体を取り出した。その容姿は紛れもなく隷。地雷系アイドルとして一躍有名になった美波みなみれいだ。


《……まさか、あんな無理やり再構築させるなんて……魔界は一体何を考えているの》


『あれって毒親で有名な隷ちゃんよね。子供に奴隷の隷って漢字をつけたことで有名な』


 その隷の体に母さんの魂を押し込んだ。


「よし、これで再構築終了だな」


 ユッシは満足げに生気なく立っている隷の体を眺めると、満足そうにニヤニヤしていた。


「あれ、私は……なんだこの体は。目線が高いぞ!」

「お前の名前は?」

「夢見 聖子きよこだ。ちゃんと金の願い、叶えてくれるんだろうな」


 この話し方、この内容。明らかに母さんのものだ……しかし容姿はが違う……どういうことだ。


「お前はこれからビーナと名乗れ。まずは第3エンマに行け。そこでお前の願いをかなえてやる」

「分かった……約束は忘れるなよ」


 母さん?は力いっぱい屈みこむと、一気に立ち上がってジャンプした。その高さは……直ぐに目視できないほどになった。


 



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