第3話
(でも……禁煙できて良かったか。そのおかげで息子も娘も元気に産まれてきたことだし。明美も喘息の発作をほとんど起こしてなかったもんな。俺自身も健康だったし)
禁煙したての頃は周りから揶揄われたり何だりしたが、彼は自分の選択が間違っていたとは思わない。実際に完全に禁煙してから三ヶ月ほど経った時に、咳き込んだりすることが減ったし、風邪も引きにくくなったからだ。
産まれた娘や息子が小学校に通う頃になると、娘は学校の授業で教わった煙草の害についての知識を熱心に彼と明美に話してくれるようになったからというのもあるが。娘からその話を聞いた時、今時の学校はそんなことも教えるのかと目を見張ったが、子供のうちからそういったことを教えるのは家庭の啓発になるのだと彼は気がついたのだ。
(ひょっとしたら当時も俺がまだ吸ってたら、娘に怒られてたかもしれないな。肺が真っ黒になるとか、ガンになりやすいとか、周りに毒を浴びせているのと一緒だとか、色々教えてくれたもんな)
娘と息子がそれぞれ結婚して所帯を持った現在では、駅構内でも終日禁煙だし、煙草は成人した証明無しに買えなくなっている。また、受動喫煙の問題が明るみになり、それに飲食店や居酒屋も倣って分煙等が進み、喫煙者の肩身が狭くなった時代になってしまった。煙草のパッケージに書いてある喫煙のリスクの説明だって、当初はパッケージの横の小さな部分だけだったのが、いつの間にかデカデカと半分以上が警告文になっている。
年々煙草の値段も上がって来ているし、若い頃から喫煙している同僚が健康診断で毎回血圧やら中性脂肪値やら何やらが引っかかっているのを見てしまうと、禁煙のきっかけをくれた明美には一生感謝をしてもまだ足りないくらいだ。
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