一人目_矢羽井さんは不運体質です

人はそれぞれ異なる体質を持っている。例えば、幸運が起きやすくなる幸運体質、全てのことに怖がってしまうビビり体質、気になるあの人を追いかけてしまうストーカー体質などその数は100種類もある。その中でも最も危険な体質はあらゆる不幸を引き起こす不運体質だ。これらの体質は厳重に管理されていたはずだった。この時までは...



 とある広間には猫又(白猫)のような生き物が欠伸をしていた。その様子を見ていた○○は呆れていた。猫又は(白猫)の傍に要重要と書かれた置物が置いてありそれをいじりだした。それは割れてはいけない大事なものなので焦りながら止めた。そのおかげか置物は割れることは無かった。


 「暇だにゃ~ン。それにしても本当にこんなこと必要にゃんか?」

 「いいスズ?いつも言っているでしょ。それは大切な体質が100個あるんだから決して目を離しちゃダメよ。分かった??」

 「分かったにゃん」

 「大丈夫かな。心配だけど...少し出かけてくるからちゃんと見ててね」 

 「は~い」


適当な返事をした猫又(白猫)は、その後寝てしまった。猫又(白猫)は寝ていた時に置物に当たってしまった。すると置物が床に落ちてしまいヒビが割れてしまった。


 「あれ?寝ちゃったにゃん。ここで寝るのは良くなかったにゃん。そう言えばここにあった置物はどこにゃん?あれ...もしかして..」


嫌な予感がした猫又(白猫)は置物の近くを探すと床に落ちている置物を見つけた。


 「にゃあああああああ!!やばいにゃん!ばれたら怒られるし、それよりも置物が無事か確認しないと」


慌てて置物を確認するとヒビが出来ていた。なんとかしなければならないと考えていた時○○は帰って来てしまった。


 「ただいま。留守番ご苦労様、何も来てな...い?」


○○は猫又(白猫)のそばに転がり落ちている置物を見て固まった。


 「え、なにこれ?」

 「ごめんにゃん。ヒビが入っただけで大丈夫にゃん」

 「はあ!!ヒビ入れたの」

 「でも割れてないから大丈夫にゃ」


大丈夫だと言いかけた時置物が完全に割れてしまった。激しい光が輝きだした。


 「置物が割れて中身が...」

 「にゃあああああああ!!」

 「こらあああああああ!!スズ」

 「ごめんにゃん!!」


○○の怒る声と猫又(白猫)の謝る大きな声がその場に響いた。



            『矢羽井さんは不運体質です』


 不運体質と聞くとどんなことを想像するだろう。悪運を引き付けるもの、死を招く危険なものなど様々だろう。そんな不運体質を持ってしまった少女がいた。彼女の名前は矢羽井やばい伊織、中学一年生。彼女は物心つく頃からその体質に悩まされていた。今朝も学校の登校時に大量の黒猫に追い掛け回されてあちこちひっかかれて大変だった。


 「はあ~今日もついてなかったな。それにしてもなんであんなに追い掛け回されたんだろう。黒猫って不吉だ...」


席に着いた矢羽井はため息をつく。彼女はこの体質なせいか毎日大変である。ある時は授業中にカラスが窓を突き破って来たり、帰り道に大きな看板ののねじが外れて目の前で落ちてきたりする。一番怖かったのは小学生に時の水族館や動物園だ。ライオンやサメのコーナに来た時に矢羽井を見ると興奮し暴れた。檻や水槽が割れて大惨事になる所だった。そのせいか水族館や動物園がトラウマである。しかし、基本どこにいても不運なことが起きるので矢羽井は気が気でなかったが今は慣れてきている。


 「この体質が直ればいいのに...」

 「何を直すんだ矢羽井?」


ふと名前を呼ばれて気が付いた。いつの間にかHRが終わり教室には矢羽井だけしかいなかった。

 「なんでもないです。考え事していてすみません。すぐ行きます!」


慌てて準備をした矢羽井は担任の教師にそう言うと教室を出た。


 「矢羽井、1限は家庭科室だから教室は逆だぞ~」

 「ああ~そうだった。すみません」

 「あと、廊下は走るなよ」

 「はい!」


担任の教師に返事をした後早歩きで家庭科室へ向かった。外にはクラスメイトが廊下にいて声をかけられた。


 「矢羽井さんやっと来た」

 「遅れて...その」

 「大丈夫なの。実は家庭科の先生がカギを無くして中に入れなくて探してるから!」

 「そうなんだ~よかった」

 「よくないぞ矢羽井」


家庭科室のカギを持ってやってきた家庭科教師・綾里りょうりは名簿長を持っていた。


 「それって...」

 「出席表だ!!遅れた罰として今日は残って図書室の書架整理しろ」

 「家庭科室じゃなくてですか!」

 「家庭科室は私が掃除するからいいのだ」

 「じゃあなんで図書室なんですか?掃除じゃなくて書架整理?」

 「なんとなくだ!!」

 「なんとなく何ですか!!」

 「とにかくやって帰れよ~」

 「わ、分かりました...」


矢羽井は返事をすると家庭教師・綾里は家庭科室を開け授業を始めた。この熱血ぶりから皆は心の中で思っていた。この人なんで家庭科の教師なんだっと。家庭科教師・綾里は、全身ジャージでガタイは良くいつも何故かホイッスルを持ち歩いている。誰がどうみても体育教師に見えるのである。そんな綾里の熱血授業が終わった。その他の授業を終えた矢羽井は放課後になり自分の席でひと息ついた。


「はあ~疲れた。今日も大変だったけど大事にならなくて済んだから」


矢羽井は今日起きたことを振り返った。1、2時限目家庭科の時間は、ミシンで縫い物だった。順番に縫い矢羽井の番になった。糸を用意していざ縫おうとした時ミシンが暴走して縫うスピードが速くなった。流石に家庭科教師・綾里も慌てて止める大惨事になった。


 「なんか早くなって...え!」

 「どうだ矢羽井?なんかおかしく...ってミシンのスピード!止めろ止めろ!」


今思い出すと危ない事である。幸いにも誰もけがをすることはなかった。


 「あれは驚いたな~。他のやつで試しても皆壊れるから」


家庭科のミシンは家庭科教師・綾里が危ないからと言って縫い家庭科の授業は終わった。次の体育では身体測定が行われた。シャトルランと立ち幅跳びをしたのだが案の定不運なことが起きたのだ。


 「それでは立ち幅跳びを図ります。矢羽井飛んでみて」


体育教師に言われいざ飛んでみるとエラーが起きて0mとなる。


 「あれ?おかしいな。ついに壊れちゃったか?もう一度飛んでみ」

 「はい」


もう一度飛んだが記録は相変わらず0mだった。体育教師と矢羽井はその記録を見て察した。


 「矢羽井...一応もう一度飛んでみようか」

 「はい」

 「記録は...0m」

 「先生...機械ですかね?記録どうします?」

 「一応図るテープあるからそれでやろう」

 「はい」


結局何回か試したものの機械が直ることは無かった。次のシャトルランも同様だった。


 「それじゃあ~後半組やるぞ」


体育教師がスイッチを押すと音源が流れるのだが音源が速すぎて誰もその場から動けなかった。


 「あれ?おかしいな。こっちもか?またやるぞ」


何度も試しても変わらずそのまま時間が過ぎてしまった。学級委員の女の子が体育教師にどうするのか尋ねると体育教師は諦めて言った。


 「機械自体が壊れて直らないので皆、シャトルランは記録0にします」


体育教師がそう言ったので矢羽井のクラスは矢羽井の含めて記録0となった。体育教師が言った後にチャイムがタイミングよく鳴りそのまま体育館を後にした。昼休みになり矢羽井は弁当を開けると中身がぐちゃぐちゃになっていた。


 「オムライスがぐちゃぐちゃになってる」


矢羽井はその無残なオムライスを見て少し泣きたくなった。午後の授業は国語と数学だが教師に当てられるという苦行をした後やっと放課後になった。思い出してもトラブル続きの一日だった。しかし矢羽井には図書室の書架整理が残っている。このまま帰ろうかと思う矢羽井だがばれた後が面倒なるのでしぶしぶ図書室へ向かった。


 中に入ってカウンター席に座っている学校司書の女性に声をかけた。


 「すみません。綾里先生に図書室の書架整理をするように言われたんですけど」

 「そうなの?ごめんなさい、今図書委員の子が終わらせちゃった所なの。他には...そうだわ!ならそこにある本たちを戻してもいいかしら」

 「返却する本たちですね。分かりました」

 「それが終わったら帰って大丈夫よ」

 「はい」


指示されたように借りられた本を返却するために数冊本を持った時奥の本棚から白い生き物が歩いて見えた。


 「え?今何か」

 「どうしたの?」

 「いえ、見間違いです。やってきますね」


勘違いだと思った矢羽井は本を戻し始めた。最後の本を戻そうとした時先ほどの白い生き物を見かける。


 「気のせいじゃない、ちょっと待って!」


急いで追いかけると本が中途半端に入れたために本棚から多くの本が落ちてしまった。


 「いっ痛い!!本が落ちちゃった。戻さないと...あの生き物はいないか」


本を戻し終えて一息つくと目の前に白猫のような生き物が立っている。しかし普通の猫とは違い尻尾が二つある生き物だった。


 「あなたやっぱりここに..」

 「もしかしてスズの子と見えてるにゃんか?」

 「スズってあなた?み、見えてるけど...え、今喋った!!」

 「そうニャン!スズは話せるにゃん」

 「でも何で普通こんなことありえないのに...やっぱりこの体質のせいだ。言葉を話せる猫なんていないんだ~不吉だ~。白いけどまた良くないことが起きるんだ~この不運体質が...」


矢羽井は頭を抱えてそう呟いた。その言葉を聞いたスズは矢羽井にくいついた。


 「今不幸体質って言ったかにゃん!!」

 「そ、そうだけどどうして?」

 「よかった。やはりそうにゃん。君は何かと不運な目に合っているにゃんね」

 「何でそれを...」

 「それは君が言っている通り君は不運体質にゃん」

 「不運体質...やっぱり。でもどうして?」

 「実はにゃん。この世には100個の体質があるにゃん。君はそのうちの一つ不運体質にゃんよ」

 「そんなこと急に言われても...それにあなたは一体何なの?」

 「そうにゃん、自己紹介がまだだったにゃん。にゃあの名前はスズって言うにゃん。猫だけどただの白猫じゃないにゃん。尻尾を見ると分かるにゃんけどにゃあは、猫又にゃん!」

 「猫又って尻尾が二つある猫ってこと」

 「そうにゃんよ。それでお願いがあるにゃん」

 「お願いって?」


矢羽井は猫又のスズにそう聞くと猫又のスズは嬉しそうに言った。


 「お願いにゃん!!にゃあは100個の体質を持つ人と出会って体質を回収しなければならないにゃん。だから今からにゃあと友達になって一緒に探してほしいにゃん!!」

 「え..ええええええええええ!!」


矢羽井は驚いて大きい声を出してしまった。駆けつけた学校司書の女性に注意されて謝った。いつに間にか時間は過ぎていたようで学校を出る頃には辺りは暗くなっていた。下校中にふと、隣を見ると傍にはご機嫌そうに歩く猫又の姿をみて一息ついた。あの時ふと驚いたがこの体質のことを考えて矢羽井は協力することにした。



 学校司書の女性に謝ったあと矢羽井はスズと向き合いスズに尋ねた。


 「ねえスズ。少し聞いていい?」

 「なんにゃん?」

 「体質を回収するんでしょ?そうなったら私の不運体質もそうなる?」

 「そうにゃん。その不運体質も回収することが出来るにゃん。でも全ても体質を集めないといけないにゃん」

 「それって100個集めないといけないってことなの?」

 「そうにゃん。でもこんなことを頼めるのは君だけにゃんよ。みゃあは体質をもつ人にしか見えないにゃん。だからみゃあが見えて体質を持っている人...つまり君を探していたにゃんよ。君の力が必要にゃん」

 「私を...」


矢羽井はスズの言葉を聞いて驚いた。今まで誰かに必要だと言われたことがなかったのだ。いつもこの体質のせいか人と距離を置いていたからだ。100個の体質を持つ人を見つけるのは容易ではなく難しいことだ。


(だけど...もしこの体質を回収して無くすことが出来るなら...)


 「いいよ。私にできる事ならあなたと友達になるよ。私もこの体質を直したいから」 

 「ありがとうにゃん!!」


スズは喜び矢羽井と手を繋いだ。すると辺りが光輝きスズの尻尾にぶら下げられたランタンに黒い光が回収された。


 「これで1つ目の体質回収にゃん」

 「成程。友達になったらそのランタンに光が集まっていくんだ。そうなると後99個の体質を集めるのか...長くなりそうでね」

 「そうにゃんね!えっと名前は~?」

 「そうだ!私も自己紹介忘れてた。私の名前は矢羽井伊織って言うんだ。これからよろしくね、スズ」

 「これからよろしくにゃん」


矢羽井とスズは互いに顔を見合わせて笑った。すると図書館内にチャイムが鳴った。まるで二人を歓迎しているようにチャイムの音がなり響き図書館内に木霊した。再び二人は顔を見合わせた。


 「チャイムが...もうそんな時間か...」


チャイムは最終下校を知らせる音であり図書館の外を見ると大半の生徒が下校しておりほとんど生徒は居なかった。学校司書の人が図書館を閉める準備をしていた。その姿を見た矢羽井も下校をすることにした。下校する準備を始めた矢羽井は目の前のスズを見る。


(私は帰るとしてスズはどうするんだろう?帰る場所ってあるのかな?無いのなら...鈴が良ければ一緒に...)


 「図書館も閉める時間だしそろそろ図書館を出ないと...ねえスズ良かったら一緒に来ない?」

 「いいにゃんか?」

 「うん。帰っても一人で寂しいからスズが良ければ...一緒に帰ろう」

 「はいにゃん!」

 「声が大きいよスズ」

 「ごめんにゃん~」


二人でやり取りをしていると図書館に残った矢羽井を見つけた学校司書によって強制的に図書館から追い出された。学校司書は眉間に皺を寄せながら矢羽井に小言を言うと綾里の元へ連れて行き荷物を手渡し学校の登校口の外へ出す強めに扉を閉めると直ぐに鍵を閉めた。その勢いと速さに二人は一言も発言できず立ち尽くした。面倒な綾里も学校司書の剣幕には逆らえず小言を言われて小さくなりながら矢羽井の遅刻の件は終わった。小さくなる綾里に気の毒だと思うが綾里に強く言えないため内心学校司書の存在に感謝した。学校を見た矢羽井は大人しく座っていたスズを見ると優しく頭を撫でて言った。


 「それじゃあ帰ろうかスズ」

 「はいにゃん」


スズは矢羽井の肩に乗ると撫でた礼を返すように頬をすりすりと頬ずりした。その仕草に嬉しさの半分くすぐったさの半分に矢羽井は悶えた。矢羽井の頬ずりを満足したスズは矢羽井の肩から降りると歩き出した。矢羽井もスズの後を追い歩き出したのだった。


 「さっきは凄かったにゃんね!」

 「そうだね。早すぎて言葉も出なかったよ」

 「面白かったにゃんね!やっぱりスズの目は狂ってにゃかったにゃんね。伊織といると退屈しにゃいにゃん!」

 「まあ..不運体質だからね。でもさっきのは体質とは関係ないような」

 「そんなことないにゃんよ。学校司書の人に強制的に学校を追い出されたにゃん。それも不運体質の力にゃんよ」

 「そうなんだ...そんなことまで不運体質が。不運体質って案外がばがばなんだね」

 「そうにゃんね!」

 「こんなんで大丈夫かな。不安になってきたよ」

 「大丈夫にゃん!伊織は一人じゃない、スズがいるにゃん!これから二人で頑張るにゃん!」

 「そうだねスズ。って元々スズが原因だったような」

 「き、気のせいにゃん!」

 「ああ、こら待てスズ。私の家はそっちじゃないよ!」


と誤魔化すように走り出したスズを矢羽井は慌てて追いかけるのだった。



 こうして矢羽井は猫又のスズと出会い100個の体質を回収するために、友達を100人作る生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る