6
帝から見舞いの使者が来たこともあり、屋敷を襲った鬼について報告するため朝廷へ赴くことにした。久しぶりに着た束帯に窮屈さを感じつつ、議定ではないものの公卿たちの視線に居心地の悪さを感じる。長兄、次兄ともに列に座っているが、兄上たちが俺に声をかけることはない。そんななかで屋敷に現れた鬼についてひたすら報告の弁を述べた。もちろん金花に聞いた“鬼が女を攫う理由”も報告したが、納得できないのか俺の言葉に耳を傾けたくないのか受け流される形で議定は終わった。
その後、御所へと赴き母上からの文を帝にお渡しした。帝からは見舞いとして
朝廷へ出向いた数日後、兄上たちが手配したという警護用の
「これはまた、物々しいものが増えましたね」
「おまえ、それは八幡大菩薩のご加護を得た太刀だぞ!」
「あぁ、だから少しピリリと痺れたような感じがするのですね」
「不用意に触るな!」
まだ太刀に触れている手を奪い取るように掴み、急いで太刀から引き離した。鬼である金花が加護を受けた
「ふふっ、わたしを心配してくれるのですか?」
「それは……ッ! おまえは鬼だろう、それなのに不用意に触れるなど何を考えているんだ!」
「わたしは半鬼ですし、おそらく大丈夫だと思いますよ? そもそもあなたの太刀を素手で奪ったことを忘れたのですか?」
そういえばそうだった。初めて対峙したとき、たしかに金花は素手で
「たしかにあのときはそうだったが……」
「それほど心配してくださるなんて、カラギも本当はわたしのことを好いているのでは?」
金花の言葉に、ぐぅと言葉が詰まった。ついこの間までは違うとはっきり言えたのに、なんとなく言いづらい気持ちになる。それに最近では金花に触れられても以前ほど身構えることがなくなった。命を狙っているのではないとわかったからかもしれないが、それにしてはやけに鼓動が忙しなくなる。
(もしや俺も金花を好いているのか?)
そう思うこともあるが、何度考えても答えは出なかった。相手は男、しかも鬼だ。そんなやつに思いを寄せたりするはずがない。しかしそれでは「好いているのでは?」と問われるたびに言葉を詰まらせてしまう理由がわからない。それとも体を重ねているうちに情がわいてきたということだろうか。
(それにしてはこの気持ちは……)
いや、それこそが鬼のなせる技に違いない。そもそも好いていたから金花を都に連れてきたわけではなかった。もし子ができたなら責任を取らなくてはと思っただけで、悪さをしないか監視する目的もある。
(それなのに、屋敷に来てからも毎日のように肌を重ねてしまっている)
これでは本末転倒だ。わかっているのに、黒く濡れた目を見ると途端に金花しか見えなくなる。紅い唇が言葉を紡ぐだけで吸い寄せられ、白い手が体に触れるだけで気持ちが昂ぶった。そんな中で身を寄せられれば拒むことは難しい。
極めつけは伽羅の香りだ。金花自身から漂っているのであろうあの香りを嗅ぐと酒精に呑まれたようにぼんやりとしてしまう。その後は、ただひたすら金花がほしくてたまらなかった。毎日のように行為に及んでいるというのに、まるで閨事を覚えたばかりの頃のように翌日には同じように体を熱くしてしまう。
(それもこれも鬼の力のせいに違いない)
そうだ、鬼の技に違いない。そう思っているのに、いまも俺の手は金花に伸びてしまっていた。
「こんな場所で体を火照らせてしまうなんて、カラギもわたしと同じですね」
「ちがう!」
「そうですか?」
布の上からそろりと撫でられただけなのに股座に熱が集まるのを感じた。こんな場所で、しかも朝餉を食べたばかりの時間だというのに体がどんどん熱くなる。気がつけば金花を掴んでいた手に力が入り、ぐいっと引き寄せて抱きしめていた。
(これでは何を言っても説得力がないじゃないか)
金花とはほぼ同じ背丈だからか、引き寄せるとすぐそばに頬が近づく。長い睫毛もスッと伸びた鼻筋も紅く熟れた唇も目の前にあるからか、無意識のうちにゴクリと喉が鳴ってしまった。
「本当に理想的な精の強さだこと。ふふっ、わたしはかまいませんよ?」
「……っ」
耳元で囁かれた声に、俺の喉は不覚にもまたゴクリと音を立ててしまった。
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