第35話 俺の妄想の産物じゃない

 〈さっちん〉は渾身の力で抓ってくれている、まるでペンチでこじられているようだ。

 ぷにぷにの二の腕は、脂肪だと思っていたが、未発見の柔らかい筋肉だったのだろうか。


 「ふふっ、もうちょっと抓っていたいんだ。 この浮気者」


 「ひぃん、許してください。 痛いです。 謝りますから、もう反省しました」


 「うふふっ、お二人は仲良しですね。 私は神殿に一人だけで暮らしていました。 だからお友達が三人も出来るなんて、夢のようです」


 そうか、〈アッコ〉はたった一人で生活していたんだ、寂しい思いをさせていたんだな。

 俺と話すのと女同士では、楽しさが全く違うのだろう、花が咲いたように笑顔が弾けている。


 「吾輩も嬉しいぞ。 百合仲間が二人も増えて、熱く滾ってくる」


 この欲情過多の金髪大女は、いつから吾輩と自称するようになったんだ、自分のアイデンティティを守るためなのか。


 「僕も百合の先輩として頑張ります。 百合の神髄を共に目指しましょう」


 〈ハッチ〉は何を頑張ってくれるんだ、俺のハーレムを破壊しないでくれよ。


 「〈よっしー〉は、こんな子供にも手を出したの。 ひどい男ね」


 〈さっちん〉は力を弱めてくれたが、まだ俺の頬を抓ったままだ、俺と違ってねちっこいな。


 「むぅ、違いますよ。 僕は21歳です」


 〈ハッチ〉はプウと頬を膨らして文句を言っているが、その仕草が幼いんだよ、自覚がないんだろうか。


 「えぇー、そうなの。 ごめんなさい」


 意外すぎたから、〈さっちん〉は吃驚した拍子に、やっと抓るのを止めてくれた。

 でかしたぞ、〈ハッチ〉、〈あんあん〉言うまで、特別丁寧にちっぱいを揉んであげたい。


 「そうなんですか。 お姉さんですね。 私が一番若いかも知れませんね」


 〈アッコ〉が嬉しそうに言うもんだから、誰が一番若いかで、論争が始まってしまった。

 〈ハッチ〉だけは混じっていない、若い事には重きを置いていないようだ。


 だから俺は論争が終わるまで、〈ハッチ〉のちっぱいを揉んでみた、だけど〈ハッチ〉は、〈あん〉としか声をあげなかった、技術不足でごめんなさい。


 「もぉ、使徒様は青カンがお望みなんですか。 とんでもなく変態さんですね。 うふふ」


 近いうちに緑の草の上で、〈ハッチ〉と一戦交える必要があるな、期待させてしまったらしい。

 そして、緑の草の上に赤く染まった百合の花が、咲きこぼれるのだろう、こぼれる花の蜜は甘いか舐めてみよう。


 「使徒様、誠におめでとうございます。 より一層神々しくなられましたね。 このご馳走とお神酒は大神殿を持たれた御祝儀です。 どうぞお納めください」


 新しい長の〈ワワケ〉が、貢物を持ってくれた、三百人以上の服と装備だ、デッカイ車もあったし、ホクホク顔になってやがる。


 「うむ、苦しゅうない。 気持ちは受け取ったぞ」


 「ははっ、ありがたき幸せ。 落ち着かれましたら、左隣の〈ザフイダ国〉への侵攻が待っておりますので、ご留意しておいてくだされ」


 襲って来たのは〈ザフイダ国〉ってとこだったんだ、また戦になるんだろう、嫌になっちゃうよ。


 長と話している間に、〈さっちん〉を始めとした俺の巫女が、いなくなってしまった。

 〈さっちん〉も巫女で良いんだろう、もう専用の神殿があるからな。


 それよりも、俺を一人ぼっちにするなんて、なんてひどい女達だ。

 俺の神域らしいけど、こんな見知らぬ場所に置き去りにするなんて、すごく寂しいよ、涙が出ちゃう。


 俺は傷心したまま、フラフラと一番近い神殿に近づいた、良く見るとなんと和風のお城じゃないか、黒い瓦に白い漆喰が輝いている。

 神殿なのにお城、お城なのに神殿、あれれ、おかしいぞ、俺の神域だから俺がおかしいヤツなんだな、納得。


 中へ入ると、〈さっちん〉が紅白の巫女の衣装を着ていた、何でもありだな、でもこれで〈さっちん〉が巫女だとハッキリしたな、だってまんま巫女だもん。


 「〈よっしー〉、似合っているかな」


 「おっ、バッチリ似合っているぞ。 でも俺を見捨てたな、ひどいじゃないか」


 「へっ、見捨てていないよ。 今も〈よっしー〉の神域にいるし、〈よっしー〉が妄想したお城に住むんだよ」


 「そうなのか。 これは俺の妄想なんだな。 まさか〈さっちん〉も俺の妄想の産物じゃないよな」


 「ふふっ、それはどうかな。 ベッドの上で、私が実体かどうか確かめてみる」


 〈さっちん〉は浮気していたことをもう怒ってない感じだ、やけにあっさりしているな、俺の巫女だという証拠にはなるけど、妄想の産物へ近づいた気もする。


 「ふぅー、〈さっちん〉は最高だ。 妄想でも何でも良い、すごく良い」


 「もぉ、〈よっしー〉は疑い深いよ。 私の愛を感じなかったの」


 「おぅ、ビンビン感じたさ。 熱くて蕩けそうだったな」


 「はぁ、そういう事じゃなくて、心の方だよ」


 「もちろん、愛しているよ、当たり前じゃないか。 〈さっちん〉は俺の嫁なんだぞ」


 「ふふっ、もう一回したいな。 お嫁さんなら優しく抱きしめてよ」


 「ふぅー、もうダメだ。 〈さっちん〉に溺れそうだよ」


 「ふぅん、私はそんなに量は多くないよ。 ふふっ、明日は温泉で溺れさせてあげるわ」


 「えっ、温泉もあるのか」


 「うん、あるよ、露店風呂なんだ。 でも明日だよ。 今から宴会の準備をするからね。 懇親会をする事になっているんだ」

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