うちのメイドは甘党で少し辛口
七転
第1話 プロローグ
「ご主人様、掃除するのでちょっとどいてください」
シックなロングスカートをはためかせながら、彼女が掃除機を操っている。揺れる肩口に切り揃えられた髪。
「尊敬の念がまったく感じられんな」
「日曜日だからって起きてからソファでずっとごろごろしているご主人様をどう尊敬しろと……?」
「真顔で言うのやめて、傷つく」
我が家にはメイドさんがいる。この不景気にも関わらず、だ。
世間一般的に見ればおそらく珍しいことだろうが、彼女のいる生活にもう慣れてしまった。
きっかけは単純で、仕事が忙しく家事をする間もなく寝てしまう毎日に危機感を覚えた俺が、家事代行サービスを頼ったら彼女が来たのだ。ドアを開けたらメイド服の女性が佇んでいた時は驚いた。
寝惚けて契約したからか、住み込みという項目を見逃してしまって今に至るというわけだ。契約書はよく読んだ方がいい。
幸いこの物件は2LDKで彼女専用の部屋を用意できるからよかったものの、これが1Kとかだったら地獄だったぞ。……そういう時は会社が契約を止めてくれるんだろうが。
メイドさんがうちに来て早1ヶ月。初めのうちはお互いを気遣ってぎくしゃくしていたが、今や軽口を叩けるようになった。
「ソファに戻っていいですよご主人様」
「はいはいありがとうございます」
「『はい』は1回って習いませんでした?」
「うるさいやい、メイドさんは俺の母親か何かか」
「当社、そういうアブノーマルなサービスはやっておりませんで……」
「プレイを要求してるわけじゃないんだよ」
こんな風に。
会社の規定なのかメイドさん自身のプライドなのか、彼女は俺のことを「ご主人様」と呼ぶ。俺もそれに倣って彼女のことを「メイドさん」と呼んでいるのだ。
契約の更新については最初の1年は3ヶ月に1回の更新、以降は半年に1回、次いで1年に1回と定められている。
メイドさんと俺の双方の合意がなければもちろん契約は更新されない。彼女は自分の生活のために、俺は健全な私生活のためにお互い仲良くしたいものだ。
「ご主人様、ちょろちょろ動き回られると掃除がし辛いので動かないでもらっていいですか?埃も舞いますし」
仲良くやっていけるだろうか……。
めそめそしながらソファにまるまって雑誌を読む。彼女は家に来てから度々甘いものを要求する。なんでもかなりの甘党らしく。
家主のはずなのに発言力が弱いこんな状況を打破してやる、そう思いながら俺は「スイーツ特集」と書かれたページをめくった。
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