第9話 数年後。

 婚姻を果たした後、直ぐにも彼女は3人の子を成し。

 産後に命を落とした、となされた。


《本当に》

「はい、それに、真の王族の血を残せた事への誇りを頂けました。私は庶民として、教育者として、以降はお国のお役に立ちたく存知ます」


《私と》

「嫌です、やっと肩の荷が下りた所なんですよ、アナタ様を背負える気力はもう御座いません」


《また、会いに行きます》

「程々にお願いしますね、マクシミリアン様に嫉妬されては困りますから」


《アナタは、そこまで知っていながら》

「だからこそ、かも知れませんね。選べるモノの少ない立場を、私なりに理解しているつもりですから。どうか、お幸せに、あの方にも十分に可愛らしい所が有るのですよ」


 本当に、コレで良かったのだろうか。

 本当に、コレしか無いのだろうか。


 コレが彼女の幸福の最大値なのだろうか。

 コレを彼女の幸福として良いのだろうか。


『ジャン、ほら、意外と可愛いでしょ』

《最後に、話し合いたい、彼女の事を》


『出来る限りの事はしたよ、愚かな貴族も見せた、彼女を好いた者も傍に置かせた。けれど彼女が選んだのは、あの道だった』


《剪定され、数少ない道しか残されていない、その道を選ぶ事が本当に幸福だと言えるのだろうか》

『庶民ならまだしも、あの国での事とは言えど貴族だった、そして王妃だった。選べる道は限られていた、最初から、彼女の道は限られていた』


《滅びか死》

『あるいは彼女が気付かなければ良かった、望まなければ良かった。あの国を侵略し制度は潰す、先達は彼女の様な者を出した先を考えていなかった。一緒に戻ろう、君が必要なんだ、その為にも』


 本当に、それが最も正しく、選ぶべき道なのだろうか。


 彼女はどうなる。

 幾度もの繰り返しの果てに、子を他者に譲り、使い捨てられたも同然の道を生きるだけ。


 本当に、この道を彼女の幸福として良いのだろうか。


 いや、道は有る。

 作れば良い。


《もう少しだけ待ってくれ》


『何処へ行く気?』

《1度だけで良い、やり直させてくれ》


『マリーを選ぶんだね』

《もし失敗したなら、君を選ぶ》


『そんなに嫌なんだ』

《彼女を愛しているワケでも、お前が嫌なワケでも無い、最適解が知りたいんだ》


『そう、けど単なる同情心だけで、彼女のココまで築き上げた努力を無に帰すの?』


《真の幸福と成り得ないなら、その分は私が引き受ける》

『正義感が強過ぎるのも、考えものだね』


《すまない》

『君が何と言おうと、彼女を選んだ事に変わりは無い、その事を良く覚えていて欲しい』


《あぁ、行ってくる》

『1度は抱くとかしない?』


《次に、必ず》




 何故、私が手を貸したか。


《いつか産み出されてしまう可哀想な子を、幸せにしたかったの》

《どうかお力添えを頂けますでしょうか、アシュタロト勲功爵》


《勿論よ、あの子をお願いね》

《はい》


 人は放っておくと、勝手に不幸になってしまう。

 どんなに幸福を理解しようとも、直ぐにも不幸へ向かってしまう。


 獣には無い複雑さ。

 精霊には無い迷い。


 悪魔には無い利己的さが、幸福の最大値を狭める。


 全ての者が他者への幸福を最優先にしたなら、全ての者が幸福となるのか。

 いいえ、それでは譲られる不幸が発生してしまう。


 選べぬ不幸。

 選ばなければならない不幸。


 不幸は常に付き纏う。


 なら、不幸を最小限に留めれば良い。

 その者の不幸を最小値に、幸福の最大値をと望んだ時。


 全体の最大幸福値は上がる。


《ふふふ、楽しみにしているわね、嘗て向こうの世界でマリー・アントワネットと国を不幸に至らしめた者。モールパ次期侯爵、ジャン・フェリポーの名を持つ子、精霊と悪魔と人の子》





 今は、いつだ。


《マクシミリアン》

『あ、良かった、急に倒れたから心配したよ』

《そうよ、本当に急に、大丈夫?》

「痛みは、何処にも無さそうだな」


《あぁ、ただ幾ばくか記憶が曖昧なんだ、今はいつだ》

《宮廷医を呼んで来るわ》

『僕の年は14、君は』


《17》


 学園での騒動が落ち着いた頃。

 アントワネット・マリーは、12才か。


『灰色猫、こんな事』

「あぁ、初めてだ」

《天啓を受けた、コレから人を迎えに行く》


『ちょっと、動かないでよ』

「しかも天啓か、偽証は重罪だぞ」

《診察後、陛下に会いたい、頼めるかマクシミリアン》


『良いけど』

「我が見ておく」


『じゃあ、本当に安静にしててよね』

《あぁ、頼んだ》


『うん、分かった』


 この時期なら、確かに動き易い。

 だが、問題はどうすべきか。


 取り敢えずは連れ出し、この地でアントワネット・マリーを保護するつもりだったが。

 そもそもココは、アントワネット・マリーにとって何度目の。


「悪魔の加護を得たな」


《分かるのか、灰色猫》

「いや、気配程度だが、何が有った」


《1度だけ、やり直す許可を頂いた》


「宿星になったのか、馬鹿な事を」

《こう簡単になれるモノなのか》


「あぁ、だが望んでなった者は、殆ど居ない」

《何故》


「良く考えろ、宿星のその先を」

《その先》

《ジャーン!呼んで来たわよー!!死んで無いわよねー!!》


《あぁ、生きてる》

「速さが小憎らしいと思う日が来るとはな」




 自ら望んで宿星となった者が、滅多に現れぬのは何故か。

 それは酷く簡単な事だ。


《幾度ものやり直しの果てに、磨り減り、諦めてしまう》

「人生、時に運命とは繊細だ。些末な事が時に大きく影響し、大義を成したとて、その大筋を変えられぬ事が殆ど」


 だが、悪魔は決して答えを教えはしない。

 例え真の答えを持っていようとも、決して答えを教える事は無い。


《だが、与えてくれた》

「過度な介入を精霊すら良しとしない、機会は与えるが、後は全て人種任せだ」


《俺はコレから、怠惰国のアントワネット・マリーを迎えに行く》

「何故だ」


《彼女を幸福にする為に》


「ほう、ではどう幸福にすると言うのだ」


《先ずは、連れ出す》


「阿呆が、考えに至る前に行動したな」

《すまない、だが確信が有ったんだ》


「どの宿星もそうだ、希望を胸にやり直し、幾度ものやり直しの果てに力尽きる」


《アントワネット・マリーが、そうだったんだ》

「お前は、その者の苦労を台無しにするつもりか」


《あぁ、最初からやり直すつもりだ》

「その者の思いはどうなる」


《責務は私が負う、そして彼女を幸福へ導く》

「お前の想定を遥かに凌駕する変化が起き、思う様には進まんぞ」


《あぁ、十分に聞かされた、十分に》


「だとして、何故だ、何故その者の幸福を願う」




 全ては、国の為。


《彼女を幸福に出来なければ、この国が滅びてしまうかも知れない、と》

《はい》


『だけ、か』


《分かりません、酷く執着している事は事実ですが、何故かまでは分かりません》


《アナタは賢い子よジャン、だからこそ単に失敗を恐れているだけかも知れない。もっと言うなら汚点を残したくないだけ、かも知れないわね》

《はい、承知しております》


『マクシミリアンをどうするつもりだ』


《他の者に任せます》

『責務を放棄するか』


 このやり直しの果て、例え添い遂げなければならなかったとしても。

 いや、寧ろこの道筋こそ、あるべき姿なのかも知れない。


 マクシミリアンの好意に気付いていながら、幼さ故だと放置した。

 その結果、アントワネット・マリーを巻き込むに至ってしまった。


《適任者にお任せします、私では彼を正しく導く事は不可能です》


 マクシミリアンに愛着と情愛の区別が着いたなら、私は受け入れるしか無い。

 最も守れる位置に置き、血を存続させなければいけないのだから。


『では勅命を出す』


 全てはアントワネット・マリーの幸福の為。

 この国の存続の為に。

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