23.作戦会議
策戦会議が始まってから、騎士達はあれやこれやと話し合った。
「――……やはり、街の中央道で全部隊で迎撃するしか道はないのでは?」
しかし、最初に出た策戦以外の有効打を誰一人出せず、騎士の一人がケリーに同意を求めて言った。
問われたケリーは街の地図に目を落として、静かに思考を巡らせている。
少しでも有利な状況に持ち込みたい所だが、サザギミ軍五千の兵力に対し、自軍の兵力は軽傷で動ける兵を含めても二千弱。
正面から、やりあっても勝てる見込みは薄い。
それでも撤退する事は出来ない。怪我人を運んでの撤退は、後ろから矢を打たれるのと同義だからだ。
街の地図に目を落としていたケリーは、ふと顔を上げ勇を見た。
「イサム。お前の意見を聞かせろ」
そう言って、勇を側へ呼び寄せた。
呼ばれた勇は街の地図に目を通してから、地図上の駒を動かして言った。
「中央道に部隊を配置するのは必須として、北と南に少数の部隊を配置し、サザギミ軍を街に引き込んでから建物を倒壊させ、歩兵の大半を討ち取って敵兵を減らす」
勇が立案した策戦を聞き、騎士の一人が顔をしかめて、声を上げる。
「それはつまり、味方諸共、敵を生き埋めにすると言う事、ですか……?」
その発言を聞き、他の騎士達も騒ついた。
ただでさえ、戦える騎士や歩兵が少ないと言うのに、その上更に減る様な策戦は到底容認出来ない。
疑問に対し、勇は答える。
「囮にする事は否定しないが、無駄死にさせるつもりはない。それに、三方向からサザギミ軍が来ると分かっているなら、二方向を少数の部隊で食い止め、中央に許す限りの兵を集めて、迎え撃つ方が惨敗する可能性は低くなる筈だ」
「全部隊が中央で迎え撃つよりも有効だとでも……!?」
「そうだ」
迷いなく言い切った勇に騎士達は動揺した。
本当にこの作戦で勝てるのだろうか? と言う不安が広まる。
その中、ケリーが口を開く。
「イサム。お前は惨敗する可能性は低くなると言ったが、勝つ為の策戦ではないと思って良いのか?」
ケリーの指摘を聞き、騎士達は勇の答えを固唾を飲んで待ち受けた。
「勝つ必要はない。こちらの兵力を極力減らさず、敵を撤退に持ち込めれば、応援が到着するまでの時間を稼げる。……尤も、危ない橋を渡る事に変わりはない。上手くいかなければ全滅も避けられないだろう」
「それでもお前はその策戦を推すんだな?」
「あぁ。これが最善の策だと俺は考える」
真っ直ぐにケリーを見て真摯に答える勇に対し、ケリーは冷静な顔付きで勇を見定めた。
そして。
「なら、お前に二百の兵を貸してやる。そいつらを引き連れ、北からのサザギミ軍を食い止めて見せろ」
ケリーの指令を受けて、勇は目を見開いて無言で驚いた。
そして、そんな勇よりも更に驚いたのは騎士達である。
勇に兵を任せると言う事はつまり、勇の策戦を決行すると言うことに他ならないからだ。
西から敵の本部隊が迫って来ている為、そこにこちらの主力部隊を当て、南には勇の部隊と同様の編成で、足止め兼撃退の部隊を配置をしなければならなくなった。
兵力を割く事に反対する騎士達はケリーに思い留まる様に言うが、ケリーはそれらの言葉を一切聞き入れず、策戦の詳細を詰めていく。
「北と南部隊は、イサムの策戦通りに敵部隊を建物の下敷きにした後、正面からの戦闘は極力避けながら、主要の道は建物を倒壊させ道を塞げ。騎兵が入り込みづらい状況を作り、細かい路地裏などは、こちらの逃走経路として利用する。あるいは、一対一の状況を作り、敵兵を討ち取れ。街の地理はこちらが断然に有利だ。その事実を最大限に利用し、北と南からの敵部隊を街の中央に近寄らせるな。それから、街を回り込んで背後から強襲される可能性も考慮し、中央部隊の背後は建物の瓦礫で封鎖する。中央部隊は正面からの敵に集中し、なるだけ多くの敵兵を討ち取れ。最後に、どの部隊が転んでも、この戦闘の後に未来は無い。全騎士団員の死力を尽くした防衛を期待する!」
ケリーの最後の一言を受け、反対していた騎士を含めて全員が背筋を伸ばし敬礼で返答した。
そして、策戦準備に動き出して行った。
その中に勇も混ざり込み、ケリーに渡された二百の兵の元へ向かっていく。
戦闘準備を開始して一時間後。
勇の元にケリーの直属の部下の一人が現れた。
「カジロ様。ケリー中佐より、部隊牽引許可の書類に署名しろとの指示がありました」
少し戸惑った様子で言われ、勇は顔を顰めながら書類に目を落とした。
内容をざっと確認し、勇は呟く。
「……要は、部隊長任命書類か」
「は、はい。こちらに署名を……」
そう言いながら、部下は勇にインクと羽ペンを差し出す。
羽ペンを受け取った勇はアロウティの言葉、メセアで自分の名前を書き込んだ。
「わ……メセア、お上手です」
「そうか……?」
「はい!」
屈託なく誉められ勇は照れ臭くなって目を逸らす。
こちらの文字はカトレアに教えられたが、最初の内は全てが日本語の様に読める事が却って厄介だった。
自分が正しいメセアを書けているのか確認のしようが無かった為である。
自分は日本語を書いているつもりなのに、カトレアはそれをあっさりと読んでしまうし、
自分もカトレアが書く文字は全て読めてしまったからだ。
故にメセアを習得するのに苦労した。今もまだ、自信は無い。
「これで良いか? 急いでケリーこ……中佐に渡してきてくれ」
戦闘開始まで余り時間が無い。早々にケリーに承認して貰わなければ。
そう思い、急いで部下を送り出そうとしたが、部下は困った様子を見せながら言った。
「じ、実は、こちらの書類にもカジロ様の署名が必要でして……」
そう言いながら、部下は一枚目の書類の下から別の書類をぺらりと見せた。
「こっちの書類は何だ?」
内容を確認しようと勇が手を伸ばすと、部下は慌てて羽ペンを勇の目の前に差し出した。
「似た様な書類です! 二枚ありますので、急ぎ署名をお願いします!」
「……は?」
一枚目の書類の他に、後二枚もある事に勇は怪訝とした顔をする。
妙に慌てた様子の部下に怪しさを感じたものの、勇は時間が差し迫って来ている事もあって、仕方なく署名をした。
「ありがとうございます!」
勇の署名を受け取れた事に安堵して部下は微笑んだ。
その顔を見ると、更に嫌な予感が膨らむ。
「……碌でも無い書類の類だったら、後で破りに行くと中佐に言っておけ」
「……。は、はい。了解しました……」
勇の警告を受け、部下は顔を青くさせながら書類を持って屋敷の方へ走って行った。
ケリーが悪巧みする時の嫌な笑顔を思い浮かべながら勇は辟易した。
「まぁ、こんな大事な時まで、ふざけた事は流石にしないだろう……」
自分の予感が杞憂である事を願いながら、勇は気を引き締めて街の北へ二百の兵と共に向かった。
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