17.晩餐会への招待状
首都アルベロに到着して直ぐ、一行は首都に構えてあるケリー侯爵家の別邸へ入る。
随分と古くなった別邸を前にして、勇は顔をしかめた。
「仮にも侯爵家の別邸だって言うのに……」
何でこんなにボロ屋に見えるんだ。
最後までは言わなかったものの、ぼそっと勇が言うのを聞いて、カトレアは察して馬車から降りて答えた。
「ここはあまり利用されていないのよ。かと言って、取り壊すとそれはそれで不便だから」
疑問を悟られたのを気不味く思いながら、勇はカトレアに手を差し出す。
差し出された手を見て、カトレアは目を見開いて驚く。
これまで勇は所謂〝紳士〟らしい行動を一切してこなかった。
女性の手を取って、付き添う真似など以ての外だ。
いつまでも手を置かないカトレアを見て、勇はバツが悪そうにして手を引っ込める。
「……悪かったな。らしくない事をして」
むすっとしながら勇はカトレアに背を向けた。
「ごめんなさい。私が少し驚いてしまっただけで、イサムは悪くないわ」
急いでカトレアが弁明すると、勇は嘲笑して言う。
「いい。俺自身、こう言う事に不慣れなのは自覚してる」
そう言いながらも、それらしい事をしようとしたのは、勇なりに馴染もうとしたからなのだろう。
「イサム……――」
カトレアはその努力を察して、言葉を掛けようとした。
「お帰りなさいませ。カトレアお嬢様」
しかし、燕尾服を着た若い男に声を掛けられ、言葉は途切れてしまう。
頭を下げて出迎えに来た男を見て、カトレアは言う。
「……フレディ。久しぶりね」
「はい」
カトレアの言葉に対し、別邸の管理を行っている執事長のフレディは柔らかく笑った。
フレディの顔を見て、勇は既視感を覚える。
既視感の正体を確かめるべく、じっとフレディを見ていると。
「カジロ様。いらっしゃいませ」
フレディと目が合った途端、そう挨拶され勇は目を丸くした。
「俺の事を知ってるのか?」
「はい。旦那様より伝え聞いております」
フレディの答えを聞き、勇はケリーがどの様にフレディに伝えたのか勘繰った。
大袈裟に色々と教え込まれてそうだな……。
そう思いながら苦笑していると、カトレアが言う。
「イサム。フレディは、本邸の執事長であるエディの息子よ」
カトレアの説明を受け、勇は再度じっとフレディを見ながら、本邸の執事長エディの顔を思い浮かべる。
目の前にあるフレディの顔は、エディの顔を若返らせたと言っても差し支えない程、似ていた。
「……あぁ! 道理で既視感があると思った」
納得のいった勇がそう声を上げると、フレディは微笑んで言う。
「父からもカジロ様の事は聞き及んでおります」
にこにことするフレディに対し、勇は本邸での自分の態度を思い出して目を逸らす。
「……そりゃ、さぞかし扱いにくい男だと教えられたんだろうな」
本邸の執事長であり、フレディの父であるエディの事は散々振り回した覚えがあるからだ。
今でこそ悪かったと思えるが、当時は周りは敵だらけだと思い込んでいただけに周囲の人間には酷い態度を取り続けていた。
当然、善くは思われていないだろう。と思いながら顔を勇はしかめる。
すると。
「いえ。立派な方であるため、充分な敬意と払う様に……と言われております」
微笑むフレディの口から意外な事を告げられて、勇は目を丸くして口を閉ざす。
その後、カトレアと勇はフレディの案内で別邸の中へ通された。
他の護衛人員と同様に、別邸の使用人達と同じ宿舎に泊まるつもりだった勇だったが、半ば強引に屋敷内の客室に案内された。
本邸での扱いと何ら変わりない様にと、言われているのかもしれないと思った勇は抵抗せず受け入れる事にした。
別邸に到着してから少しして、通された客室で一休憩していた勇にフレディが扉の向こうから呼びかけてきた。
「お休みの所、申し訳ありません。カトレアお嬢様が談話室にてお呼びです」
「分かった。今行く」
要件を伝えられた勇はフレディの案内で、急ぎ談話室へ向かった。
フレディの先導で談話室に入ると、何やら手紙を読んでいるカトレアが目に入る。
「どうした?」
短く要件を問うとカトレアは手に持っていた手紙を勇に差し出して言う。
「アーノルド皇太子殿下から、晩餐会への招待状が届いたわ」
「……え?」
カトレアの言う内容を怪訝に思いながら勇は手紙を読む。
宛先はカトレア・ケリー。
しかし、手紙の内容には必ず勇と共に登城するようにと書かれていた。
手紙の内容に違和感を覚え、勇は顔をしかめる。
「私宛にして下さったのが、せめてもの気遣いでしょうね」
カトレアの率直な意見を聞き、勇は益々顔をしかめて不満に思う。
勇が覚えた違和感の正体は、カトレア宛にも関わらず、
手紙の内容からはカトレアが勇のおまけの様に読み取れるからだった。
「断るわけにはいかないのか」
「ただの侯爵令嬢が皇太子殿下のお誘いをお断りするなんて、出来る訳ないでしょう」
本人よりも不満を漏らす勇に対し、カトレアは実に淡々とした態度で返した。
出発予定日は五日後。晩餐会の日程は明後日の夜。
ジアンダ領に向かう準備をしながら、カトレアと勇は皇城で行われる晩餐会に参加せざるを得なくなった。
その事実を仕方なく受け止めながら、勇はアーノルドに文句を言いたくなる。
たかが一介の軍人ごときを、侯爵令嬢より優先させるとは何事か、と。
そんな不満を抱えながら勇は晩餐会が行われる当日を迎えた。
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